EP 20
プラットフォームの罠と、終わらない搾取(いつもの様式美)
チャリン、チャリン……ジャララララッ!!
ルナミス魔法学園、家庭科室。
学園祭の喧騒が静まった放課後、リアンたちの前には、思わず目が眩むほどの『黄金の山』が築き上げられていた。
「ははは……! はーっはっはっは!!」
リアンは両手で金貨をすくい上げ、顔にスリスリと擦り付けながら、絵に描いたような悪徳商人の高笑いを上げていた。
「見ろよお前ら! 絶望サラダのバカ売れによる売上と、ユリウスから巻き上げた勝利の代償! 合わせて【金貨560枚(約5600万円)】だ! 不運の火災で失った俺のアーリーリタイア資金が、完全に、しかも利子付きで戻ってきたぞぉぉぉッ!!」
「ふへへへ……金貨の匂い……これ全部でタローソンのから揚げ弁当が何個買えるの……? じゅるり……」
リーザがよだれでテーブルに水たまりを作りながら、金貨の山に顔を突っ込んでいる。
「リアン君、本当にすごいや! これで僕も、ただの正義のヒーローじゃなくて『ビジネスもできる正義のヒーロー』になれた気がするよ!」
クラウスが謎の自信に満ちた顔で頷き、キャルルも「リアンP、一生ついていく……」と拝んでいる。
「リアン君のお料理、みんなを笑顔(?)にしたし、大成功だったね! 頑張ったご褒美に、私がリアン君に『あーん』ってしてあげよっか!★」
ルナが顔を赤らめてすり寄ってくる。
(完璧だ。ルナのやらかし(失恋パンデミック)という絶体絶命の危機すらも、オニオンナイトで逆転のカタルシスに昇華させた。俺のプロデュース能力は、やはりこの異世界でも最強だ……!)
リアンが勝者の美酒(ただの麦茶)を飲み干そうとした、まさにその瞬間。
コンコン。
家庭科室の扉がノックされ、一人の女生徒が入ってきた。
銀縁の眼鏡をかけ、分厚いバインダーを抱えた、生徒会会計の『カトレア』である。
「1年S組・リアン・シンフォニア。今回の学園祭における屋台売上第1位、およびユリウス様との食戟での勝利、おめでとうございます」
「おお、生徒会様か。わざわざ祝福に来てくれるなんてご丁寧にどうも。あ、売上トップの表彰状なら後で郵送しといてくれ」
リアンが余裕の笑みで手をヒラヒラと振る。
だが、カトレアは一切表情を崩さず、手元のバインダーをペラリと捲った。
「表彰状はお渡しします。……ですが本日は、学園祭出店規約に基づく『プラットフォーム利用料および資源使用税』の徴収に参りました」
「……は?」
リアンの動きがピタリと止まった。
カトレアは、リアンが提出していた『屋台出店許可書』のコピーをテーブルに提示した。
そして、書類の裏面にある、虫眼鏡を使わなければ見えないレベルの【極小の文字】を指差した。
「規約第44条。本学園の敷地内における営業活動において、『学園の管理下にある危険地帯(旧魔導温室、および帝都地下迷宮)』で無断採取した素材を使用した場合、売上の【90%】を『資源保護税』として徴収します」
「きゅ、90パーセントォォォッ!?」
リアンの目玉が飛び出んばかりに見開かれた。
「ま、待て! そりゃ確かに温室の『折れたス』も、地下迷宮の『オニオンナイト』も無断で採ったけど! 90%なんて暴利、完全にヤクザのピンハネじゃねぇか!!」
「学園のインフラとブランド力を利用して商売をした以上、規約は絶対です」
カトレアは冷徹に言い放つ。
「ふ、ふざけんな! 百歩譲ってサラダの売上はそれでいいとしよう! だが、ユリウスから賭けで勝ち取った【金貨500枚】は俺の個人的な戦利品だ! それは税金の対象外だろうが!!」
リアンが血走った目で、ユリウスの革袋をガッチリと抱き込む。
だが、無慈悲な生徒会会計は眼鏡をギラリと光らせた。
「お言葉ですが。規約第45条、『学園祭の敷地内における、生徒間の金銭を賭けた個人的な私闘(食戟含む)』は、未認可の金融派生商品と見なし、風紀維持のため【全額没収】となります」
「――――ッ!?」
カトレアの言葉と共に、リアンの視界の端で、忌まわしいピンク色のシステムウィンドウがポップアップした。
『♪ルチアナからの神託メッセージ♪』
やっほーリアン君! 女神ルチアナだよ☆
今回の学園祭、神界のGod-Tubeでも『絶望のサラダドッキリ企画』として配信させてもらったんだけど……ガイドライン違反(未成年のギャンブル行為)に引っかかっちゃった! てへぺろ!
というわけで、ユリウス君の金貨は『神界への罰金(お布施)』として回収するね! 規約はちゃんと読まなきゃダメだぞっ☆
「る、るちあ……」
パァァァァァンッ!!
リアンが抱きしめていた金貨500枚の革袋が、女神の強制回収システムによって、神々しい光と共に空の彼方へと消え去った。
さらに、カトレアが手際よく「資源保護税」として売上の90%を無慈悲に回収し、台車に乗せてガラガラと運び出していく。
「あ、ああ……俺の、俺の金貨が……。徹夜でドレッシングを仕込んだ俺の労働力が……」
数分後。
残されたのは、税金を引かれてすっかり小さくなった『銀貨と銅貨の山(約10万円分)』だけだった。
「うわああああんっ! リアン君の金貨がぁぁぁっ! 私の朝ごはんが、また野草とマヨネーズに戻っちゃったぁぁっ!!」
リーザが机に突っ伏して、オニオンナイトの催涙ガスよりも激しい涙を流して大号泣する。
リアンは、真っ白に燃え尽きた灰のようになって、虚空を見つめていた。
「……前世で……『プラットフォーム(大企業)』に依存したビジネスモデルは、結局胴元にすべてを搾取されるって……痛いほど学んだはずだったのにな……」
リアンの口から、アラサー副料理長の哀しすぎる本音(魂の叫び)が漏れる。
チート能力を持っていようが、どれだけ神がかったアイデアを閃こうが、この理不尽な世界は、彼に「お金持ちになって働かずに生きる」という平穏を絶対に許してはくれないのだ。
「り、リアン君……元気出して……! お金はなくなっちゃったけど、リアン君の料理がみんなの心を救ったのは本当だよ! それに、私たちがずっとそばにいるから!★」
ルナが必死にリアンを慰める。
「……ああ、そうだな。ありがとう、ルナ」
リアンはゆっくりと立ち上がり、窓の外、夕日に染まるルナミス魔法学園の空(その向こうにいるであろう駄女神)を睨みつけた。
「絶望の底から這い上がってきた奴が、一番強いんだ。俺は絶対にあきらめねぇぞ……!!」
リアンの瞳に、消えることのない不屈の炎(と、強烈な守銭奴の執念)が宿る。
「見てろよルチアナ! そしてクソッたれなプラットフォームども! 次はシステム(規約)の裏の裏をかいて、お前らの神殿ごと買収してやるくらいの巨大ビジネスを立ち上げてやるからなぁぁぁぁッ!!」
夕闇の学園に、天才シェフの悲痛にして力強い、完全復活の咆哮が響き渡った。
無一文から這い上がり、一瞬で大金を手に入れ、そしてまた無一文に返り咲いたリアン・シンフォニア。
彼のアーリーリタイアへの道は、未だ果てしなく遠い。
読んでいただきありがとうございます。
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