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EP 1 8

魔王城コンサルティング(後編)~悲しき中間管理職~

「さて。残る四天王は『雷』と『土』だが……」

リアンはバインダーの資料をパラパラと捲りながら、ため息交じりに次の扉を蹴り開けた。

そこには、黄色いツンツン頭で双剣を構えた細身の魔族と、茶色い岩のような肌で巨大なハンマーを担いだ巨漢の魔族が、棒立ちで並んでいた。

頭上にはそれぞれ【雷魔将軍 サンダ】【土魔将軍 ドスン】と浮かんでいる。

「我ら! 魔王軍四天王が二角!」

「雷のサンダと! 土のドスン! 勇者よ、ここから先へは通さ……」

「カーッ! カットカットォォォッ!! 前口上が長ぇよ! テンポが悪い!!」

ダイヤの無慈悲なメガホンが、二人のモブ将軍のセリフをぶった斬った。

「な、なんだ貴様らは!? 勇者ではないのか!」

サンダとドスンが慌てて武器を構え直す。

リアンはパイプ椅子に座り、足を組んで二人を冷ややかに見つめた。

「お前ら、ただ『雷』と『土』って属性を割り振られただけで、キャラが薄すぎるんだよ。セリフも汎用モブの使い回しじゃねぇか。エターナル世界(この番組)には、もう『炎の熱血漢』と『氷のドS女帝』っていう強烈なツートップがいるんだ。お前らみたいな個性ゼロの連中がダラダラ尺を取ると、視聴者(神々)がブラウザバックすんだよ」

「こ、個性ゼロだと!?」

「俺のハンマーは攻撃力設定が高いんだぞ!」

必死にアピールするドスンだが、リアンは冷酷な『コストカッター』の顔になった。

「画面がゴチャつくし、出番に対するコスパが悪すぎる。……お前ら二人はリストラだ。今すぐ魔王軍から荷物をまとめて田舎に帰れ」

「「り、リストラーーーッ!?」」

二人の魔将軍が、ガーン!とショックを受けて膝をついた。

「ま、待ってくれ! 俺たち、魔王軍の幹部になるために何十年も下積みして、やっと四天王のポストを手に入れたんだぞ!」

「ここでクビになったら、田舎の母ちゃんに合わせる顔がねぇ……! 頼む、雑用でもいいから置いてくれぇぇ!」

モブ将軍たちのあまりにも生々しい悲鳴。

クラウスが「ああ……敵ながら可哀想に……。魔王軍にも生活というものがあるんだね……」とホロリと涙を流している。

「……まぁ、せっかくリリスが作ったアセット(素材)を完全に捨てるのも勿体ねぇな」

リアンは顎に手を当てて思考を巡らせると、悪魔的な解決策ソリューションを閃いた。

「おい、リリス」

「は、はいっ!」

「その『エンジェルすまーとふぉん』の管理画面で、こいつら二人のNPCデータを『グループ化(結合)』しろ」

「えっ!? 結合って……二人のモデルデータを、一つにくっつけるってことですか!?」

「そうだ。キャラが薄いなら、無理やりくっつけて『特盛り』にしてやればいい。登場人物も減って尺の節約コストカットになる。一石二鳥だ」

「ムチャクチャですよ! そんなことしたらバグっちゃいます!」

「いいからやれ。やらないとマグローザ漁船だぞ」

「ひぃぃぃっ! や、やりますぅ!」

リリスが泣きながらスマホの画面を操作し、サンダとドスンのアイコンをスワイプして『ガッチャンコ』と重ね合わせた。

そして、恐る恐る【適用】ボタンを押す。

ピロリロリロリィィィンッ!!

「「ぎゃあああああああぁぁぁっ!?」」

サンダとドスンの体が激しい光とノイズに包まれ、粘土のようにグチャグチャに混ざり合い……そして、一つの異形の姿となって再構築された。

光が収まった後に立っていたのは、右半身が「岩のように巨大で茶色く」、左半身が「細身で黄色いツンツン頭」という、恐ろしくアンバランスなキメラ魔族だった。

右手には巨大なハンマーを持ち、左手には双剣(の一本)を握らされている。

頭上のテキストは文字化けを起こした末、こう書き換えられた。

【雷土魔将軍 ドスンダ】

「……な、なんだこの体はぁぁぁっ!?」

ドスンダの左半身サンダがパニックになって叫ぶ。

「重い! 右半身が重すぎるぞドスン! お前の岩肌のせいで肩こりが酷い!」

「うるさいサンダ! お前の方こそ、ずっと左半身から静電気をバチバチ流しやがって! 俺の右半身まで痺れてるじゃないか!」

ドスンダの右半身ドスンが怒鳴り返す。

「ふざけるな! そもそもなんで二人分の仕事を、一つの体でやらなきゃならねぇんだ! これじゃあ給料は一人分(半分)にカットされてるじゃねぇか!」

「人員削減のしわ寄せを現場に押し付けやがって! 右手でハンマー振り回しながら、左手で剣の連撃なんて器用なこと出来るかァァッ!」

一つの体の中で、右と左が完全に意思疎通できず、内部崩壊を起こしながら大喧嘩を始めている。

「……リアン君。なんか、見ててすごく可哀想になってきたよ……★」

ルナがポップコーンを食べる手を止めて、同情の目を向ける。

「いや、これでいい」

リアンは腕を組み、してやったりの顔で頷いた。

「ただのテンプレ将軍より、よっぽど人間味(魔族味)が出てる。これぞ、無茶なコストカットと合併(M&A)の犠牲になった『悲しきキメラ中間管理職』だ」

そのリアンの予想は、またしても天界の視聴者たちにクリティカルヒットしていた。

ピピピピピピピッ!!!

ピカァァァン! ピカァァァン!!

God-Tubeの画面が、これまでで一番の猛烈な勢いでスパチャの光に包まれた。

『うおおおおっ……! なんだこの将軍……俺たちのことかよ……!』

『「二人分の仕事を一人でやらされる」「でも給料は一人分」……泣ける。リアルすぎて泣けるぞ!!』

『上層部の無茶な部署統合フュージョンの犠牲者www』

『頑張れドスンダ! 勇者に負けるな! 明日を生き抜け!!』

『【鍛冶神ヘファイストス】から 100,000円 のスーパーチャット!:【わかるぞ! ワシもいつも他の神々の無茶振りを一人で処理させられてる! 酒の足しにしてくれ!】』

『【農耕神デメテル】から 50,000円 のスーパーチャット!:【ドスンダの右肩に湿布を貼ってあげたい……! 涙が止まらないわ!】』

『【天界の一般社畜神A】から 10,000円 のスーパーチャット:【俺たち中間管理職の星! ドスンダ最高ぉぉぉっ!!】』

天界で日々、理不尽な業務に追われている労働階級の神々(サラリーマン神)たちの魂に、ドスンダの悲哀が完全にぶっ刺さってしまったのだ。

「り、リアン様ぁぁぁっ! 中間管理職の神様たちからの小額スパチャの嵐が止まりません! 塵も積もってとんでもない金額になってますぅぅぅッ!!」

リリスがスマホから噴き出す光のシャワーを浴びながら、信じられないものを見る目でリアンを拝んだ。

「ヒッヒッヒ……大衆の『共感』を煽るのが、視聴率カネを稼ぐ一番の近道だからな」

リアンは悪代官のように笑い、ドスンダに向かって親指を立てた。

「おい、ドスンダ! お前ら、いや『お前』は、そのまま勇者の前に立ち塞がれ! 勇者の剣を受けながら『こんなブラックな魔王軍、もう辞めてやるぅぅ!』と叫びながら散るんだ! 絶対にバズるぞ!」

「うおおおぉぉぉっ! やってやる! 俺たちの悲哀を、世界に叩きつけてやるぅぅっ!」

「見てろよ天界の神々! 中間管理職の意地を見せてやるぞぉぉっ!」

右半身と左半身で涙を流しながら、ドスンダはドタバタと不器用な足取りで勇者の元へと走っていった。

「さて……」

リアンはバインダーを閉じ、魔王城のさらに奥、最深部へと続く重厚な扉を見据えた。

「これで前座(幹部)のテコ入れは全て終わった。……いよいよ大トリ、このブラックな組織のトップに君臨する『魔王』のコンサルティングだ」

S組と見習い女神一行は、ついにこの世界のラスボス『魔王ゴウマ』の玉座の間へと足を踏み入れる。

そこには、リアンの前世のトラウマを呼び覚ます、最も厄介なコンサルタント業務が待ち受けていた。


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