表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
184/322

EP 23

売店からの通報と、パイ投げの惨劇

「ウー! ウー! 緊急車両、もとい緊急ポリスが通りまーす! そこの生徒たち、道をあけてねー!★」

ルナミス魔法学園、昼休みのメインストリート。

手錠をチャラチャラと鳴らしながら、自前の口頭サイレン(大音量)で駆け抜けるミニスカ婦警のルナ。

その後ろを、トレンチコートを翻すエリート刑事のクラウス、白衣と安全靴の鑑識・キャルル、そして目を金貨ボーナスの形にした腐敗デカのリアンが猛スピードで追従していた。

「おいルナ、その口サイレンやめろ! アホっぽすぎて俺たちの威厳が下がるだろうが!」

「え〜? だって交番にパトカーなんて無かったし! 雰囲気は大事だよ、リアン君!」

「フッ……相変わらず騒々しい連中だ。だが、この疾走感、悪くない。僕の内に眠る『正義の血』が騒いでいるのを感じるよ」

クラウスが走りながら、なぜか風に髪をなびかせてキメ顔を作っている。

「ふへへ……現場……犯罪の匂い……証拠保全の準備、バッチリですぅ……」

キャルルが両手にピンセットと証拠品回収用のビニール袋を持ち、安全靴でアスファルトを削りながら爆走する。

完全にコント集団である。

だが、彼らが向かっている先――学園の『購買部(売店)』は、現在進行形でとんでもない修羅場と化していた。

ルナミス学園の購買部。

それは「売店」という名前から想像されるような、パンや文房具がちんまりと並ぶ施設ではない。

王都の一流デパートの食品フロアをそのまま持ってきたかのような、大理石張りの超豪華な空間である。高級な魔導具から、三ツ星シェフが監修した極上のランチボックスまで、エリート貴族の生徒たちの胃袋を満たすためのあらゆる贅沢が揃っている。

その、最も華やかな惣菜コーナーのド真ん中で。

「このド貧民のガキィィィッ! 俺の店を舐めてんのかァァァッ!!」

筋骨隆々で、顔に大きな傷のある購買部の店長(元・凄腕の冒険者であり、引退後に学園の流通を牛耳っている男)の、怒気をはらんだ怒声が響き渡っていた。

「ひぃぃっ! ごめんなさい、ごめんなさい! でもこれ、本当に新種の金貨なんですぅっ! だからその【超高級ペガサス焼肉弁当】を私に……!」

「寝言は寝て言えェェッ!!」

ベチャァァァァァァァンッ!!!

店長の太い腕から放たれた『制裁用の特大クリームパイ』が、容疑者の顔面にクリーンヒットする。

見事な破裂音と共に、真っ白な生クリームが周囲に飛び散り、野次馬の生徒たちが「うわぁっ」と後ずさった。

「そこまでだ!!」

人混みをかき分け、リアンたち『1年S組ポリス』が現場に到着した。

「学園交番の特別風紀委員だ! 店長、暴行はやめろ! 犯人は俺たちが引き取る!」

リアンがインテリヤクザのような凄みを利かせながら前に出る。

「おお、交番の連中か! ちょうどいいところに来やがった!」

店長が鼻息を荒くして、現場の中央を指差した。

「こいつだ! このふざけたガキが、ウチの店で詐欺を働きやがったんだ!」

リアン、クラウス、ルナ、キャルルの四人が、店長の指差す先へと視線を向ける。

大理石の床の上。

そこには、おなじみの『ショッキングピンクのジャージ』を着た少女が、顔面を真っ白なクリームまみれにしてへたり込んでいた。

彼女は自分が置かれている「現行犯逮捕」という絶体絶命の状況を理解しているのかいないのか、顔についたクリームを指で掬い取っては、ペロペロと舐めている。

「……あ、甘くて美味しい……。さすが高いお弁当を売ってるお店のクリーム……これだけで三日分のカロリーが……」

完全に、身内リーザである。

それも、底辺の食い意地を極限までこじらせた、最も哀れな姿のリーザだ。

「…………」

「…………」

リアンとクラウスは、あまりの情けなさに数秒間、完全に無言になった。

「あ、あれぇ? リーザちゃん、何やってるの?★」

ルナが素っ頓狂な声を上げる。

「……おい、鑑識。証拠品の確認だ。店長、こいつが使おうとした『偽造金貨』ってのを見せてみろ」

リアンが額に青筋を浮かべながら、キャルルに指示を出す。

「おう、これだ! 見てみろこの舐め腐ったシロモノを!」

店長が、一枚の硬貨をキャルルの証拠品袋へと投げ入れた。

キャルルは白衣のポケットからルーペを取り出し、その硬貨をまじまじと観察し始めた。

「ふへへ……鑑定します。……直径約22ミリ。中央に穴が開いています。表面には、稲穂のような模様。そして、不自然なまでに研磨された光沢と……かすかに香る、柑橘系の匂い……」

キャルルはルーペを下ろし、リアンに向かってキリッとした顔で報告した。

「先輩。これは金貨ではありません。タローソンで釣り銭として流通している、最も価値の低い『穴あき銅貨(五円玉相当)』です。……表面の汚れを、砂と『レモン汁』を使って徹底的に磨き上げ、金貨のような輝きを偽装した形跡がありますぅ……」

「…………」

手口が、セコすぎる。

錬金術でも何でもない。ただの【五円玉のレモン汁磨き(小学生の自由研究レベル)】である。

「このガキ! そのピカピカの五円玉をレジに出して、『これは最近発行された、ルナミス帝国の新種のアニバーサリー金貨です! だから、金貨3枚分の【ペガサス焼肉弁当】と交換してください! お釣りはいりません!』と抜かしやがったんだ!」

店長の怒りが再びヒートアップする。

「五円玉で3万円の弁当を買おうとするたぁ、俺の眼力(査定スキル)も舐められたもんだぜ!!」

周囲の野次馬生徒たちから、「うわぁ、ドン引き……」「いくら貧乏でもあそこまで堕ちたくないわね」「ピンクジャージやばすぎ」と、ヒソヒソと軽蔑の言葉が飛び交う。

「……相棒」

クラウスが、白いトレンチコートのポケットに両手を突っ込みながら、深い、本当に深い溜息を吐いた。

「侯爵家の人間として、数々の悪党や詐欺師の話は聞いてきたが……ここまでスケールが小さく、かつ見え透いた手口で、しかも食べ物への執着だけで動く犯罪者は初めて見たよ。……正直、怒りよりも哀れみが勝るな」

エリート刑事のプライドすらも粉砕する、底辺の犯罪。

「全くだ。俺も前世からいろんなセコい奴を見てきたが、こいつはぶっちぎりで底辺ワーストだ。……だがな、エリート」

リアンは腰から『魔導手錠ロープ』をシャキッと引き抜き、クリームまみれのリーザを見下ろして、極悪な腐敗デカの笑みを浮かべた。

「詐欺未遂は、立派な重罪だ。……そして何より、俺たちの【特別ボーナス(金貨)】の対象だ」

リアンは一切の容赦なく、床に座り込んでクリームを舐めているリーザの背後に回り込み、その両手首をガッチリと掴んだ。

「ひゃっ!? り、リアン君!? なになに!?」

「大人しくしろ、容疑者! お前を『偽造通貨行使未遂』および『詐欺未遂』の現行犯で逮捕する!!」

ガチャァァァンッ!!

リーザの手首に、冷たい魔導ロープが幾重にも巻き付けられ、彼女の自由を完全に奪った。

「えええええっ!? 身内だよ!? 私たち、同じクラスで同じ釜の飯(野草)を食った仲じゃない!! なんで本気で逮捕するのぉぉっ!?」

リーザが涙目で抗議する。

「黙秘権はあるが、お前が喋ったことはすべてお前を不利にする証拠として採用されるぞ! 鑑識、証拠品の銅貨を厳重に保管しろ! エリート、周りの野次馬を散らせ! 婦警、容疑者を交番まで連行するぞ!」

リアンが矢継ぎ早に指示を飛ばす。

「了解です、先輩! この五円玉は裁判で必ず役立てますぅ!」

「フッ……見苦しいぞ、容疑者。侯爵家の名において、君の罪は僕たちが裁く」

「わーい! リーザちゃん、確保ぉー!★」

S組ポリスによる、無慈悲で完璧な連携プレイ。

仲間からの裏切り(物理)に、リーザは絶望の叫びを上げた。

「鬼ぃぃぃっ! リアン君の悪徳警官!! ボーナスのために身内を売るなんて最低だぁぁぁっ!!」

「やかましい! 取調べ室でたっぷりカツ丼でも食わせてやるから、大人しく歩け!」

かくして、前代未聞の【五円玉偽造詐欺事件】の容疑者として、ピンクジャージの少女は学園のハズレにあるプレハブ交番へと連行されていった。

だが、リアンたちはまだ知らなかった。

このド貧民の少女が、取調べ室という密室において、あの『汚職政治家』も顔負けの【最強の言いバックレスキル】を発動させるということを。

警察ポリスvs 容疑者リーザの、壮絶な心理戦の幕が上がろうとしていた!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ