EP 17
魔王城コンサルティング(前編)〜熱血と女帝〜
「さて、やってきたぜ魔王城。……って、なんだこの湿気とカビの匂いは。ダンジョン(職場)の環境が悪すぎるだろ」
リリスの管理者権限(ワープ機能)を使い、一瞬で魔王城の奥深くへと転移したリアン一行。
だが、そこは恐怖の魔王城というより、予算不足のゲーム開発会社の地下室のような、どんよりとした空気が漂っていた。
「予算がなくて、魔王城のお掃除AIまで手が回らなくて……」とリリスが縮こまる中、リアンはズカズカと城の廊下を進み、ある一つの『執務室』のドアを蹴り開けた。
「失礼するぜ。……って、おい」
リアンが立ち止まり、呆れたような声を出す。
部屋の奥では、真紅の髪を逆立て、巨大な両手剣を壁に立てかけた巨漢の魔族が、小さなデスクに向かってせっせと『ハンコ』を押していた。頭上には【炎魔将軍 グレン】と浮かんでいる。
「む? 貴様ら、人間か。……すまないが今は忙しい。第3四半期のゴブリン部隊の経費精算を終わらせないと、魔王様に怒られるのでな。戦闘なら、勇者がこの部屋まで到達する『第45話』くらいまで待ってくれ」
炎魔将軍グレンは、いかにも熱血漢な顔つきで、信じられないほど所帯染みたセリフを吐いた。
「……カーッ! カットカットォォォッ!! そこの将軍、カメラ止めまーす!!」
ADのダイヤが、メガホンで容赦ないダメ出しを叩きつける。
「なんだ貴様ら! 魔王軍の神聖な事務作業を邪魔する気か!」
グレンが立ち上がるが、リアンはパイプ椅子をバンッ!と床に叩きつけ、その上に立ってグレンを睨みつけた。
「炎魔将軍だぁ? お前みたいな熱血馬鹿が、何故事務整理の仕事をしてるんだよ! コンセプトが完全に崩壊してんだろ!」
「そ、それは……リリス様(創造主)が『とりあえず魔王軍の幹部っぽく城の奥に配置しておけばいい』と設定したからで……俺だって本当は暴れたいんだ!」
「なら暴れろ! いいか、今はもうエターナル配信開始から『第6話(相当)』だぞ! なのに勇者の村を焼き払うイベントもやってねぇ! 読者(視聴者)は待ってくれねぇんだよ!」
リアンはバインダーでグレンの胸板をバンバンと叩いた。
「『勇者が育つまで城の奥で待つ』なんて古臭いんだよ。お前は今すぐ城を飛び出して、スライム相手に小銭を稼いでる勇者の目の前に降り立て! そして圧倒的な力で村を焼き払い、主人公の全てを奪う『カリスマ的ライバル』になれ!」
「し、しかし……俺が今出て行ったら、勇者は瞬殺されてしまうぞ!?」
グレンが戸惑う。
「殺す寸前で『お前にはまだ殺す価値もない』とか適当な中二病セリフを吐いて帰ってくればいいんだよ! とにかく画面に『炎』と『絶望感』を出せ!」
リアンの圧倒的なディレクションに、グレンの魔族としての本能が目覚めた。
「そ、そうか……! 俺は事務仕事などではなく、勇者を絶望させるために……! うおおおおおっ!! 燃えてきたぁぁぁッ!!」
ゴォォォォォォッ!!!
グレンが両手剣を構えた瞬間、城の天井を突き破るほどの巨大な炎の柱が立ち上がった。彼はそのまま「待ってろ勇者ァァッ!」と叫びながら、城の壁をぶち破って下界へと飛んでいった。
『うおおおお! ボスが自ら動いた!!』
『第6話で将軍クラスが急襲とか熱すぎるだろ!!』
『事務仕事のストレスを勇者にぶつける将軍www』
『【炎神アグニ】から 100,000円 のスーパーチャット!:【いい炎だ! そのパッション、燃え上がるぜ!】』
「り、リアン様! またPVが跳ね上がりました! 勇者側だけじゃなく、魔王軍側の視点も大ウケです!」
リリスがスマホの画面を見せて歓喜する。
「よし、この調子で次だ。……おいクラウス、顔が死んでるぞ」
「魔王軍の将軍が……視聴率のために出撃のタイミングを変えるなんて……僕の騎士道が……」
クラウスは壁に手をついて、ブツブツと念仏を唱え始めていた。
「クラウス君、はい、飴玉。元気出してね★」とキャルルが慰める中、一行は隣の部屋へ。
「次は……『氷魔将軍 スアイ』だな」
リアンがドアを開けると、そこには鞭を手にした、氷のように冷たい美貌を持つ女性魔族がいた。
だが、その服装は……異常なほど露出度が高い『鎖帷子のビキニアーマー(布面積10%)』だった。
「ひゃっ!? あ、あの、何か御用かしら……?」
スアイは、鞭で自分の体を隠すようにして、顔を真っ赤にしてモジモジしている。
「……リリス」
リアンの声が、絶対零度まで冷え込んだ。
「ひぃっ!?」
「おいルナ、キャルル。前向くな。教育に悪い」
リアンはルナとキャルルの目を手で隠しながら、リリスを強烈に睨みつけた。
「てめぇ、この無意味なエロ衣装はなんだ! なんでこいつの体型だけ、無駄に具体的に(エロく)モデリングされてんだよ!」
「だ、だってぇ……! 動画配信といえば『お色気要素』じゃないですか! サムネイルで釣るには、胸が揺れたり布が少なかったりした方が神様たちも喜ぶかなって……!」
カンペで顔を隠しながら言い訳する見習い女神。
「馬鹿野郎! エロスと『色気』は違うんだよ! 取ってつけたような露出は、逆にキャラクターの品格(ボスとしての威厳)を落とすだけだ! 本人(NPC)も恥ずかしがってキャラがブレてんだろうが!」
「うぅぅ……リアン様のおっしゃる通りです。こんな格好で鞭を振るうなんて、セクハラで訴えたいレベルですぅ……」
スアイが涙目で同意する。
「安心しろ。俺が、お前を『最強の女帝』に変えてやる」
リアンは『ネット通販』のスキルを起動し、ルチアナのブラックカード(リリスのスマホ経由)で、最高級の特注品を取り寄せた。
「これに着替えろ」
数分後。
パーテーションの裏から現れたスアイの姿に、クラウスもダイヤも息を呑んだ。
露出狂のようなビキニアーマーは完全に消え去った。
代わりに彼女が身に纏っていたのは、漆黒と純白を基調とし、金色の刺繍が施された『最高位の軍服』。頭には軍帽を深く被り、手には純白の革手袋。胸元から足首まで一切の肌の露出がないにも関わらず、その冷徹な立ち姿は、以前よりも何百倍もの『圧倒的な色気と威圧感』を放っていた。
「……どうかしら?」
軍帽のつばを指で軽く上げ、スアイが冷ややかに見下ろす。その目には、恥じらいなど微塵もない。『絶対零度の女帝』としての、完璧な氷のオーラが漂っていた。
「完璧だ。無駄な媚びは一切捨てるんだ。お前はただ冷酷に、理知的に、ゴミを見るような目で敵を見下せばいい。……ほら、カメラに向かって一言言ってみろ」
ダイヤがカメラ(という体の魔導具)をスアイに向ける。
スアイはスッと目を細め、手にした氷の鞭を「ピシッ!」と空中で鳴らした。
「……ひざまずきなさい。この豚共が」
ピピピピピピピッ!!!
ピカァァァン! ピカァァァン!! ピカァァァン!!!
God-Tubeのコメント欄が、一瞬で大爆発を起こした。
『うおおおおおぉぉぉっ!! スアイ様ぁぁぁっ!!』
『踏んで! 踏んでください!!』
『露出がないのに、この圧倒的なドSのオーラ……! 脳が震えるッ!!』
『さっきの安っぽいエロより、こっちの方が1億倍イイ!!』
『【美の女神アフロディーテ】から 500,000円 のスーパーチャット!:【素晴らしいわ! 女の魅力は露出じゃない。その冷徹な視線、最高に美しいわよ!】』
『【軍神アレス】から 300,000円 のスーパーチャット!:【我が軍の指揮官に迎えたい! 全軍、スアイ様に敬礼ッ!】』
「や、やりましたリアン様! スアイ様の『熱狂的ファンクラブ』が神界に結成されました! スパチャの勢いが止まりませんぅぅぅっ!!」
リリスがスマホから溢れ出す光の奔流に揉まれながら絶叫する。
「フッ……大成功だな。やはり『ギャップ』と『本物志向』はバズの基本だ」
リアンは腕を組み、冷酷なプロデューサーの顔で満足げに頷いた。
「さて。炎と氷の幹部は完璧に仕上がった。……次は、残りの『雷』と『土』の将軍だが……」
リアンが次の部屋の資料に目を落とした瞬間。
彼のプロデューサーとしての眉間が、再び深く、深くシワを寄せた。
「……おいリリス。この『雷魔将軍サンダ』と『土魔将軍ドスン』って奴ら……なんだこの、ただ属性を分けただけの個性ゼロのモブは」
バズり続けるエターナル世界。
だが、リアンPの「恐怖のリストラ(魔改造)」は、まだ終わっていなかった。




