表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
208/239

EP 17

絶対捕食者アイドル降臨と、大収穫祭という名の蹂躙

『——どいてくださいませええええええええッ!!』

防音結界が張られたメロロン畑の西区画。

限界夢女子と化したダイヤ・マーキスと、限界キャバクラおじさんと化したクラウス・アルヴィンという二大戦力が完全に無力化され、リアンが頭を抱えていたその時。

背後の葉のカーテンを物理的にぶち破り、極貧地下アイドルの人魚姫・リーザが弾丸のような速度で突っ込んできた。

「果物……! 甘い、甘い高級フルーツが……そこにありますわねぇぇ!!」

芋ジャージの胸元には大量によだれが染み込み、その瞳は完全に血走り、獲物を狙うサメのそれへと変貌している。

彼女の脳内には『無料タダで食べられるご馳走』という計算式しか存在せず、Sランク戦士すら陥落させる魔の果実のチャームなど、入り込む隙間は一ミリたりともなかった。

その異様な闖入者に、ダイヤをツルの中に抱いていた『プリンスメロロン』が怪訝そうに果実を揺らした。

『……なんだい、騒々しいお姫様だ。だが、君の瞳の奥にも深い飢えが見える。君も、僕の愛で満たして——』

「愛じゃ腹は膨れませんわ!! カロリーを! 糖分と果汁をよこしなさい!!」

『えっ』

プリンスメロロンの甘いイケメンボイスを、リーザは食い気味の絶叫で物理的にかき消した。

さらに、東区画からクラウスを侍らせて様子を見に来た『クイーンメロロン』も、リーザに向かって母性たっぷりの声を投げかける。

『まあ……そんなにガツガツして、可哀想に。毎日貧乏で辛かったのね。私がいっぱい甘やかしてあげるから、こっちへいらっしゃ——』

「同情するなら現物メロンをくださいませ!! 貴方たち、市場に出せば一つ金貨数十枚は下らない超高級食材ですわね!? 私の胃袋という名のVIP席にご案内してさしあげますわ!!」

『……えっ? いえ、私たちは果肉じゃなくて、ジュースで君を依存させて……』

「ジュースより果肉ですわ!!」

リーザは愛用の『みかん箱』を地面に叩きつけるように置き、その上に勢いよく飛び乗った。

手にはマイク代わりの太い木の枝。健康サンダルがリズムを刻む。

「さあ! 私のディナータイム(オンステージ)の始まりですわ!!」

リーザが大きく息を吸い込み、ポポロ村のビニールハウス中に響き渡る大音量で、持ち歌である『Love & Money』を熱唱し始めた。

「株券欲しい♪ お城も欲しい♪(Buy Now! Buy Now!) 貴方の愛(と果肉)で輝いていける~!」

人魚族の王族に伝わる、魔力を乗せた音波攻撃。

しかも今回の歌には、彼女の二十年間(前世含め)の「貧困への恨み」と「高級食材への底なしの強欲」が120パーセントの出力で込められていた。

ビリビリビリッ!!

リーザの歌声から放たれる『強欲のオーラ』が、メロロンたちが展開していた甘く妖艶なチャーム空間を、文字通り物理的な衝撃波として粉砕していく。

「す、すげぇ……」

結界の外から見ていたリアンが、戦慄と共に目を剥いた。

精神攻撃チャームの波動を、それより遥かに純度の高い『食欲(マズローの欲求の最底辺)』で上書きして相殺しやがった! あのバカ魚、ついに生態系の頂点に立ちやがったぞ!!」

「えへへ、リーザちゃんのライブ、今日も大盛り上がりだね!」

「森のお友達も、リーザちゃんの食欲にはドン引き……いえ、感心しておりますわ♡」

キャルルとルナがペンライト代わりに毒草を振り回して応援する。

一方、チャームの空間が破壊されたことで、魔法にかけられていたクラウスとダイヤの脳内に、急速に「正気」が戻り始めていた。

「ハッ……! ぼ、僕は一体何を……?」

クラウスが涙で濡れた顔を上げ、呆然と周囲を見渡す。

「あ、あれ……? プリンス……? 私、なんで武器を捨てて、メロンに抱きついて……?」

ダイヤもまた、真っ赤になった顔のまま、自分の置かれている状況(果物に壁ドンされている)に気づき、小刻みに震え出した。

だが、二人が完全に我に返るよりも早く、絶対捕食者の蹂躙が始まった。

「いただきまぁぁぁぁす!!」

みかん箱から跳躍したリーザが、プリンスメロロンの太いツルをガシッと掴み、凄まじい馬鹿力で地面から引っこ抜いたのだ。

『なっ!? やめ、やめろ! 僕のスマートなツルが千切れる!』

イケメンボイスで悲鳴を上げるプリンスメロロン。

「スマートなのは私の財布の中身だけで十分ですわ!! オラァッ!!」

ブチブチブチッ!!

リーザはプリンスメロロンの果皮に躊躇なく齧り付き、そのエメラルドグリーンの果肉を野獣のように貪り食い始めた。

『ぎゃあああああああッ!! ボ、僕の美しいフォルムがああああっ!!』

「美味しい! 美味しいですわ!! 溢れ出る果汁! とろけるような甘み! これぞ勝者の味ですわー!!」

「プ、プリンスゥゥゥ!?」

ダイヤが目玉が飛び出るほど驚愕し、絶叫した。自分がたった数秒前まで「一生ついていく」と誓い、愛を語り合っていた超絶イケメン(メロン)が、芋ジャージの少女にムシャムシャと咀嚼されているのだ。あまりのショックと絵面の酷さに、ダイヤは白目を剥いて硬直した。

さらにリーザの蹂躙は止まらない。

「次はそこのお母さま(クイーン)ですわね!!」

『ひ、ひぃぃぃっ!? こないで、来ないでぇ! 私のジュースをあげるから、どうか命だけは……!』

クイーンメロロンが震え上がり、クラウスの背後に隠れようとする。

「ジュースは食後のデザートにいただきますわ!!」

リーザはクラウスをボウリングのピンのように蹴り飛ばし、クイーンメロロンを鷲掴みにした。

「ああっ!? ぼ、僕の癒やし(メロロン)が……!!」

地面を転がったクラウスが、伸ばした手の先で、クイーンメロロンが真っ二つに割られ、リーザの胃袋へと消えていくのを目撃した。

『いやああああ……誰か、誰か助け……ガクッ』

「ごちそうさまでした!! さあ、次はどこのベビーメロロンから食べてさしあげましょうか!?」

口の周りを果汁でベタベタにしたリーザが、血走った目でハウス中のメロンをギロリと睨みつける。

『『『ヒィィィィィィィッ!! バケモノだぁぁぁぁぁっ!!』』』

先ほどまで甘い声で人間をたぶらかしていた魔の果実たちが、本物の恐怖に顔(果皮)を歪め、ツルを器用に使ってビニールハウスの隅へと蜘蛛の子を散らすように逃げ惑い始めた。

「待ちなさい! 一個たりとも逃しませんわよ!! 金貨! 私の金貨ぁぁぁ!!」

リーザが奇声を上げながら、逃げ惑うメロンたちを片っ端から捕獲し、次々と物理的に引っこ抜いていく。

もはやそこにあるのは、魔の果実による精神汚染の脅威ではない。ただの「飢えた猛獣による収穫(という名の捕食)風景」であった。

「……よし。チャームの脅威は完全に去ったな」

防音結界を解除し、リアンが悠然とハウスの中へと足を踏み入れた。

「リアンくん……あの、リーザちゃんがメロロンを絶滅させちゃう前に、止めた方がいいんじゃないかな……?」

キャルルが苦笑いしながら尋ねるが、リアンはバックパック型の魔法ポーチを下ろし、中から愛用の『三ツ星シェフの包丁セット』をカチャリと引き抜いた。

「いや、止める必要はない。むしろここからが俺の出番だ。……おい、リーザ! 食べるのは上位種の二個だけにしておけ! 残りは市場に流す商品アセットだ、傷をつけずに俺のところに持ってこい!」

「承知いたしましたわ!! シェフ、調理はお任せしますわよ!」

リーザが満面の笑みで、大量のメロロンを抱えてリアンのもとへ運んでくる。

「ふっ……魔の果実のチャーム成分は、中心の種の周囲に集中している。そこさえシェフの技術で完璧にくり抜けば、ただの極上フルーツだ。……さあ、不良債権の処理を終わらせて、特大の黒字フルーツパフェを精製してやるぜ!」

リアンは目にも留まらぬ包丁捌きで、リーザが運んできたメロロンを次々と安全な食材へと解体・加工していく。

その鮮やかな手つきは、完全に九歳の子供のそれではなく、数々の修羅場を潜り抜けてきた厨房の支配者の姿だった。

一方。

ハウスの隅では、完全にチャームから覚醒したクラウスとダイヤが、自分たちのしでかした『限界まで甘え腐った黒歴史』の記憶がフラッシュバックし、顔面を蒼白にしていた。

「ぼ、僕は……メロン相手に……『もっと褒めてよぉ』などと……っ!」

クラウスが頭を抱え、地面に膝をついてガクガクと震え出す。

「わ、私は……っ! 銃を捨てて、『一生ついていきますぅ♡』と……っ! メロンに、メロン相手に……っ! うあああああああッ!!」

ダイヤに至っては、あまりの羞恥に耐えきれず、自らの手で地面に穴を掘り、そこに頭を突っ込んで「殺せ! もう私を殺してくれ!!」と叫びながら悶絶していた。

「まあ♡ お二人とも、とっても素敵な笑顔でしたのに。残念ですわ」

ルナがクスクスと笑いながら、二人の黒歴史を容赦なく抉る。

圧倒的な武力を誇る若き将とSランクの戦乙女が、果物の誘惑の前に完全敗北を喫し。

そして、それを救ったのは、底なしの強欲と食欲を持つ極貧アイドルであった。

豊穣のポポロ村、秋の収穫祭。

リアンの冷徹な損益計算と、タコ部屋の規格外な乙女たちによって、メロロン畑の制圧(蹂躙)作戦は、大盛況のうちに幕を閉じたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ