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EP 19

悪のCEO、誕生

キィィィィン……バタンッ!

魔王城の最深部。重々しい大扉を開けると、そこには禍々しいドクロの意匠が施された玉座の間が広がっていた。

部屋の奥では、漆黒の玉座に深く腰掛けた巨漢の魔族が、チープな8ビットのラスボスBGMと共に待ち構えていた。

「フハハハハ……! よくぞここまで来たな、人間ども。我こそは世界を闇に染める者、魔王ゴウマ!」

頭上に【魔王 ゴウマ】と浮かべたその男は、立ち上がると同時に自身の背丈ほどもある『巨大な両手剣』を抜き放った。

さらに、左手から『闇魔法』の黒いオーラを立ち昇らせ、足元には魔法陣を展開して『召喚獣(ケルベロス風の犬)』を呼び出す。

「さぁ、我が絶望の剣と、闇の力、そして魔獣の牙の前にひれ伏すが……」

「カーッ! カットカットォォォッ!! 大魔王、属性がとっ散らかってまーす!!」

ADダイヤの情赦ないメガホンが、ラスボスの威厳を粉々に打ち砕いた。

「な、なんだ貴様らは!? 勇者ではないのか!」

ゴウマが両手剣を構えたまま戸惑う。

リアンは玉座の前にパイプ椅子を置き、どっかりと腰を下ろしてバインダーでゴウマを指差した。

「おい魔王。お前、自分が『何がしたいキャラ』なのか、ちゃんと分かってんのか?」

「な、何を言っている! 私は世界を滅ぼす魔王だ!」

「だから、コンセプトがブレブレなんだよ! 両手剣の使い手? さっき『炎魔将軍グレン』を両手剣の熱血ライバルにコンサルしたばっかだ、モロ被りしてんだろ! しかも闇魔法も使って、召喚獣も出す? 器用貧乏の極みじゃねぇか!」

リアンは立ち上がり、ゴウマの手から巨大な両手剣を無理やりひったくった。

「武器没収! お前みたいな『全部乗せ』の欲張りセットは、逆にキャラの印象が薄くなる。一番ダメなボスの典型だ、ボツ!!」

「わ、私の魔剣ガーランドがあぁぁっ!?」

情けなく叫ぶ魔王を無視し、リアンはプロデューサーとしての極悪な笑みを浮かべた。

「いいか。勇者が『1億ゴールドの借金を背負った社畜』になった以上、お前がただの『世界を滅ぼす魔王』では対比コントラストが弱すぎる。……お前は今日から、魔王軍という巨大ブラック企業を統治する『悪のCEO(頭脳派ラスボス)』になれ」

「あ、悪の……しーいーおー?」

「そうだ」

リアンは『ネット通販』で取り寄せた、インテリヤクザがかけそうな『銀縁の伊達メガネ』をゴウマの顔に無理やり装着させた。

「お前の『闇魔法』は、部下を洗脳して無給で働かせるための『マインドコントロール(社内研修)』だ! そして『召喚獣』は、使い捨ての『非正規雇用(派遣社員)』だ! お前は玉座から一歩も動かず、圧倒的な資本力と理不尽なノルマで勇者を精神的に追い詰める、インテリ魔王になるんだよ!」

それは、リアンが前世のブラック企業時代に散々煮え湯を飲まされた『クソ上司(社長)』の姿そのものだった。リアンの声には、謎のリアリティと怨念がこもっている。

「なるほど……!」

伊達メガネをかけたゴウマの脳内に、リアンの『ブラック経営学』がインストールされていく。

彼の瞳からテンプレの粗暴さが消え、代わりに底知れぬ『冷徹な経営者』の光が宿った。

「フハハハ……! 勇者よ、我が社(魔王軍)の圧倒的資本力と、24時間稼働の召喚獣(非正規雇用)の前にひれ伏すがいい! 貴様の有給休暇など、我が社には最初から存在しないのだ!」

ゴウマが闇魔法のオーラを纏いながらインテリなセリフを吐くと、その姿は先ほどまでの量産型魔王とは比べ物にならないほどの『現代的な絶望感』を放っていた。

「ああっ……! 魔王が、ただの『嫌な上司』に……! 勇者と魔王の最終決戦が、労働組合の団体交渉みたいになってしまったぁぁ!」

クラウスが頭を抱え、騎士道の完全な崩壊に涙を流す。

だが、God-Tubeの反応はクラウスの絶望と完全に反比例していた。

ピピピピピピピッ!!!

ピカァァァン! ピカァァァン!! ピカァァァン!!!

『うおおおおっ! なんだこのボス、ムカつくけど最高に悪役してる!!』

『「召喚獣=非正規雇用」のパワーワードで腹筋崩壊したww』

『借金背負った社畜勇者 VS ブラック企業のインテリCEO! 最高の構図じゃねぇか!!』

『【冥界神ハデス】から 1,000,000円 のスーパーチャット!:【素晴らしい! これぞ現代の地獄! 勇者、このクソ上司の首を取れぇぇッ!】』

『【戦神アレス】から 500,000円 のスーパーチャット!:【物理の殴り合いより熱いぜ! 資本主義の最終戦争だ!】』

「り、リアン様ぁぁぁっ! ついに視聴者数が500万人を突破しました! スパチャの総額も数千万円規模ですぅぅぅっ!!」

リリスがオーバーヒート寸前の『エンジェルすまーとふぉん』を両手で掲げ、発狂寸前の声で報告する。

「フッ、当然だ。現代社会(天界)でストレスを抱えてる連中にとって、『ブラックな権力者』が『泥臭く這い上がる下剋上主人公』にぶっ飛ばされる展開は、最高にドーパミンが出る劇薬だからな」

リアンは腕を組み、完璧に仕上がった世界観を見渡した。

借金返済のためにスライムを乱獲する社畜勇者ユート。

その勇者を背後で操る腹黒ドS聖女リリナ。

スラムで経済ネットワークを牛耳る若きCEOシオン。

最前線で暴れ回る炎魔将軍と、冷酷無比な氷魔女帝。

無茶な合併の犠牲になった悲しき中間管理職キメラ、ドスンダ。

そして、それら全てを上から睥睨する悪のインテリCEO、魔王ゴウマ。

テンプレだらけで過疎りきっていたクソゲー世界『エターナル』は、リアンの辣腕コンサルティングにより、わずか数時間で「血で血を洗う、リアルすぎる群像劇ダークファンタジー」へと劇的な進化を遂げていた。

「よし、これで演者キャストの配置は全て完了した。……だが」

リアンは、スマホの画面に表示された『500万人』という数字を見て、目を細めた。

「まだ足りねぇ。……目標は『God-Tube世界ランキング1位』、同接1億人だ。ここからさらに数字を爆発させるためには、普通のストーリー進行じゃ生温い」

リアンのギラついた視線が、後ろで呑気にポップコーンを食べているルナと、安全靴で床のタイルを割って遊んでいるキャルルに向けられた。

「……おい、ルナ、キャルル。お前らの出番だ」

「えっ? ルナたちも遊んでいいの?★」

「うん! キャルル、準備オッケーだよ!」

リアンは、極悪プロデューサーとして、放送事故スレスレの『最終プラン』を指示した。

「あぁ。お前らは『エキストラ(謎のお助けキャラ)』として、この世界に乱入しろ。……やりすぎなくらい派手に暴れて、画面をメチャクチャにしてこい。炎上商法ヤラセで、残りの9500万人を一気に引っ張り込むぞ」

エターナル世界を根本から破壊しかねない、1年S組の特攻兵器(ルナ&キャルル)が、いよいよカメラの前に解き放たれようとしていた。

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