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EP 30

コンプライアンス違反と、終わりの金属音(様式美)

「チャリン、チャリン……ジャラララララッ!!」

ルナミス魔法学園のはずれ。

薄暗かったはずのプレハブ交番は今、神々しいまでの黄金色に照らされていた。

机の上にうずたかく積まれた、莫大な量の銀貨と金貨。タローソン弁当の爆発的なヒットにより、購買部の店長から『仲介手数料ピンハネ』として上納された、第一回目の売上金である。

「はーっはっはっは!! 見ろよお前ら! これが権力ポリスを使ったビジネスの力だ!」

リアン・シンフォニアは、金貨の山を両手ですくい上げ、頬ずりしながら狂喜乱舞していた。

「労働時間ゼロ! リスクもゼロ! ただ交番で息をしているだけで、チャリンチャリンと不労所得が雪崩れ込んでくる! これこそが俺の求めていた『アーリーリタイアへの完全なるレール』だ!!」

「すごいよリアン君! これなら私、一生遊んで暮らせるね! 可愛いお洋服いっぱい買っちゃお!★」

婦警コスプレのルナが、銀貨の山で無邪気に水遊び(金遊び)をしている。

「ふへへへ……これで、帝都の地下迷宮でしか手に入らない、特注のミスリル製安全靴(限定モデル)が買えますぅ……。あぁ、金銭の匂い……たまりません……」

キャルルが白衣のポケットに銀貨を詰め込みながら、怪しく笑う。

「むぐむぐ……! お金も最高だけど、タローソンの高級から揚げが毎日食べ放題なのが一番幸せ……!」

疑惑の政治家から完全に『ただの食いしん坊』へと戻ったリーザが、両手にから揚げ弁当を持って至福の表情を浮かべている。

そして、エリート刑事であるはずのクラウスもまた、純白のトレンチコートの襟を正し、優雅にコーヒーカップ(中身は最高級の紅茶)を傾けていた。

「フッ……。治安維持という大義名分のもと、法と経済の隙間を突いて莫大な富を築く。これぞまさに、裏社会を牛耳る侯爵家の『ダークヒーロー』の流儀。……リアン、君という不良刑事と組んだ甲げがあったよ」

(※ただの職権乱用と癒着ビジネスである)

全員が完全に調子に乗り、欲望の沼にどっぷりと浸かっていた。

「これで俺たちの交番ビジネスは盤石だ! 次は学園食堂の仕入れルートにも警察権力で介入して、さらにデカいシノギを……」

リアンが、インテリヤクザを通り越して悪の組織のボスのようなどす黒い計画を語り始めた、まさにその時だった。

コンコン。

軋むプレハブ交番のガラス戸が、静かにノックされた。

「ん? 誰だ? 迷子のお知らせなら民事不介入だ、帰れ帰れ」

リアンが面倒くさそうに手を振る。

ガラリ。

開かれた扉の向こうに立っていたのは、迷子でも一般生徒でもなかった。

銀縁の眼鏡を冷たく光らせ、分厚いバインダーを小脇に抱えた、生徒会会計の『カトレア』である。

「……随分と景気が良さそうですね、1年S組の皆さん」

プレハブ小屋の気温が、一瞬にして氷点下まで下がった。

「げっ、生徒会!? な、なんだよ! 今は俺たちの休憩時間だぞ! ちゃんと時給分は座ってパトロール(※新聞を読んでいただけ)してたからな!」

リアンが慌てて机の上の金貨を隠そうと背中で覆い隠す。

だが、カトレアの冷徹な視線は、すでに山積みの硬貨を完全にロックオンしていた。

彼女はバインダーをペラリと捲り、一切の感情を交えない事務的な声で告げた。

「本日は、あなた方の『勤務態度』および『業務上の重大な規約違反』について、監査に参りました」

「き、規約違反だぁ? 何のことかさっぱりわからねぇな!」

リアンが冷や汗を流しながらシラを切る。「なぁ、エリート刑事! 俺たち清廉潔白だよな!」

「フッ、当然だ。僕たちはタローソンの経営を救い、生徒たちの胃袋を満たし、ついでに店長の暴行事件を穏便に解決しただけだ。侯爵家の名にかけて、後ろ暗いことなど一切ない!」

クラウスが堂々と胸を張る。

「……なるほど。では、こちらの書類をご確認ください」

カトレアは、バインダーから一枚の『ルナミス魔法学園・風紀委員就業規則』のコピーを取り出し、リアンの目の前に突きつけた。

そこには、極太の赤線でアンダーラインが引かれていた。

『第18条:風紀委員(特別交番勤務を含む)は、公務員としての自覚を持ち、その職務・権限を利用して【私的な利益】を得ることを固く禁ずる(副業の禁止・癒着の禁止)』

『第19条:職権乱用による恐喝、および特定業者への利益誘導が発覚した場合、コンプライアンス違反として、不当に得た利益は【全額没収】の上、停学等の厳重処分とする』

「――――ッ!!?」

リアンとクラウスの動きが、彫像のようにピタリと停止した。

「購買部の店長から、生徒会宛てに内部告発がありました。『交番の連中に脅されて、弁当の売上の3割をピンハネされている』と」

カトレアが、眼鏡をクイッと押し上げる。

「な、あ、あのヤロォォォッ!! 売上が倍になって喜んでたくせに、裏で警察(俺たち)をチンコロ(密告)しやがったなァァァッ!!」

リアンが青筋を立てて絶叫する。

「お言葉ですが、公的権力を使った癒着ビジネスなど、最も初歩的なコンプライアンス違反です。あなた方は『風紀を取り締まる側』でありながら、学園で最も悪質なマフィア行為を行っていました」

カトレアは無慈悲に宣告した。

「よって、現在この交番内にある『不当利益(金貨および銀貨)』はすべて、生徒会が証拠品兼、罰金として【全額没収】いたします。さらに、あなた方の交番勤務は本日をもって『解雇クビ』、および明日からの三日間は『謹慎処分』とします」

「ざ、ふざけんなァァァッ!! 俺の不労所得が! 完璧な中抜きシステムがぁぁっ!!」

リアンが机の上に覆い被さり、金貨の山を必死に抱きかかえようとする。

だが、このタイミングで、リアンの視界の端に、あの『忌まわしいピンク色のシステムウィンドウ』がポップアップした。

『♪ルチアナからの神託メッセージ♪』

やっほーリアン君! 女神ルチアナだよ☆

今回の交番コント、神界のGod-Tubeでも大人気だったんだけど……プラットフォーム側から「悪徳警官による汚職の助長は、コミュニティガイドラインに違反する」って警告がきちゃった! てへぺろ!

コンプラ違反の動画は【収益化剥奪デモネタイズ】になっちゃうから、稼いだお金は全部神界に回収するね! 悪いことはしちゃダメだぞっ☆

「る、ルチアナァァァァァァッ!! お前もかァァァッ!!」

パァァァァァンッ!!

リアンが抱きしめていた金貨と銀貨の山が、女神の強制回収システム(とカトレアの魔法)によって、眩い光と共に虚空へと消え去った。

「あ、ああ……俺の、俺の金貨……俺のアーリーリタイア……」

数秒前まで黄金の輝きに包まれていたプレハブ交番は、再び埃っぽい四畳半の掃き溜めへと戻ってしまった。

「うわあああんっ! 私のタローソン食べ放題ライフがぁぁぁっ! また明日から野草生活に戻っちゃうよぉぉっ!!」

から揚げ弁当を取り上げられたリーザが、床に突っ伏して大号泣する。

「チッ……。まさか、巨悪を倒すダークヒーローの僕たちが、規約コンプライアンスという名の絶対的権力に敗北するとは……。国家権力の恐ろしさ、痛感したよ」

クラウスがトレンチコートの襟を立てながら、悔しそうに(でもどこか満足げに)ハードボイルドな台詞を吐く。

「ふへへ……私の限定安全靴が……幻に……」

キャルルが白衣を被ってうずくまる。

天才プロデューサーが権力を手にして始めた「完璧な癒着ビジネス」は、コンプライアンスという現代社会の最強の壁の前に、わずか数日で完全に崩壊したのである。

翌日の昼下がり。

ルナミス魔法学園、男子寮。

リアンの部屋のカーテンは固く閉め切られ、昼間だというのにどんよりと薄暗い。

ベッドの上では、一人の少年がまるで数千年前に埋葬されたミイラのように干からびていた。

「……金……俺の金貨……。権力……中抜き……ちくしょう……」

謹慎処分を食らい、全財産を失い、完全に振り出し(無一文)に戻ったリアン・シンフォニアである。

ガチャリ。

合鍵を使って、部屋の扉が勢いよく開かれた。

「リアンくーん! お昼だよー! いつまで寝てるのー!★」

元気いっぱいの声と共に侵入してきたのは、メインヒロインのルナである。

「…………」

リアンは反応しない。魂が抜けかけ、三途の川で中抜きビジネスの企画書を書こうとしている最中なのだ。

ルナはベッドの横に立ち、腕を組んでふーむと首を傾げた。

「だめだなぁ、リアン君。悪いことしてお金を没収されたくらいで落ち込んでちゃ! ここは私が、愛の力でパッチリお目覚めさせてあげないと!」

ルナは背中に隠し持っていた『アイテム』を取り出した。

底の深い【金属製の両手鍋(寸胴)】と、頑丈な【ステンレス製のお玉】。

第1話と全く同じ、完璧な様式美デジャヴの構えである。

「えいっ♪」

ルナは、死体のように眠るリアンの顔面に、その金属鍋をスッポリとかぶせた。

「ふがっ……!? ま、待てルナ、その感触、まさかまた……!」

リアンがパニックになって身をよじった、その瞬間。

ルナはお玉を大きく振りかぶり、渾身のフルスイングを放った。

カァァァァァァァァァァァンッ!!!!!!

「ぎぃにゃあああああああああぁぁぁぁぁぁッ!!!!??」

鼓膜を粉砕する絶望の目覚ましツッコミが、男子寮に爆音で鳴り響いた。

悪徳警官の夢から覚め、再びド底辺の学生生活へと叩き落とされたリアン。

彼の受難と、アーリーリタイアへの果てしない道のりは、まだまだ続く!

読んでいただきありがとうございます。

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