EP 21
グランドフィナーレ(同接1億人)
「痛ぇ……。だが……これで舞台は完全に整った」
頭頂部にそびえ立つ巨大なタンコブを押さえながら、リアンは不敵な笑みを浮かべて立ち上がった。
女神リリスの渾身のツッコミ『ホーリー・スマッシュ(物理)』によって暴走は止まり、エターナル世界のサーバーは奇跡的に安定を取り戻した。
そして、God-Tubeの画面右上には、神界の歴史を塗り替える前人未到の数字が輝いている。
【同時接続者数:100,000,000人(世界ランキング1位)】
「よしダイヤ、メインカメラ(視点)を魔王城の最深部へ切り替えろ! ここからが正真正銘、伝説のグランドフィナーレだ!」
「イエッサー!! 最終決戦、カメラ回しまーすッ!!」
リアンの指示で、大画面モニターに魔王の玉座の間が映し出される。
そこでは、世界の命運(と己の借金)を懸けた、狂気の最終決戦が繰り広げられていた。
「フハハハハ! 愚かな社畜(勇者)よ! 我が社(魔王軍)の無限の資本力と、24時間稼働の非正規雇用(召喚獣)の前にひれ伏すがいい!」
インテリヤクザ風の銀縁メガネを光らせ、悪のCEOと化した魔王ゴウマが高らかに笑う。
その周囲には、闇魔法で洗脳された無数の下級魔族たちが、無給で徹夜作業をさせられる社畜のように群がっていた。
「ふざけるな、クソ上司(魔王)!! お前を倒して報奨金をもらわなきゃ、俺は魔界のタコ部屋で一生ツルハシを振るうことになるんだよぉぉッ!!」
全身を泥とスライムの粘液で汚し、血走った目で剣を構える勇者ユート。
彼の背後には、純白のローブを着た腹黒ドS聖女リリナが、鉄の杖をピチピチと鳴らしながら仁王立ちしていた。
「さぁ、働きなさい不良債権! ここで倒れたら、蘇生費用としてさらに借金を100万ゴールド上乗せしますからね♡ 骨の髄まで削ってボーナス(魔王の首)を稼ぎなさい!」
「鬼! 悪魔! でもやるしかねぇぇぇッ!!」
ユートは狂戦士のような雄叫びを上げ、魔王が召喚したケルベロス(派遣社員)の群れに突っ込んでいく。
「無駄だ! 我が社のリソースは無限! さぁ、新たな人員を補充(追加召喚)してやる……!」
ゴウマが指を鳴らし、巨大な召喚陣を展開しようとした、その時だった。
『――残念だが、そいつはもう使えないぜ。魔王の旦那』
突如、玉座の間の空間に『魔導通信のホログラム』が浮かび上がった。
そこに映っていたのは、仕立てのいい高級スーツ(ネット通販製)を着こなし、葉巻をくわえた15歳の少年――スラムの若き起業家、シオンだった。
「な、なんだ貴様は!? スラムのネズミが、なぜ我が社の会議(最終決戦)に割り込んでくる!」
ゴウマがメガネを押し上げて睨みつける。
「俺は『株式会社スラム運送』のCEOだ。……魔王の旦那、あんたが召喚獣を呼ぶための『触媒(魔法石)』の流通ネットワーク、俺たちが裏で全部買い占め(M&A)させてもらったよ」
シオンはニヤリと笑い、分厚い契約書の束を画面越しに見せつけた。
「なっ……何ィィィッ!? ば、馬鹿な! 我が社のサプライチェーンが、こんなガキに牛耳られているだと!?」
「あんたが玉座でふんぞり返ってる間に、市場のルールは変わったんだよ。触媒が欲しけりゃ、俺たちの会社から市場価格の100倍で買うんだな!」
シオンの鮮やかな『経済的下剋上(敵対的買収)』が炸裂した。
魔王軍のインフラは完全にストップし、ゴウマの周囲から召喚獣(派遣社員)たちが次々と消え去っていく。
『うおおおおおっ! スラムの少年が物流を制圧した!!』
『魔王軍、まさかの兵站崩壊www』
『剣と魔法の世界で「敵対的買収」を見る日が来るとは……ッ!』
『これがリアンPの仕掛けた「裏の主人公」か! 熱すぎる!!』
1億人の神々が、かつてない展開に大熱狂し、コメント欄が滝のように流れる。
「今だ、勇者! 奴の資本(魔力)が尽きたわ! トドメを刺しなさい!!」
聖女リリナが鉄の杖でユートの背中を全力でぶん殴る(物理バフ)。
「ああああっ! 俺の、俺の借金返済の邪魔をするなぁぁぁッ!!」
ユートは『鉄の剣』を大上段に構え、限界まで闘気(生きる執念)を練り上げた。
剣身が、1億ゴールドという莫大な借金の重みを乗せて、眩いほどの黄金色に輝き始める。
「ば、馬鹿な! 我が社が、こんな泥臭い社畜とベンチャー企業に倒されるなどぉぉっ!」
ゴウマがインテリメガネを吹き飛ばしながら絶叫する。
「これで……完済だぁぁぁッ!!」
ユートが渾身の力で振り下ろした必殺の一撃。
「『フル・リペイメント・バスター(一括返済斬り)』ッッッ!!!!」
ズバァァァァァァァァァァァンッッッ!!!!
黄金の斬撃が魔王ゴウマの巨体を真っ二つに切り裂き、城の天井ごと吹き飛ばした。
悪のCEOは「労働基準法違反で……倒産だとぉぉっ……!」という断末魔と共に、巨大な光の粒子となって爆散した。
【GAME CLEAR】
チープだった8ビットのBGMが、突如として壮大なフルオーケストラ(神界からの祝福のファンファーレ)に切り替わった。
「た、倒した……! これで借金が……!」
ユートがその場に崩れ落ちて号泣する。
「よくやりましたね不良債権! これで私のセレブ生活は安泰です! さぁ、魔王の金庫を漁りますよ!」
リリナが満面の笑みで魔王城の奥へと走っていく。
「……終わった」
モニターの前で、クラウスが完全に真っ白に燃え尽きた顔で呟いた。
「僕の知っている勇者と魔王の物語が、資本主義の暴力と債務整理のドキュメンタリーに塗り替えられてしまった……」
だが、クラウスの絶望を他所に、God-Tubeの配信画面は人類(神々)未踏の領域へと突入していた。
ピカァァァァァァァァァァァンッッッ!!!!
画面が直視できないほどの、神々しい黄金の光に包まれた。
『【最高神ゼウス】から 10,000,000円 のスーパーチャット!:【見事だ! これぞ現代の神話! 最高の喜劇であった!】』
『【冥界神ハデス】から 8,000,000円 のスーパーチャット!:【あのクソ上司が散る瞬間、最高にスカッとしたぜ!】』
『【商業神ヘルメス】から 5,000,000円 のスーパーチャット!:【シオンの株を! 私にスラム運送の株を売ってくれぇぇ!】』
数万円、数十万円というスパチャの雨が、文字通り「億」の単位となってエターナル世界に降り注いでいる。
「ひゃああああああああっ!! お、お金が! お金がいっぱいですぅぅぅっ!!」
リリスが両手でスマホを抱きしめ、飛び跳ねて号泣している。
「世界が、私の世界が救われました! これでマグローザ漁船に乗らなくて済みます! リアン様、皆さん、本当に、本当にありがとうございますぅぅっ!!」
「フッ……まぁ、俺のコンサルティングにかかればこんなもんだ」
タンコブを押さえながら、リアンはニヤリと極悪プロデューサーの笑みを浮かべた。
(よし! ざっと計算して、スパチャの総額は5億円を下らねぇ。俺の取り分はその9割……! ポポロ村の赤字5000万なんて余裕でペイして、お釣りがドッサリ来るぜ!)
リアンは脳内で大量の金貨の山を思い描き、勝利の美酒に酔いしれていた。
この「圧倒的大勝利(黒字)」が、次の瞬間には『天界のえげつないシステム』によって地獄の底へと叩き落とされることなど、露知らずに――。




