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EP 7

底抜けの馬車と、止まらない本音の旅

翌朝。

男爵邸の正門前に、重装備(という名のハイキングスタイル)で集結した1年S組の面々。

その中心に立つリアン・シンフォニアの目の下には、ひどく深く、どす黒いクマが刻まれていた。

「……寝れなかった。ベッドの底が抜け、天井からシャンデリアが落ちてきて、窓から野良猫が侵入して俺の顔を引っ掻いていきやがった……」

リアンの両頬には、生々しい三本線の猫の引っ掻き傷がある。

一晩中、『ふ〜ん石』の絶対負運に命を狙われ続けたのだ。

「かわいそうに、リアン君……! 私、リアン君の傷の手当てを口実にもっとお近づきになりたい! あっ、また本音が!★」

ルナが顔を真っ赤にして、持参した救急箱を抱きしめる。

「ははは! 傷ついた友を癒すのもヒーローの役目! だが本当は僕もヒロインに手当てされてみたいという願望がある! な、何を言わせるんだこの呪いはぁっ!」

クラウスが爽やかな笑顔で、ドス黒い思春期の欲望を叫ぶ。

「クラウス君の手当てなら、私が全身くまなく看病したいかなって! ふへへっ! ああっ! 私の淑女の仮面がぁっ!」

キャルルが安全靴をモジモジとさせながら、完全にヤバい顔でクラウスを見つめている。

「…………お前ら、少しは黙ってろ。頭が痛ぇ」

リアンはこめかみを押さえた。

本来、暴露鯛の呪いは数時間で切れるはずだった。

だが、リアンが前世(三ツ星副料理長)の天才的な技術で下処理を行い、極上の旨味成分と呪いを完璧に融合させてしまったせいで、成分が体に深く浸透し、呪いの持続時間が『三日三晩』に延長されてしまったのだ。

「俺の料理技術が高すぎたばっかりに、俺の尊厳(前世の秘密)がいつまた暴発するか分からない時限爆弾状態だ。……くそっ、自分の才能が憎い!」

リアンもまた、本音で己の才能を自画自賛しつつ絶望した。

「リアン君! みんな! 馬車の準備ができたわよ!」

リーザが、シンフォニア家のお抱え御者と共に、立派な四輪馬車を引いてやってきた。

「早く霊峰に行って呪いを解かないとね! そうしないとリアン君が死んじゃって、お金の稼ぎ手が誰もいなくなっちゃうから! あっ、またクズな本音が!」

「お前はもう口を開くな!!」

本音ダダ漏れのポンコツパーティーは、騒がしく馬車に乗り込んだ。

目的地は、帝都の北端にそびえ立つ『厄落としの霊峰』。

強力な魔物が棲む危険地帯だが、山頂にある『浄化の泉』に呪物を沈めれば、どんな厄災も祓われるという伝説の場所だ。

「よし、出発だ!」

御者が手綱を引いた、その瞬間。

バキィィィィィィンッ!!!!

「……は?」

馬車の中で、リアンが座っていた場所の床板(最高級のオーク材)が、突然跡形もなく崩れ去った。

「どわぁぁぁッ!?」

リアンは悲鳴を上げながら、馬車の底から地面へと真っ逆さまに落下した。

「り、リアン君!?」

「リアンが馬車から落ちたぞ!?」

だが、御者はその音に気づかず、馬に鞭を入れてしまった。

「ヒヒィィーンッ!」

馬車が勢いよく走り出す。

「ま、待て! 止まれぇぇぇッ!! 俺が、俺がまだ乗ってねぇぇッ!!」

馬車の底の『四角い穴』から顔を出し、リアンは地面を猛ダッシュで走りながら叫んだ。

絵に描いたような、ギャグ漫画の『底抜け自動車』状態である。

「り、リアン君! 早く上がってきて! 私がリアン君の手を引いて抱きしめるから! じゃなくて助けるから!★」

ルナが穴から身を乗り出して手を伸ばす。

「ば、バカヤロウ! 【絶対的負運】の俺に触れるな! 俺の不運が伝染して、お前まで馬車から落ちるぞ!」

リアンは本音でルナを案じながら、馬車と同じ速度で走り続ける。

「チクショウ! なんで俺の足なら馬車に追いつけるんだよ! 毎朝の体力作りの成果が出ちゃってるじゃねぇか! 自分の努力が憎い!」

本音で泣き言を叫びながら、リアンは馬車の床下の穴から上半身だけを突き出した状態で、帝都の石畳を全力疾走した。

「あっ! リアン君、右のポケットから銀貨が落ちたわ! 私のいただき! 私の今日の晩御飯!」

「拾うなリーザ! それは俺のなけなしの全財産(先日ルチアナから渡されたやつ)だぞ! 俺の金を返せ泥棒ヒロイン!!」

道行く帝都の住民たちが、底抜けの馬車で走りながら罵り合う子供たちを見て、「シンフォニア男爵家の新しいレクリエーションかしら……」とドン引きしていた。

――数時間後。

「ハァ……ハァ……ハァ……。死ぬ。俺はもう死ぬ……」

帝都の北端。

黒い雲が渦巻き、周囲の木々が枯れ果てた不気味な山のふもとに、一行は到着した。

リアンの足の裏はボロボロになり、高級な靴は完全にすり減って靴下が見えている。

「ここが『厄落としの霊峰』……! まるで悪の組織の秘密基地みたいな禍々しいオーラだね! 僕のヒーローとしての血が騒ぐよ!(本音)」

クラウスが剣を抜き放ち、カッコよくポーズを決める。

「ふへへっ! クラウス君のポーズ、ちょっとダサいけど顔がいいから許せる! カッコいい!(本音)」

キャルルがニヤニヤしながら写真を撮る。

「お前ら、少しは緊張感を持て……。ここは強力な魔物が出るんだぞ。今の俺は、スライムに当たっただけでも致命傷になりかねない『絶対不運』なんだからな……」

リアンは息を整え、山の入り口に立つ巨大な『しめ縄』のような結界門を見上げた。

「よし。ルナとキャルルは前衛、クラウスは俺の護衛、リーザは……後ろで小銭でも拾ってろ。行くぞ」

リアンが一歩、霊峰の土を踏みしめた。

その瞬間。

ズボォォォォォォォォンッ!!!!

「――えっ」

何もない、完全に平坦な土の地面。

だが、リアンが足を踏み入れたその場所『だけ』が、突如として直径2メートル、深さ5メートルの見事な『落とし穴』へと変貌した。

「ぎゃあああああああぁぁぁぁッ!!!!」

リアンの姿が、一瞬にして地の底へと消え去る。

「り、リアンくぅぅぅんっ!?」

ルナたちが穴の縁から下を覗き込む。

そこには、見事なまでに急角度で掘られた穴の底で、お尻を強打してうずくまるリアンの姿があった。

さらに、不運は終わらない。

「いてぇ……! なんで平坦な道に落とし穴が……って、上からなんか降ってき……」

リアンが見上げた先。

落とし穴の縁に生えていた巨大な木から、腐った『巨大な丸太(直径50センチ)』が、ボキッと音を立ててリアンの頭上へ真っ直ぐ落下してきた。

「えっ、ちょ、ピタゴラスイッ――」

ドゴォォォォォンッ!!!!

「リアンくぅぅぅぅぅんっ!!!!」

悲鳴がこだまする厄落としの霊峰。

呪いの石『ふ〜ん石』による、リアンに対する世界システムの殺意は、まだ始まったばかりであった。

お読みいただきありがとうございます!


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