EP 3
誕生日パーティー開幕! 迫り来る二つの呪い
「ふはぁ~……! すっごくいい匂い! ルナ、もうお腹と背中がくっつきそうだよ!★」
シンフォニア男爵邸の広大なダイニングルーム。
テーブルの中央に鎮座する巨大な土鍋から立ち上る、黄金色のブイヤベースの香りが部屋中に充満していた。
「ん。キャルルも、お肉(魚)食べたい。村長、早くゴーサイン出して」
「待て待て、主役の俺より先に食おうとすんな。まずは儀式(プレゼント交換)が先だろ」
エプロンを外したリアンは、よだれを垂らすルナとキャルルを制し、自分の席である上座にドカッと腰を下ろした。
今日はリアン・シンフォニアの8歳の誕生日パーティー。
集まったのは、クラウス、ルナ、キャルル、ダイヤ、そしてリーザという、1年S組の規格外メンバーたちだ。
「よし! じゃあキャルルからプレゼント! はい、星の砂を集めた小瓶だよ! 綺麗でしょ!★」
キャルルが無邪気な笑顔で、キラキラ光る砂の入った小瓶を差し出した。
「お、おう。サンキュ」
リアンは笑顔で受け取りつつも、内心で(原価ゼロじゃねぇか。海辺で拾ってきたな……まぁ、気持ちの問題か)と、前世の打算的な大人の顔で計算していた。
「リアンP! 私からは、撮影現場で重宝する『超軽量型チタン製折りたたみパイプ椅子(特注品)』です!」
「おう、ダイヤ。それは普通に助かるわ。エターナル世界のコンサルでパイプ椅子が壊れかけてたからな」
次々とプレゼントが渡され、いよいよ、極貧サバイバー・リーザの番が回ってきた。
「リアン君……いつも美味しいご飯を作ってくれて、ありがとう。これ、私からのプレゼント!」
リーザは、泥を綺麗に洗い落とし、ピカピカに磨き上げた『ふ~ん石』をリアンの手のひらに乗せた。
「なんだこれ。やけに綺麗な虹色の石だな」
「えへへ、帝都を歩いてたら『偶然』見つけたの!(※野良犬と死闘を繰り広げたゴミ捨て場で)」
「へぇ、わざわざ探してくれたのか。ありがとな、リーザ」
リアンがその虹色の石をしっかりと握りしめた、その瞬間である。
ピキィィィィンッ……!!
リアンの耳の奥だけで、ガラスに致命的なヒビが入ったような、不吉極まりない音が鳴り響いた。
(……ん? なんだ今の音。耳鳴りか……?)
リアンが不思議に思いながら、自分の椅子に座り直そうと体重をかけた、その時。
バキィッ!!
「――は?」
これまで一度も壊れたことのない、最高級のマホガニー材で作られた頑丈な椅子の脚が、まるで最初から折れていたかのように、唐突にへし折れた。
「どわぁっ!?」
リアンは無様に宙を舞い、お尻から床に激突した。
「り、リアン君!? 大丈夫!?」
リーザたちが慌てて駆け寄る。
「い、痛てぇ……。なんだこの椅子、シロアリにでも食われてたのか……? まぁいい、怪我はねぇよ」
リアンが立ち上がり、後頭部をさすりながら開いた窓のそばに立った、その瞬間。
「カァァァーーッ!!」
窓の外を飛んでいた一羽のカラスが、見事な爆撃を投下。
それは見事な放物線を描き、つい先日、女神リリスのスマホの角で殴られてできた『リアンの頭頂部のタンコブ』の上に、ベチャッ!とクリティカルヒットした。
「…………」
「り、リアンぁぁぁっ! 運が悪い! 今日の君はあまりにも不運すぎるぞ!」
クラウスがハンカチを取り出して慌てふためく。
「……チッ。なんだってんだ、急に運が下ブレしやがって。……ただの偶然だろ」
リアンはカラスのフンを拭き取りながら、毒づいた。
彼はまだ気づいていない。ポケットに入れた『ふ~ん石』の呪いにより、今の彼の運勢のパラメーターが【絶対的底辺(通常時のリーザ以下)】という、生物としてあり得ないマイナス数値に固定されてしまったことに。
「まぁいい、厄落としだ。……お前ら、プレゼントありがとうな」
リアンは気を取り直し、新しい椅子(ダイヤがくれたチタン製パイプ椅子)に座り直した。
そして、テーブルの中央にある土鍋の蓋を、勢いよく開け放つ。
パァァァァァァンッ!!
立ち昇る黄金の湯気。
濃厚な魚介のスープの中で、真っ黒なつみれ(暴露鯛)が宝石のように輝いている。
「さぁ、俺が前世……いや、俺の持てる技術の全てを注ぎ込んで作った、極上の海鮮ブイヤベースだ。冷めないうちに食え!」
「「「いただきま~す!!」」」
ルナが、キャルルが、リーザが、クラウスが、ダイヤが。
そして、自分で作った料理に絶対の自信を持つリアン自身が。
スプーンで『暴露鯛のつみれ』をすくい、一斉に口の中に放り込んだ。
「――――ッ!!」
全員の動きが、ピタリと止まった。
(……美味い! なんだこれ!?)
リアン自身、自分の料理でありながら戦慄した。
呪いの成分がアミノ酸と結合した結果、舌の上で爆発する旨味は、前世の三ツ星レストランのフルコースすら児戯に等しい『神の味』に昇華されていたのだ。
だが、極上の美食体験は、ほんの一瞬のこと。
次の瞬間。
ブチィィィィィィィィィッ!!!!!
S組全員の脳内で、理性を司る「ストッパー」が、太いワイヤーがちぎれるような音を立てて物理的に吹き飛んだ。
「……え?」
リアンは、持っていたスプーンを取り落とした。
おかしい。
胸の奥から、胃液よりももっと熱くて、ドロドロとした『絶対に他人に言ってはいけない秘密』が、喉元までせり上がってくる。
(ま、待て……! なんだこの感覚!? 違う、言うな! 絶対に口を開くな、俺ェェェッ!!)
前世の記憶。
転生者であるという、この世界における最大の機密事項。
それが、暴露鯛の呪いによって、ダムが決壊したように押し寄せてくる。
リアンは必死に両手で口を押さえたが、自白剤の王の力は、7歳の子供の抵抗など軽々と打ち砕いた。
「じ……実は、俺は……っ!!」
リアンの口が、勝手に開き始める。
そして、異変が起きたのはリアンだけではない。
ルナの瞳孔が開き、リーザが立ち上がり、クラウスが天を仰いでいた。
誰も止まらない。
誰も止められない。
男爵邸のダイニングルームで、1年S組の全てを破壊する【強制カミングアウトの嵐】が、今まさに吹き荒れようとしていた――!!
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