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第九章 8歳児の勇者

底辺サバイバーのプレゼント選びと、輝く厄災

「ふぅ……。明日はいよいよ、俺の『8歳の誕生日』か、、俺がリアンになってから、色々あったなぁ」

ルナミス帝国、シンフォニア男爵邸。

自室の窓枠に肘をつきながら、リアン・シンフォニアは夜空を見上げて小さく息を吐いた。

彼の魂には、前世の記憶が宿っている。

前世の名前は、青田優也あおた ゆうや。25歳という若さで三ツ星レストランの『洋食系副料理長スーシェフ』にまで上り詰めた天才肌だったが、狂ったような連日連夜の激務の末、厨房で過労死してこの異世界に転生してきたのだ。

「前世の25年間、誕生日なんてものは『他人の記念日のために、厨房のオーブンの前でひたすら汗を流す日』でしかなかったからな……。仕事終わりに、一人で冷めたコンビニ弁当を食って祝うのが関の山だった」

リアンは、机の上に置かれた『明日の誕生日パーティーの招待状リスト』を見つめた。

そこには、クラウス、ルナ、キャルル、ダイヤ、リーザといった、1年S組の規格外カオスな面々の名前が並んでいる。

「まぁ、たまには子供らしく、純粋に祝われる側に回るのも悪くねぇか。あいつらもプレゼントを用意してくれてるらしいしな」

リアンは口元に微かな笑みを浮かべた。

この時の彼は、まだ知る由もなかった。明日、自分の身に『前世の過労死以上の理不尽な地獄』が降りかかることなど――。

時を同じくして。

ルナミス帝国の帝都、その薄暗い裏路地。

「どうしよう……。明日はリアン君の誕生日なのに、私のお財布には『1カピ(約1円)』も入っていないわ……!」

極貧サバイバーアイドル・リーザは、頭を抱えてしゃがみ込んでいた。

元・三ツ星洋食系副料理長であるリアンの手料理は、控えめに言って神の領域だ。いつもタダで美味しいご飯を食べさせてもらっている恩返しとして、どうしても素敵なプレゼントを渡したかった。

だが、悲しいかな。彼女の『絶対的貧困』というステータスは、誕生日というイベントにおいてあまりにも無力だった。

「だ、ダメよリーザ! サバイバーたるもの、お金がないなら知恵と足で稼ぐのよ! 帝都のどこかに、タダで手に入る素敵なお宝が落ちているはず……!」

リーザが血走った目で帝都の裏路地を徘徊し、たどり着いたのは――庶民向け魔導コンビニエンスストア『タローソン』の裏手にある、巨大なゴミ捨て場だった。

「あったわ……! タローソンの廃棄弁当! しかも、まだ消費期限が3分しか過ぎていない『特盛から揚げ弁当』よ!」

プレゼント探しという本来の目的を完全に忘れ、リーザの生存本能が廃棄弁当にロックオンした。

彼女がゴミ箱に手を伸ばそうとした、まさにその時である。

「――グルルルルルルッ!!」

「ひゃっ!?」

ゴミ箱の陰から飛び出してきたのは、ただの野良犬ではない。

魔界の番犬・ケルベロスの血を微かに引く、三つの頭を持った凶暴な『魔野良犬マノラインヌ』だった。

犬の真ん中の口には、リーザが狙っていた『特盛から揚げ弁当』がしっかりと咥えられている。

「ああっ! 私のから揚げ弁当! 退きなさい! それは私の明日の命(朝ごはん)よ!」

「ガウッ! ガルルルルッ!!」

魔野良犬が牙を剥き出しにして威嚇する。並の大人なら悲鳴を上げて逃げ出すところだ。

だが、相手が悪すぎた。

「渡すもんですかぁぁぁッ!!」

リーザは躊躇うことなく泥の海へとダイブし、魔野良犬の背中にマウントを取った。

「キャンッ!? ギャウウウッ!!」

「離せ! そのから揚げは私のものよ! 私は今日、お水しか飲んでないのよぉぉッ!!」

薄暗い裏路地で繰り広げられる、魔獣と美少女ヒロインによる、廃棄弁当を巡る血で血を洗う死闘。

泥まみれになり、髪を振り乱しながら、ついにリーザは魔野良犬の口から弁当を奪い取ることに成功した。

「ハァ……ハァ……! 勝った……! これで明日の朝も生き延びられるわ……!」

敗北した犬が「キャイン、キャイン……」と逃げていくのを見送りながら、リーザは弁当を大切に胸に抱きしめた。

その時である。

「……ん?」

犬が暴れてひっくり返ったゴミ箱の底。

腐った野菜くずと泥にまみれたその場所に、キラリと輝く虹色の石が転がっているのを見つけた。

「な、なんて綺麗な石……!」

リーザがその石を拾い上げ、泥を袖で拭き取ると、それは月の光を反射して神秘的な七色の輝きを放った。

宝石の知識などないリーザだったが、本能的に「これはすごいお宝だ」と確信する。

「すごいわ! 傷ひとつないし、とっても綺麗! これなら、リアン君への誕生日プレゼントにぴったりだわ!」

リーザは満面の笑みを浮かべ、その虹色の石を大切にポケットにしまった。

タダで最高のプレゼントを見つけた喜びにステップを踏みながら、彼女はねぐら(廃墟)へと帰っていく。

だが。

彼女の背中を見送る【神の視点】の目の前にだけ、残酷すぎるシステムウィンドウが浮かび上がっていた。

【アイテム鑑定結果】

名称: ふ~ん石(負運石)

レアリティ: 呪物(神話級)

効果: 所有者の『運勢』の数値を、強制的に【絶対的底辺(リーザの通常時の運勢以下)】に固定する。一度所有者として認識されると、捨てても必ず手元に戻ってくる。

それは、触れた者の人生をどん底に突き落とす、アナスタシア世界でも最悪クラスの厄災の石。

「ふふっ♪ リアン君、喜んでくれるといいな!」

何も知らない極貧少女は、最悪の呪い(プレゼント)を胸に抱き、リアンの待つ男爵邸へと向かう。

翌日、この美しくも恐ろしい『ふ~ん石』が、リアン・シンフォニアの人生設計を、根底から破壊し尽くすことになろうとは――。

読んでいただきありがとうございます。

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いつの間に厨房で過労死になったの? 猫助けて撲殺されてなかった?
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