EP 10
解呪の光と、残された「気まずすぎる記憶」
ポチャァン……。
リアンが投げ込んだ『ふ〜ん石』が浄化の泉の底に触れた瞬間、厄落としの霊峰の山頂は、視界を白く染め上げるほどの神々しい光に包まれた。
「おおおおっ……! なんか、身体が軽い! 肩に乗ってた見えない重り(絶対的負運)が消え去っていくのがわかるぞ!」
光の奔流の中で、リアンは歓喜の声を上げた。
同時に、泉から溢れ出した浄化のオーラが一行を包み込み、あの忌まわしき『暴露鯛』の呪い――脳のストッパーを破壊する劇薬成分すらも、完全に洗い流していった。
ピロリロリロリィィィン♪
リアンの視界の端で、システムウィンドウが軽快な音を立てた。
【状態異常:回復】
『絶対的負運』の呪いが解除されました。運勢が通常値に戻ります。
『強制暴露(本音)』の呪いが解除されました。理性のストッパーが復旧しました。
「……終わった。長かった地獄が、ようやく終わったんだ……!」
光が収まると、泉の底で禍々しい七色の光を放っていた石は、ただの透明で綺麗な『虹水晶(ただの綺麗な石)』へと変化していた。
リアンは泉に手を突っ込んでその石を拾い上げると、呆然としているリーザに向かって軽く放り投げた。
「ほらよ、リーザ。お前が見つけてくれた誕生日プレゼントだ。呪いは抜けたから、ただの綺麗な石っころに戻ったぜ」
「えっ……? あ、ありがとう、リアン君……!」
リーザが石を胸に抱きしめる。
そして、山頂に静寂が訪れた。
(……よし。心の中にあった『絶対に言っちゃいけない秘密』が込み上げてくる感覚が完全に消えた。俺はもう、嘘(建前)を吐ける! プロデューサーとしての最大の武器が戻ってきたんだ!)
リアンは、アフロヘアーとボロボロの服のまま、安堵の深呼吸をした。
しかし。
「…………」
「…………」
数秒後。
リアンは、周囲の空気が『異常なほど重く、気まずいもの』になっていることに気がついた。
ルナが、顔を熟れたトマトのように真っ赤にして、杖の陰に隠れるようにうつむいている。
キャルルは、なぜかクラウスと目を合わせられず、安全靴で地面の小石を蹴飛ばしている。
クラウスは、先ほどまでやっていた『正義のヒーローの決めポーズ』のまま完全に石化しており、少しずつ、少しずつ、ギギギ……と音を立てるように腕を下ろしていた。
そう。
『本音を言わされる呪い』は解けたが、『自分が何を言ったか、そして他人が何を言ったか』の記憶は、全員の脳裏にハッキリと残っていたのだ。
「あ……あのね、リアン君……」
ルナが、消え入りそうな声で口を開いた。両手で顔を覆いながら、指の隙間からリアンを見つめている。
「私、さっき……その、リアン君のことが『す、すき』って……」
「な、なに!? 何か言ったかルナ!?」
リアンは前世の社会人経験で培った『究極の誤魔化しスキル』をフル稼働させた。
「いやぁ〜! 恐ろしい呪いだったな! まさか、脳みそをバグらせて『思ってもいないデタラメ』を口走らせるなんて! 前世が25歳の料理人だの、俺の金貨500枚の隠し財産が燃えただの! あはははは! ぜーんぶ幻覚と幻聴だ! 恐ろしい恐ろしい!」
リアンは、わざとらしく大声で笑い飛ばし、すべての本音カミングアウトを『呪いによる幻覚』ということにしようと強引な隠蔽工作を図った。
「そ、そうだよねっ!?」
それに一番食いついたのは、ヒーロー志願者のクラウスだった。
「僕が『マントをつけて飛び降りたい』とか『ヒロインに看病されたい』とか叫んだのも、呪いのせいだ! 僕は立派な騎士だからね! ハハハッ! いやぁ、参った参った!」
顔から火が出るほど赤面しながら、クラウスが全力でリアンの隠蔽工作に乗っかる。
「だろ!? ほら、キャルルも! お前がクラウスを全身看病したいって変態みたいなこと言ったのも、全部呪いのせいだ!」
「ふえっ!? ぅ、うん……そ、そうだよ! キャルルは変態じゃないもん! 呪いのせいだもん!」
「リーザ! お前が俺の財産目当てだって言ったのも、呪いだよな!?」
「えっ? うーん……でも私、リアン君のお金が大好きなのは本当だし……」
「お前はそこは嘘でも否定しろ!!」
結局、ブレないリーザの発言のせいで、リアンの『デタラメだった理論』は一瞬で瓦解した。
「……リアン君、やっぱり呪いじゃなくて、あれ全部『本音』だよね……?」
ルナが、上目遣いでジッとリアンを見つめる。
その瞳には、誤魔化しを許さない乙女の真剣な光が宿っていた。
「うっ……」
リアンは言葉に詰まった。
「……私の、本音。聞いてくれた……?」
「…………あー、あー! 聞こえなーい! 俺は今、度重なる不運のダメージで鼓膜が破れてるから何も聞こえなーい!!」
リアンは両手で耳を塞ぎ、「あーあーあー!」と叫びながら、霊峰の山道を全速力で駆け下り始めた。
「ああっ! 待ってリアン君! ちゃんと返事してよぉぉっ!★」
「あはは! ルナちゃん、リアンPを追いかけますよ! カメラ回します!」
「僕のヒーローの夢も忘れてくれぇぇっ!」
かくして。
最強のプロデューサーからすべてを奪い、どん底まで叩き落とした【呪われた誕生祭】は、こうして幕を閉じた。
リアンの隠し財産(5000万円)は灰になり、アーリーリタイアの夢は遠のいた。
しかし、彼の手元には、良くも悪くも『腹を割りまくって、絶妙に気まずく、そして以前よりも確実に距離が縮まった』仲間たちの絆が残された。
翌日から、男爵邸や学園で、ルナがやたらとリアンにボディタッチをしてきたり、クラウスがキャルルを意識して不自然なほど騎士っぽく振る舞おうとして失敗したりと、1年S組の日常はさらにカオスでラブコメチックなものへと進化していく。
「チクショウ……! 金は失ったが、次は絶対に巻き返してやる! 見てろよルチアナ、神界の搾取システムごと、俺のビジネスでぶっ壊してやるからな!!」
アフロヘアーを風に揺らしながら、リアン・シンフォニアは夕日に向かって新たな野望を誓うのであった。
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