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EP 16

傲慢なる公爵令息と、学園祭の食戟ビジネス・ウォーズ

「……なんという醜態だ。愛だの恋だのと、地を這って泣き喚くエリートたち。学園の品位を著しく下げる、実に下劣な光景だな」

失恋のトラウマに沈む進路相談室前の広場。

プラチナブロンドの髪を揺らしながら、公爵家次男・ユリウスは、ハンカチで鼻を覆い、心底軽蔑したような目をリアンに向けた。

「おい、男爵家のガキ。君は『絶望』を売って金を稼いでいるそうだが、食に対する根本的な理解が間違っている。料理とは、食べる者に『至福と優雅さ』をもたらす芸術だ。こんな精神を崩壊させるゲテモノ草を食わせるなど、料理人への冒涜だよ」

ユリウスは、学園の超高級カフェテリアを牛耳る男だ。

彼が提供するメニューは、一流の料理人が高級食材を惜しみなく使った芸術品ばかり。彼の『美食こそが正義』というプライドからすれば、リアンの屋台は存在自体が許しがたい害悪だった。

「芸術、ねぇ」

リアンはインテリヤクザのような鋭い視線でユリウスを睨み返し、鼻で笑った。

「温室育ちの坊ちゃんには分からねぇだろうな。人間ってのは、綺麗で美味しいだけの飯じゃ満足できなくなる時があるんだよ。泥水すすってでも、絶望を乗り越えて『前に進むための起爆剤』が必要な時がな。……俺は、それを売ってるだけの真っ当なビジネスマンだ」

前世で三ツ星の厨房という『戦場』を生き抜いてきたリアンからすれば、ユリウスの言う「優雅な料理」など、ただの綺麗事に過ぎなかった。

「ふん、減らず口を。……ならば、その下品なビジネスが、僕の『真の美食』の前にいかに無力か、証明してやろう」

ユリウスはマントを翻し、リアンに向かって白馬の刺繍が入った手袋を投げつけた。

バシッ! とリアンがそれを受け取る。

「来週から始まる『ルナミス創立祭(学園祭)』。そこでのメインイベントである【全学年合同・屋台売上対決】……いわゆる『食戟しょくげき』で、僕と勝負しろ」

ユリウスの目に、嗜虐的な光が宿る。

「僕のカフェテリアは、最高級の『ペガサス肉』と『極上キャビア』を使った至高のメニューを出す。君はせいぜい、その忌まわしい草でも売るといい。……僕が勝てば、君の屋台は永久に営業停止。さらに、君が稼いだ売上(金貨)はすべて生徒会に没収だ」

「ほう? 営業停止に全財産没収とは、大きく出たな」

リアンの目に、危険なゴールドマークが浮かび上がる。

「いいぜ。だが、俺が勝ったらどうする? リスクとリターンは平等じゃなきゃ、ビジネス(契約)は成立しねぇぞ」

「僕が負けるはずなどないが……万が一にも君が勝つような奇跡が起きれば、僕のポケットマネーから【金貨500枚】をくれてやろう」

「言ったな? その言葉、絶対に忘れるなよ」

金貨500枚。それは、リアンが不運の火災で失ったアーリーリタイア資金と完全に同額である。

リアンは手袋を握りつぶし、ニヤリと肉食獣のような笑みを浮かべた。

「商談成立だ。学園祭で、お前のその高慢な鼻っ柱をへし折ってやるよ」

「……せいぜい足掻くことだな、底辺の料理人」

ユリウスはフンと鼻を鳴らし、風紀委員たちを引き連れて去っていった。

ユリウスが立ち去った後。

「あわわわ……! り、リアン君! どうしよう、学園祭の売上勝負なんて! あっちのカフェテリアは毎年ぶっちぎりの1位なのに! 私のドジのせいだよね、ごめんなさいぃぃっ!」

ルナが涙目でリアンのエプロンにしがみつく。

リーザも「リアン君の全財産がまた没収されちゃう! 私の朝ごはんがぁ!」と頭を抱えている。

「落ち着け、お前ら」

リアンはルナの頭を軽く小突いて引き剥がした。

「ユリウスの野郎、わざわざ俺の全財産(金貨500枚)を取り戻すチャンスを自ら持ってきたんだ。受けて立つに決まってるだろ。……問題は、メニューだ」

リアンは、未だに床で「先輩のバカァッ!」と泣き叫んでいる学生たち(失恋パンデミックの被害者)を見下ろした。

「ルナのやらかしで『お友達から種(失恋亜種)』が混ざっちまったせいで、今のドレッシングはただメンタルを破壊するだけの劇薬に成り下がってる。お祈り(絶望)の苦味と、失恋の切なさが大喧嘩して、味が完全に崩壊してるんだ」

前世・三ツ星副料理長の分析回路がフル回転する。

「ユリウスの『ペガサス肉と極上キャビア』という圧倒的な暴力(高級食材)に、このただの『絶望サラダ』で勝つには……絶望を極上の旨味でコーティングし、最後に【カタルシス(感動)】へと昇華させる『架け橋』となる食材が必要だ」

「架け橋……?」

キャルルが首を傾げる。

「ああ。悲しみを浄化し、料理全体に圧倒的なパンチ力(旨味)を与える、伝説のスパイス。……『涙目のオニオンナイト』だ」

リアンがその名を口にした瞬間、リーザが「ひっ!」と短く悲鳴を上げた。

「な、涙目のオニオンナイトって……あの、帝都の地下迷宮ダンジョンの奥深くにしか生息していない、幻のタマネギ魔獣!? 刺激が強すぎて、近づいただけで目が潰れるって言われてるヤツだよ!?」

「その通りだ。だが、あいつの持つ『究極の甘みと辛味』のバランスなら、失恋亜種の青臭さを消し飛ばし、お祈りレタスの絶望を『極上の感動』へと反転させることができる」

リアンは、カウンターに突き立てた包丁を引き抜き、ギラリと光らせた。

「いいかお前ら! 学園祭まであと一週間! 俺たちは今日から一時休業し、地下迷宮へ『幻のタマネギ』を狩りに行く!! 俺のアーリーリタイア資金(金貨500枚)を、絶対に取り戻すぞ!!」

「「「おーっ!!」」」

こうして、金と意地(とルナの尻拭い)を懸けた、1年S組によるダンジョン・ダイブが幕を開けた。

目指すは、触れた者すべてを号泣させるという幻の魔獣。

天才シェフの起死回生のレシピ作りが、地下深くで始まろうとしていた。

お読みいただきありがとうございます!


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