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EP 21

莫大な黒字決算と、終わらないSクラスの狂騒

秋の爽やかな風が吹き抜けるポポロ村の入り口。

ルナミス学園へ帰還するSクラスの一行を乗せた三台の大型馬車の前には、村人たちと三大国の駐留兵士たちが総出で見送りに集まっていた。

「リアン殿! この度のご恩、ポポロ村一同、決して忘れませんぞ! 村の財政もこれで大助かりじゃ!」

長老が涙ぐみながら、リアンの手を固く握りしめる。

「ああ。来月には第一陣の売上(四割)を学園経由で送金する。今後のメロロンの卸売ルートも俺が責任を持って管理するから、村の連中には安全な栽培だけを徹底させてくれ」

リアンは前世の敏腕経営者のような笑みを浮かべ、長老と固い握手を交わした。

一方、その後方では。

「キャルル姐さァァン! 来月の満月も、俺たちのおメンタルを叩きに来てくだせェェッ!!」

「姐さんの安全靴の感触、一生忘れませんッ!!」

屈強な兵士たちが、地面に額を擦りつけて号泣しながら、月兎族の少女を見送っていた。

「ふふっ、みんな元気でね! お仕事、ちゃんと頑張るんだよー!」

キャルルがお手製の人参柄ハンカチを振りながら、純真無垢な笑顔で応える。その後ろで、ルナが「皆様、内臓が破裂したらいつでも呼んでくださいませ♡」と物騒な営業をかけていた。

「よし、荷物の積み込みは完了したな。……おい、そこの不良債権コンビ。出発するぞ」

リアンが声をかけると、馬車の御者台に座っていたクラウスとダイヤが、ビクッと肩を跳ねさせた。

「あ、あぁ……分かっている。馬車の護衛と運転は、僕に任せておけ……」

「安全第一で帝都までお届けします、リアン社長……っ」

全身包帯まみれのミイラ姿のまま、完全に生気を失った目で手綱を握る侯爵家嫡男と、Sランク戦乙女。

彼らの弱み(メロンに対する限界甘え腐り黒歴史)を完全に握ったリアンの前では、もはや逆らうことなど不可能だった。少しでも文句を言おうものなら、「おっ、メロンのジュース飲むか?」「プリンスに会いたいのか?」という魔法の呪文で、一瞬にして羞恥のどん底に叩き落とされるからだ。

「出発!」

リアンの号令と共に、馬車は豊穣の地・ポポロ村を後にし、帝都へと向かう街道を走り出した。

* * *

数日後。ルナミス帝国の首都、帝都アヴァロンの裏通りにある、知る人ぞ知る超高級食材の闇取引所。

分厚いオーク材のテーブルの上に、リアンが持ち込んだ『氷温保存ボックス』が置かれていた。

「——信じられん。これは……奇跡の代物だ」

片眼鏡をかけた初老の闇商人が、震える手でルーペを覗き込み、驚愕の声を上げた。

「魔の果実『メロロン』……。これを安全な食材として市場に出すには、チャーム成分の詰まった中心のワタと種を、果肉に一ミリの傷もつけずに抉り出す『神の技術』が必要となる。だというのに、このカットされた果肉の断面はどうだ。細胞の一つ一つが全く潰れておらず、甘みと鮮度が極限まで保たれている……! い、一体どの国の宮廷料理人がこれを解体したんだ!?」

「企業秘密だ。で、いくらで買い取る?」

リアンは深くフードを被り、声色を変えて冷徹に交渉のテーブルについた。

商人はゴクリと唾を飲み、全財産を差し出すような覚悟の顔で告げた。

「……白金貨五十枚。いや、即金で『白金貨六十枚』出そう! これでも安いくらいだ!」

(白金貨六十枚……! 日本円にして、ざっと六千万円の特大黒字だ!!)

リアンの脳内で、歓喜のファンファーレが鳴り響いた。

ポポロ村への配分(四割)を差し引いても、Sクラスの手元には三千六百万円という莫大な「内部留保」が残る。九歳の子供が、たった一週間の課外授業で稼ぎ出す金額としては異常であった。

「……商談成立だ」

リアンは冷静を装いながら、ずっしりと重い金貨の詰まった革袋を受け取った。

(これで当面の活動資金は完全に確保した! 少なくとも、金がなくて俺が『自動販売機』に改造されて売り飛ばされるバッドエンドだけは回避できる!)

* * *

さらに数日後。

ルナミス学園の片隅、旧用具室(タコ部屋)。

「さあ、Sクラス第一回『ポポロ村収穫事業』の利益分配と、決算報告を行う」

テーブルの上に、山のように積まれた金貨の束。

それを見たタコ部屋の面々は、それぞれの反応を示した。

「き、金貨ですわーッ!!」

リーザが目を『$』の形にして、金貨の山にダイブしようとしたが、リアンが容赦なくハリセンで叩き落とした。

「触るなバカ魚。これはお前の小遣いじゃない、クラスの『会社ファンド資金』だ」

「ねえリアン、これだけお金があるなら、新しい魔導式サブマシンガンと、特殊徹甲弾を千発ほど経費で落としても——」

「却下だ。お前の弾薬代は利益率が悪すぎる。大体、お前は戦闘の途中で武器を捨ててメロンに抱きついたんだから、武器なんて必要ないだろ?」

「うぐっ……! そ、それは言うなと約束しただろう……ッ!」

ダイヤが顔を真っ赤にしてテーブルに突っ伏す。

「まあ♡ これだけ資金があれば、闇市場で新鮮な臓器を買い占めて、私のお友達(毒草)の肥料にできますわね!」

「ルナ、お前は一回倫理観というものを学べ。絶対に資金は渡さん」

リアンは次々と不良債権たちの無茶な要求を却下し、冷徹に帳簿にペンを走らせる。

「いいか、この金は今後の野外演習の装備拡充、ポーションの備蓄、そして何より『お前らがやらかした時の賠償金』として厳重に保管する。一円たりとも無駄遣いは許さない!」

リアンの徹底した簿記一級の経営方針に、クラスメイトたちは「えぇーっ」とブーイングを飛ばした。

しかし、リアンはニヤリと笑い、テーブルの下から『別の箱』を取り出した。

「だがまあ……今回の事業ミッションは、お前らの労働力がなければ成立しなかったのも事実だ。……特別ボーナス(現物支給)だ」

箱を開けると、中から漂ってきたのは、食欲を暴力的に刺激する凄まじいスパイスと肉の香りだった。

「帝都の三ツ星レストランの裏口から直輸入した『最高級レッドドラゴンの霜降り肉』だ。俺の特製ダレで漬け込んである。……今日はこれで、タコ部屋特製・焼き肉パーティーにしてやる」

「「「うおおおおおおおおッ!!」」」

タコ部屋の空気が、一瞬にして爆発的な歓喜に包まれた。

「肉! 肉ですわーッ!! メロンも良かったですけど、やっぱり高カロリーの肉こそアイドルのガソリンですわーッ!!」

リーザがよだれを撒き散らしながら七輪の準備を始める。

「やったぁ! リアンくんのご飯、大好きなんだ!」

キャルルが無邪気に笑い、ルナも「まあ♡ では、お肉に合う特別なキノコを添えましょうか?」と毒キノコを取り出そうとしてリアンに止められている。

「……ふっ。僕としたことが、肉の匂いごときで心が躍るとはな。だが、共に死線を潜り抜けた仲間と食卓を囲むのも、また貴族の嗜みというものだ」

クラウスが、包帯を解かれた顔で、どこか誇らしげに腕を組んで語る。

「おいクラウス。肉を食う時はちゃんと『僕、えらいかなぁ?』って言いながら食えよ?」

「ぐはぁッ!?」

リアンの一言で、クラウスの気高いプライドは再び致命傷を負い、その場に崩れ落ちた。

「ふははっ! お前は本当に容赦がないな、リアン!」

ダイヤが肉を焼きながら、豪快に笑う。

「だが、悪くない。貧乏なサバイバル生活も良いが、こうして美味いものを食いながら笑えるのも……お前が束ねるこのSクラスの特権だな」

紅蓮の戦乙女が、かつての鬼教官の顔でも、限界夢女子の顔でもない、一人の『仲間』としての心からの笑顔を向けてきた。

「……まぁ、悪くない投資先だよ。お前らは」

リアンは七輪の煙から目を逸らすように、フッと口角を上げた。

最強の武力を持つ戦闘狂の貴族。

コンプラ無視のヤンデレエルフ。

物理で顎を砕く純真なウサギ。

底なしの強欲を持つ極貧人魚。

そして、メロンに初恋を捧げたSランクのポンコツ教師。

(こいつらは間違いなく、ルナミス帝国史上最悪の『不良債権』の集まりだ。だが……扱い方さえ間違えなければ、これほど頼もしい資産アセットもない)

「ほら、焼けたぞ! リーザ、焦げる前に食え! ルナ、そのキノコは捨てるって言っただろ!」

「リアン! 私の分の肉も追加だ!」

「僕にも! 僕にも肉をくれぇ!」

タコ部屋に響き渡る、けたたましくも温かい騒乱の声。

リアン・シンフォニアの前世の知識と冷徹な損益計算は、これからもこの規格外の仲間たちと共に、あらゆる不条理な運命を「黒字」へと塗り替えていくのだろう。

『ポポロ村収穫祭編』——特大の利益と、消えない黒歴史を残して、堂々たるハッピーエンド(決算完了)である。

読んでいただきありがとうございます。

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