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EP 6

二つの呪いの正体と、捨てられない石

「ズビッ……。チクショウ、絶対に許さねぇ。俺のアーリーリタイア計画を灰にしやがった元凶を、完璧に突き止めてやる……!」

全焼した倉庫の前。

顔中をススと涙と鼻水で真っ黒に汚したリアンは、ゴルド商会から特別に取り寄せていた『万能鑑定眼鏡(片眼鏡型)』を震える手で装着した。

普段は珍しい食材や怪しい契約書をチェックするために使っているマジックアイテムだ。

リアンは、リーザから貰った虹色の石――すべての不幸の始まりであるその石を、鑑定眼鏡のレンズ越しに睨みつけた。

ピピッ!

空中に、残酷すぎるシステムウィンドウが浮かび上がった。

【アイテム鑑定結果】

名称: ふ〜ん石(負運石)

レアリティ: 呪物(神話級)

効果: 所有者の『運勢』の数値を、強制的に【絶対的底辺(リーザの通常時の運勢以下)】に固定する。一度所有者として認識されると、捨てても必ず手元に戻ってくる。

「……は?」

リアンの口から、再び魂の抜けたような声が漏れた。

「り、リーザの通常時の運勢以下……!? 冗談じゃねぇ! こいつの通常時がすでに『ゴミ捨て場で野良犬と廃棄弁当を奪い合うレベル』の底辺だぞ!? それ以下って、もはや息をしてるだけで隕石が降ってくるレベルの即死判定じゃねぇか!!」

暴露鯛の呪い(本音強制)が絶賛継続中のリアンは、一切のオブラートに包むことなく、リーザの不運を大声でディスった。

「うわあああんっ! ごめんなさいぃぃっ!」

言われたリーザも、暴露の呪いによって本音で泣き叫び返す。

「私だって、こんな呪いの石だなんて知らなかったのよぉ! お金がないからタローソンの裏で拾ったゴミだけど、リアン君に喜んでほしかっただけなのにぃぃっ! 私のバカバカ! 貧乏人のバカァッ!」

「ゴミをプレゼントするなァ!! 気持ちは嬉しいけど、せめて出処の確かなもんをくれ!!」

涙ながらの理不尽な本音のぶつけ合い。

感動的(?)な友情のすれ違いだが、リアンの怒りの矛先は、もう一つの元凶へも向けられた。

「おい、クラウス! お前だ!」

「ひゃいっ!?」

ヒーローの変身ポーズのまま固まっていたクラウスが、ビクッと肩を揺らす。

「あの海鮮鍋に入れた黒鯛! あれも絶対おかしいだろ! これを見ろ!」

リアンは鑑定眼鏡を鍋の残骸(中身は吹き飛んだが、魚の骨が残っていた)に向けた。

【食材鑑定結果】

名称: 暴露鯛バクロダイ

レアリティ: 劇物(特A級)

効果: 一口でも食べた者は、理性のストッパーが破壊され、心に秘めた『本音』を大声で暴露してしまう。別名・自白剤の王。

「自白剤の王だぁ!? クラウス、お前の家の執事はどこでこんな劇物を仕入れてきやがった!」

「ご、ごめんリアン! 執事は『王都の裏路地の怪しい商人』から買ったって言ってたんだ! ぼ、僕はただ、リアンに『すごい!』って褒められたくて……いつもリアンが完璧すぎるから、たまには僕もカッコいいところを見せたくて、中身も確認せずに持ってきちゃったんだぁぁっ!!」

クラウスもまた、本音の暴走により「リアンに褒められたい」という騎士らしからぬ承認欲求を大声で暴露しながら土下座した。

「裏路地の商人から買うな! せめて正規ルートを通せ! 俺の完璧な前世(25歳・三ツ星副料理長)のカミングアウトを返せぇぇぇッ!!」

リアンは頭を抱えてしゃがみ込んだ。

自分の『転生者』という最大の秘密が、よりにもよってS組の連中にバレてしまったのだ。

……もっとも、他の面々も「リアンが好き!」「金が好き!」「ヒーローになりたい!」と自分自身の本音カミングアウトでパニックになっており、リアンの「前世」発言は『リアン君も何かよく分からないけどすごい隠し事をしてたんだな』程度の認識でスルーされているという奇跡(?)が起きていたが。

「チクショウ、こんな呪いの石、持ってられるか! 捨ててやる!!」

リアンは立ち上がり、手に持っていた『ふ〜ん石』を、男爵邸の壁の向こうの森に向かって、思い切りブン投げた。

「そぉいッ!!」

ヒュウゥゥゥゥ……ポチャッ。

石は遠くの池に落ちる音を立てた。

「よし、これで……」

リアンが安堵の息を吐き、無意識にズボンのポケットに手を入れた、その瞬間。

「……ん?」

ポケットの中に、ツルッとした丸い石の感触があった。

嫌な予感がして取り出してみると、そこには、池の藻を少しだけくっつけた『ふ〜ん石』が、キラキラと七色の光を放ちながら鎮座していた。

「戻ってきやがったぁぁぁッ!? 鑑定結果にあった『破棄不可』って、こういうことかよ!!」

リアンは石を地面に置き、近くにあった大きめの庭石を持ち上げた。

「なら、物理で粉砕してやる! 砕けろォッ!」

ドゴォッ!! と庭石を叩きつけた。

だが、神話級の呪物であるふ〜ん石は傷一つなく、逆に叩きつけた庭石の方がパカン!と真っ二つに割れた。

さらに、割れた庭石の破片が『偶然』ものすごい勢いで跳ね返り、リアンのスネをクリーンヒットした。

「ぐぎゃぁぁぁッ!! 痛ぇ! なんで俺のスネにピンポイントで当たるんだよ!!」

リアンはスネを押さえて涙目で転げ回った。

【絶対的負運】は伊達ではない。この石を持っている限り、リアンが取るすべての行動が『最悪の裏目』に出るように世界システムが改変されているのだ。

「り、リアン君! どうしよう、私のせいでリアン君が死んじゃう……!」

リーザが真っ青になってリアンに取りすがる。

「……クソッ。このままじゃ、明日には階段から落ちて首の骨を折るか、たまたま通りかかった馬車に撥ねられて二度目の転生(死)を迎えるハメになる……」

リアンはスネの激痛に耐えながら、必死に前世の知識と、この世界の情報を脳内で検索した。

『呪い』を解く方法。

破棄不可の呪物を、安全に処理する場所。

「……ある」

リアンは顔を上げ、帝都の北の方角――黒い雲に覆われた山脈を睨みつけた。

「ゴルド商会のオヤジが前に言っていた。帝都のハズレに、どんな強力な呪いも浄化し、持ち主の厄を落とすことができる聖地……『厄落としの霊峰』があるってな」

「厄落としの霊峰……! 確か、強力な魔物が住み着いている危険な山だよね!?」

クラウスが顔を上げる。

「ああ。だが、行くしかねぇ。このままじゃ俺は、ただ道を歩いてるだけで隕石が直撃して死ぬ」

リアンは立ち上がり、まだドロドロと本音が溢れ出しそうになる口元を拭った。

「いいかお前ら! 海鮮鍋(暴露鯛)を食ったせいで、俺たち全員、本音しか喋れないポンコツ状態になってる! そして俺は、常に死と隣り合わせの『絶対的負運』だ!」

リアンは、S組の面々をビシッと指差した。

「だが、お前らも共犯だぞ! リーザは石を拾い、クラウスは魚を持ってきた! ルナとキャルルは……お前らは食っただけだが、道中の戦力(火力)として同行しろ!」

「うん! 私、リアン君のためならどこへでも行く! 好きだから! あっ、また本音が!★」

「キャルルも行く! クラウス君のカッコいいところ見たいし! あっ!」

「俺の誕生日は最悪の形で台無しになった! だが……この呪いを解いて、日常(と俺の平穏な隠居計画)を取り戻すぞ!!」

こうして。

1年S組の面々は、互いの生々しい本音をダダ漏れにさせながら、リアンの命を懸けた『厄落としの霊峰』への決死行に出発することになった。

ただの平坦な道すら『死のトラップ』と化す、リアンの地獄の珍道中が幕を開ける。

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