EP 29
悪徳警官の癒着ビジネスと、禁断のB級グルメ
「ウー! ウー! 悪徳ポリスのガサ入れでーす! そこの生徒たち、道をあけてねー!★」
ルナミス魔法学園、購買部。
大理石の床が敷き詰められ、高級食材やオーガニックランチを求める上級生たちで賑わうその優雅な空間に、ルナの間の抜けた口頭サイレンが響き渡った。
「なんだなんだ?」と道を開ける生徒たちの間を、トレンチコートを翻すクラウスと、インテリヤクザのような笑みを浮かべたリアンが堂々と歩いていく。その後ろには、鑑識のキャルルと、なぜか「被害者ヅラ」をしてふんぞり返っているリーザの姿があった。
「おお、交番の連中か。どうした、あの偽造金貨の詐欺犯に、きっちりカツ丼でも食わせて吐かせたか?」
惣菜コーナーの奥で、腕組みをして待ち構えていたのは、顔に傷のある筋骨隆々の店長(元・凄腕冒険者)だ。彼は、警察がわざわざリーザを連れて謝罪に来たのだと勘違いし、勝ち誇ったように鼻を鳴らした。
「……ああ。容疑者は全面的に『真実』を供述したよ」
リアンは、カウンターにドカッと両手をつき、極悪な笑顔で店長を見据えた。
「ただし。あいつが語った真実ってのは、詐欺のことじゃねぇ。……この購買部の店長から、何の抵抗もしていないのに【顔面パイ投げ】という理不尽な暴行を受けたっていう、悲しき被害者の真実だ!」
「……はぁ?」
店長の太い眉がピクリと動いた。
「フッ。とぼけても無駄だよ、店長」
クラウスが、純白の手袋をはめた手で、バサッとトレンチコートを翻した。
「侯爵家である僕の目は誤魔化せない。いくら相手が偽造硬貨を使ったとはいえ、まだ未遂の段階。それに対して、君が放ったクリームパイによる物理的制裁は、明らかに『過剰防衛』であり、生徒に対する『不当な暴行罪』に該当する。……これは学園の風紀を預かる我々として、見過ごせない重大なコンプライアンス違反だ」
「な、なんだと!? ふざけるな、あいつが先に詐欺を……!」
「ふへへへ……言い逃れはできませんぅ……」
キャルルが白衣のポケットから、透明なビニール袋を取り出して机に叩きつけた。
「このジャージに付着したクリームの成分……店長が特注で作らせている『最高級生クリーム』と完全に一致しました。しかも、パイを投擲した際の初速は時速80キロを超えており、当たり所が悪ければむち打ち症になっていた可能性も否定できませんぅ……」
「時速80キロのパイ投げ!? 俺、そんな威力で投げてねぇぞ!?」
店長が冷や汗を流しながら後ずさる。
「精神的苦痛で、今も夜しか眠れないの……! 慰謝料払って……!」
リーザが(さっきから揚げ弁当を完食したばかりの健康体で)よよよと泣き崩れる芝居を打つ。
「さて、店長。このまま暴行の事実を生徒会に報告すれば、あんたの店は『営業停止処分』を食らうかもしれないな」
リアンが、蛇のようにねっとりとした声で囁く。
「ま、待て! 悪かった、パイを投げたのはやりすぎた! 示談にしてくれ! 慰謝料代わりに、あの超高級ペガサス焼肉弁当をタダでくれてやるから!」
商売人である店長は、営業停止という言葉に露骨に焦りを見せた。
「ペガサス弁当!? 食べる食べるー!」
リーザが食いつこうとするのを、リアンが「待て」と制止する。
「慰謝料なんてちっぽけな額で手を打つ気はねぇよ。俺たち警察が求めているのは、そんなもんじゃない」
リアンは、懐から『タローソンのから揚げ弁当』を取り出し、ドンッとカウンターに置いた。
「……なんだそりゃ。そんな下品な大衆弁当、俺の高級志向の購買部には似合わねぇぞ」
店長が顔をしかめる。
「いいから聞け。示談の条件はただ一つ。この【タローソン弁当】を、あんたの購買部で大々的に販売することだ」
リアンが不敵に笑う。
「そして、その売上の一部を、タローソンの工場長への還元と……俺たち学園交番への『特別コンサルタント料(仲介手数料)』として、永続的に中抜きさせてもらう。これが俺たちの要求だ!」
「なっ……!? 警察権力を盾にした恐喝からの、利益のピンハネ(癒着)だと!? てめぇら、本当に風紀委員か!? ただのマフィアじゃねぇか!」
店長が、リアンたちのあまりの腐敗っぷりに絶句する。
「フッ、必要悪と呼んでくれたまえ。タローソンを救うための、侯爵家なりのダークな正義だ」
クラウスがキメ顔で言い放つ(※ただの中抜きである)。
「断る! そんなギトギトした安物の弁当なんか置いたら、俺の店のブランド価値が下がるだろうが! 第一、こんな舌の肥えたエリート貴族の学生たちが、そんなジャンクフードを喜んで買うわけがねぇ!」
店長が吠えた、その時だった。
「……あの、すみません。さっきからすっごく良い匂いがしてるんですけど……その『タローソン弁当』って、僕も買えますか?」
ひょっこりと顔を出したのは、いかにも育ちの良さそうな、青っ白い顔をした伯爵家の男子生徒だった。
「ほら見ろ。さっそく『需要』が来たぜ」
リアンはニヤリと笑い、弁当の蓋を開けて伯爵家の生徒に差し出した。
「お試しだ。食ってみな」
「い、いただきます……」
生徒は恐る恐る、ニンニク醤油の匂いが強烈に漂うから揚げを口に運んだ。
サクッ。ジュワァァァッ。
「――――ッ!!」
生徒の瞳孔が、極限まで見開かれた。
「な、なんだこれは……! 毎日食べているオーガニック温野菜にはない、この暴力的なまでの脂質! 塩分! そして炭水化物!!」
生徒は、まるで長年砂漠を彷徨っていた旅人がオアシスを見つけたかのように、一心不乱にから揚げと白飯を掻き込み始めた。
「美味い……美味すぎる!! 胃袋に直接ガツンとくる、この『背徳的な味』……! 僕が本当に求めていたのは、こういうご飯だったんだぁぁぁっ!!」
生徒は涙を流しながら弁当を完食し、「店長! これを毎日入荷してください! お願いします!」と土下座せんばかりの勢いで頼み込んだ。
「ば、馬鹿な……。俺の厳選した無農薬野菜よりも、ただのから揚げ弁当が勝るというのか……!?」
店長が、信じられないものを見る目でその光景を呆然と見つめる。
「俺が言った通りだろ? 高級フレンチを毎日食ってたら、人間は無性にジャンクフードが食いたくなるんだよ」
前世・三ツ星副料理長のリアンが、ドヤ顔で語る。
「店長。タローソン弁当を置けば、あんたの店の売上は今の倍以上になる。しかも暴行事件は俺たちが揉み消してやる。……あんたにとっても、悪い話じゃねぇはずだぜ?」
「…………くっ」
商売人としての計算回路が働いたのか、店長はギリッと歯を食いしばり、ついに首を縦に振った。
「わ、分かった……! タローソンとの独占販売契約と、お前らへの『コンサルタント料』の支払い……応じてやるよ!」
「商談成立だ!!」
数日後。
ルナミス学園の購買部は、前代未聞の【タローソン弁当ブーム】に沸き返っていた。
「特盛りから揚げ弁当、一つ!」
「こっちはマヨネーズマシマシの焼きそばパンだ!」
エリート貴族の学生たちが、我先にとジャンクフードを買い求めて長蛇の列を作っている。タローソンの工場長は涙を流して感謝し、工場はフル稼働で倒産の危機を完全に脱した。
そして、その莫大な利益の『仲介手数料』が流れ込む先は――。
「チャリン、チャリン……ジャララララッ!!」
学園交番のプレハブ小屋。
リアンたちの机の上には、購買部から上納された『大量の銀貨と金貨』が山のように積み上げられていた。
「はーっはっはっは!! 見ろよお前ら! 警察権力を使って合法的にライバルを脅し、需要と供給の隙間を突いた完璧な中抜きビジネス! これぞまさに錬金術だ!」
リアンが、銀貨の山にダイブしながら高笑いする。
「すごいすごい! これなら何もしなくても、毎日お金が入ってくるね!★」
ルナが金貨をこすり合わせながらキャッキャと喜ぶ。
「フッ……正義を執行し、その対価で自らを潤す。僕たち侯爵家の理想とする『完璧なシステム』が完成したというわけだ」
クラウスもまた、優雅にコーヒーをすすりながら(やってることはただの汚職警官だが)満足げに頷く。
「ふへへへ……これで安全靴の新しいカタログが買えますぅ……」
「毎日タローソンのお弁当が食べ放題だぁ! リアン君、最高ぉぉっ!」
キャルルとリーザも、札束(銀貨)の風呂に浸かっているかのような恍惚の表情を浮かべていた。
交番コントから始まった、1年S組による権力乱用ビジネス。
タローソンを救い、学生の胃袋を満たし、そして自分たちも大儲けするという、まさに全方位がハッピーになる『完璧な勝利』だった。
――だが。
彼らは忘れていた。
この世界において、リアンが【不労所得】を得て調子に乗った直後には、必ず『あの銀縁眼鏡の徴税人』が現れるという、宇宙の真理(様式美)を。
栄光の絶頂で響く、絶望のノック音が、すぐそこまで迫っていたのである!
読んでいただきありがとうございます。
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