表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
199/255

EP 8

レンジャー・ハンドブックの恐怖と、泥臭き遊撃手

『——ドゴォォォォンッ!!』

第七演習場の森に、耳をつんざくような爆音と強烈な閃光が轟いた。

開始数秒でリアンがワイヤーに触れたのを引き金に、周囲の木々に仕掛けられていた大量の『魔導式空砲トラップ』が連鎖起爆したのだ。

鼓膜を揺らす轟音と、視界を奪う濃密な土煙。並の生徒であれば、この一撃でパニックに陥り、身動きが取れなくなっていただろう。

「チッ……殺傷力のない空砲とはいえ、この密度と連鎖のタイミング。完全にゲリラ戦のプロの仕事だ!」

リアンは悪態をつきながら、背負っていたバックパック型の魔法ポーチに手を突っ込んだ。

リアンの戦闘スタイルは、騎士上がりで力押しの父アークスや、高火力魔法をぶっ放す母マーサとは全く異なる。

彼が自らに課した戦術は、極限までコスト(リスク)を削り、相手の嫌がることを徹底的に押し付ける『泥臭き遊撃手レンジャー』のスタイルだ。

リアンはポーチから小ぶりな『ショートボウ』を引き抜き、矢番えの手つきも鮮やかに、煙の向こう側——殺気が放たれた茂みへ向けて牽制の矢を三連射した。

ヒュッ、ヒュンッ!

「甘いな、リアン!」

煙を切り裂き、紅蓮の戦乙女・ダイヤ・マーキスが躍り出た。

彼女の手には、鈍い光を放つ『魔導式サブマシンガン』が握られている。ウェポンズマスターの力で完全に制御されたフルオートの銃撃が、リアンとクラウスを薙ぎ払うように放たれた。

「『ライトニング・シールド』!」

クラウスが咄嗟に前に出て、剣に雷魔法を這わせた電磁防壁を展開する。魔力弾がシールドに弾かれ、火花を散らした。

「流石はアルヴィン家の嫡男、良い反応だ! だが、上はどうだ?」

ダイヤが銃を撃ちながら、流れるような動作で木々の幹を蹴り上がり、頭上の死角へと回り込む。

「させねぇよ!」

リアンは腰のベルトから『鉤爪ロープ』を抜き放ち、ダイヤが移動しようとしていた太い枝へ向けて投擲した。ガキンッ!と鉤爪が枝に食い込む。

そのままロープを支点にして自身の体を振り子のように空中へ跳ね上げ、ダイヤの射線を強引にずらした。

「ほう、立体機動か! ならばこれはどうだ!」

ダイヤは空中でサブマシンガンを投げ捨て(後で拾うつもりだ)、背中の『天魔竜聖剣』を鞘ごと引き抜き、リアンへ向けて凄まじい速度で突進してきた。

距離が詰まる。このまま近接戦に持ち込まれれば、Sランクのダイヤに力負けするのは目に見えている。

近接インファイトに付き合う義理はねぇ!」

リアンは空中でショートボウから手を離し、両手で同時に三本の『投げナイフ』を投擲。さらに、ポーチから取り出した『滑りやすい油』の小瓶をダイヤの足元になるであろう枝へ向けて叩き割った。

「ぬっ!」

ナイフを鞘で弾いたダイヤだったが、着地しようとした枝が油でツルツルにコーティングされていたため、僅かに体勢を崩した。

「クラウス、今だ!」

「承知したッ! 『ライトニング・ブレイク』!!」

ダイヤの体勢が崩れたコンマ一秒の隙を突き、地上からクラウスが雷光の如き踏み込みで跳躍し、必殺の雷剣を振り下ろす。

ガァァァンッ!!

凄まじい金属音が森に響き渡る。ダイヤは滑る足場に立ちながらも、天魔竜聖剣の鞘でクラウスの渾身の一撃を完璧に受け止めていた。

「見事な踏み込みだ、クラウス! だが、実戦の泥臭さが足りないな!」

ダイヤの紅蓮のブーツのつま先から、隠し持っていた暗器ナイフが飛び出す。防御の姿勢から一転、クラウスの腹部を狙ったえげつない蹴りが放たれた。

「くっ……!」

クラウスが雷魔法の反発力を使って辛うじて後方へ飛び退く。

その間に、リアンは地上へ着地し、次なるトラップを高速で展開していた。

ダイヤが着地するであろう予測地点に『撒菱まきびし』をばら撒き、さらに『網』をセットする。

「小賢しい罠を! そんなものが私に通じる——」

ダイヤが空から降り立ち、撒菱を避けて着地しようとした瞬間。

「『喰丸』、頼んだ!」

リアンの影から、三十センチほどの異次元ワーム『喰丸』がニュルリと飛び出した。喰丸はダイヤの着地地点の土を、一瞬にしてすり鉢状に「捕食イーター」した。

地面が突然抉り取られ、即席の『落とし穴』が出現する。

「なっ!? 地形ごと食っただと!?」

これには流石のダイヤも意表を突かれ、落とし穴に足を取られてバランスを崩した。

(ここだ。今が最大の損益分岐点チャンス!)

リアンは前世の料理人としての直感で「最高の焼き加減」のタイミングを見極めた。

「自然魔法——『バインド・ルーツ』!」

リアンが地面に手を突くと、抉れた穴の底から太い木の根が急成長し、ダイヤの紅蓮のブーツに絡みついてその動きを強引に拘束した。

「ちぃっ! 生意気な真似を……!」

ダイヤが剛力で木の根を引きちぎろうとする。

「まだだ! フルコースのメインディッシュを食らえ!」

リアンはすかさず『燃えやすい油』の入った瓶をダイヤの足元へ投げつけ、瓶が割れて油が飛散した瞬間に、ショートボウに矢を番えた。

矢尻に高密度の炎魔法と闘気を収束させる。

「『フレイム・アロー』!!」

放たれた一本の矢が、引火性の油と混ざり合い、凄まじい爆発と業火の渦を引き起こした。

ゴォォォォォォッ!!

森の一部を焼き尽くすほどの爆炎が、拘束されたダイヤを完全に飲み込む。

「やったか!?」

クラウスが額の汗を拭いながら叫ぶ。

しかし、リアンは油断なく『ショートソード』を抜き放ち、姿勢を低く保っていた。

「バカ、フラグを立てるな! あの人がこの程度で——」

ドンッ!!

炎の渦の中から、凄まじい闘気の衝撃波が放たれ、業火が文字通り「吹き飛ばされた」。

そこには、全身のクリムゾンアーマーから微かに煙を上げながらも、無傷で立つダイヤ・マーキスの姿があった。彼女の周囲だけ、炎魔法が不可視の壁に弾かれたように円形に消え去っている。

「……マジックバックラーの出力全開、かよ。固定費(魔石代)の無駄遣いしやがって……」

リアンが忌々しそうに舌打ちをする。

ダイヤは自身のアーマーについた煤をパンパンと払いながら、ニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。

「弓、投げナイフ、鉤爪による立体機動、油と撒菱を使った盤面制圧……。それに自然魔法の拘束と炎魔法のコンボ。ふふっ、見事だリアン。まるで本職の暗殺者か、熟練のレンジャー部隊のような見事な遊撃戦術いやがらせだったぞ」

ダイヤはチャキ、と天魔竜聖剣の鯉口を切った。

その刀身から、先ほどのリアンの比ではない、圧倒的な高熱の炎魔法と闘気が立ち昇り始める。

「だが、お前たちは『本隊から私を引き剥がす』という目的には成功したが……『私を怒らせた』という重大なコストを計算に入れ忘れているようだな」

周囲の空気が、ダイヤの闘気によって陽炎のように歪む。

「さて。ここからは特別授業だ。本当の『レンジャー・ハンドブック』の実戦編を、その体に刻み込んでやる!!」

紅蓮の戦乙女が、本気(Sランク)の殺気を解き放った。

「……クラウス。死ぬ気で防御しろ。一秒でも長く生き残るのが、俺たち囮の仕事だ」

「あ、あぁ……! 望むところだ!」

リアンはショートソードと投げナイフを構え直し、クラウスは雷の防壁を最大出力に引き上げる。

若き将たちのプライドと、一切の妥協を知らない教師による、泥沼の遊撃戦が幕を開けた。

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、★評価やブックマークで応援していただけると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ