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EP 15

聖女の黒い本音

「ユート様! こんなところで泥だらけになって、どうされたのですか? ユート様は魔王を倒す、素敵で立派な勇者様なのですから……♡」

頭上に【聖女 リリナ】と文字を浮かべた純白のローブの少女が、胸の前で両手を組み、小首を傾げてテンプレ通りの甘ったるい声を出した。

だが、泥まみれでスライムの粘液と小銭をかき集めているユートの耳には、ヒロインの可憐な声など1ミリも届いていなかった。

「どけリリナ! そこの草むらに3ゴールド落ちてんだろうが! 踏むな! 俺の今日の利息がッ!!」

「えっ? ゆ、ユート様……?」

突然の社畜化(キャラ変)を果たした勇者に怒鳴られ、リリナは完全にプログラムの処理が追いつかず、瞬きを繰り返してフリーズしてしまった。

「カーッ! カットカットォォォッ!! ヒロインの表情固まってまーす!!」

ダイヤの容赦ないメガホンが響き渡る。

「……おい、聖女」

パイプ椅子から立ち上がったリアンが、ズカズカとリリナの前に歩み寄り、冷徹なプロデューサーの目を向けた。

「お前、『ユート様が好き♡』だけでヒロインがやれると思ってんのか?」

「え……? あ、あの……私は聖女リリナ。勇者ユート様を愛し、お支えするのが私の役目……」

「だから、なんで好きなんだよ」

リアンはバインダーでリリナの頭を軽くペチッと叩いた。

「『勇者だから』『世界を救うから』ってのは、ただの肩書き(スペック)だ。もしその辺のオークが勇者に選ばれてたら、お前はオークに惚れるのか? 違うだろ。お前がユートを好きな『理由バックボーン』が全く無ぇんだよ。そんなペラペラのヒロイン、視聴者(神々)は欠伸してスキップするぜ」

「り、理由……? それは、その……ユート様が、優しくて……」

リリナが焦ってカンペ(初期設定)を探すように目を泳がせる。

「嘘つけ」

リアンはニヤリと悪魔のような笑みを浮かべ、リリナの耳元で囁いた。

「正直になれよ。……本当は、勇者が魔王を倒した後に国から貰える『莫大な報奨金』で、優雅なセレブ余生を過ごしたいだけなんだろ?」

「ッ!?」

その一言がトリガーだった。

リリナの純真無垢な瞳から、スッ……と「テンプレの光」が消え失せた。

代わりに現れたのは、酷く現実的で、計算高く、そしてゾッとするほど冷ややかな『絶対零度の光』だった。

「…………チッ」

純白の聖女は、小さく、しかしハッキリと舌打ちをした。

「リ、リリナくん!? 今、舌打ちを……!」

クラウスが信じられないものを見る目で後ずさる。

「……バレちゃあ仕方ないですね。ええ、そうですとも」

リリナは甘ったるい猫撫で声を完全に捨て去り、地を這うようなドスの効いた声で言い放った。

「私がこんな泥臭い旅に付き合ってるのは、将来の『年金(魔王討伐ボーナス)』のためです。勇者の妻という最強の肩書きと、国からの莫大な援助金。それさえ手に入れば、あとは適当に勇者を田舎に引っ込ませて、私は王都で若いツバメでも囲って悠々自適に暮らす予定でしたから」

あまりにも黒すぎる本音(設定のバグ)が飛び出した。

リリスが設定をサボって「ユートが好き」という表面的な情報しか入力しなかったため、リアンの論理的(物理的)なツッコミによって、AIが『整合性を取るための究極の裏設定』を勝手に構築してしまったのだ。

「だが、計算が狂ったな。見ろ」

リアンが顎でしゃくると、そこには「日利10万ゴールドォォ!」と叫びながら、血走った目でスライムを素手で引き裂く社畜勇者の姿があった。

「あいつは今、1億ゴールドの借金を抱えた多重債務者だ。お前があいつと結婚すれば、当然、夫婦として『連帯保証人』になる。魔界のタコ部屋で一生強制労働だぞ」

「はぁ!?」

リリナの顔が、夜叉のように歪んだ。

「1億!? ふざけないでください! そんな不良債権クソカブに私の若さと美貌を投資するわけないでしょう! 冗談じゃない、パーティー脱退です! 私は今すぐ王都に帰って、別の金持ち貴族を誑かして……!」

「待て。ここで逃げたら、お前はただのモブで終わるぞ」

リアンは踵を返そうとするリリナの肩を掴み、プロデューサーとしての『最高の演出プラン』を提示した。

「逃げるヒロインなんて誰も見ねぇ。だが……借金まみれの勇者の首輪を掴み、徹底的に尻を叩いて管理する『超・現実主義のドS借金取り(腹黒ヒロイン)』になれば……お前はGod-Tubeの歴史に残る大スターになれる。スパチャ(収益)の分け前も少し回してやるよ」

「……スパチャの、分け前」

金、という言葉を聞いた瞬間、リリナの黒い瞳がキラァン!と輝いた。

「……悪くない取引ですね。そのプロデュース、乗らせていただきます」

聖女リリナは、口元を隠して「オーッホッホッホ!」と高らかに笑い声を上げた。

「よォーし、カメラ回せ! 腹黒ヒロインの誕生だ!」

ダイヤがメガホンで叫ぶ。

リリナは純白のローブの裾を翻し、泥まみれでスライムを狩り続けるユートの背後にツカツカと歩み寄った。そして、聖女の微笑みを完璧に顔に貼り付ける。

「ユ・ー・ト・様ぁ〜♡」

「ひゃいっ!? リ、リリナ……?」

ユートが振り返った瞬間、リリナは『鉄の杖』でユートの膝裏を強打した。

「グアァッ!?」

「何休んでるんですか、この不良債権ゴミが♡ ほら、あそこの茂みにも3ゴールド(スライム)が湧きましたよ? 日没までに今日のノルマを達成しなければ、夕飯抜きのうえ、私の『回復魔法ヒール』は一回につき1万ゴールドのツケにさせていただきますからね♡」

「あ、悪魔ぁぁぁっ! 聖女の皮を被った悪魔だぁぁッ!!」

「誰が悪魔ですか。私と貴方の幸せな将来(私のセレブ生活)のための、愛の鞭ですよ♡ さぁ、働け! 骨の髄までゴールドを絞り出して稼げぇッ!!」

泣き叫びながらスライムの群れに突撃していく勇者と、その後ろで杖を振り回して高笑いする腹黒聖女。

「…………」

「…………」

クラウスは完全に白目を剥き、胃液を吐きそうな顔で天を仰いでいた。

「終わった……。僕の知っているおとぎファンタジーが……資本主義の奴隷と、悪徳金融業者のドキュメンタリーに……」

だが、クラウスの絶望とは裏腹に、リリスの持つ『エンジェルすまーとふぉん』は、かつてない異常事態を引き起こしていた。

ピピピピピピピピッ!!!

ピカァァァン! ピカァァァン!! ピカァァァン!!!

「り、リアン様ぁぁぁっ!! 画面が! 画面がスパチャのエフェクトで見えませんぅぅぅっ!!」

リリスがパニックになって叫ぶ。

視聴者数:10万……30万……50万突破!!

『うおおおお! リリナ様最高! その冷たい目で俺も罵ってくれぇぇ!』

『「不良債権」ってパワーワードすぎるwww』

『こんな生々しい聖女見たことねぇ! 愛の鞭(物理)たまらん!』

『【愛の女神アフロディーテ】から 100,000円 のスーパーチャット!:【打算的でイイじゃない! 女はこれくらい強かじゃないとね♡】』

『【冥界神ハデス】から 50,000円 のスーパーチャット!:【あの勇者の絶望した顔、ゾクゾクするねぇ……もっと働かせろ!】』

神々からの万札スパチャが、文字通り雨あられと降り注いでいる。

過疎りきっていたクソゲー世界は、リアンのテコ入れからわずか数十分で、God-Tubeの「急上昇ランキング1位」へと躍り出ていた。

「フッフッフ……。よしよし、いいペースで稼いでるな」

リアンは腕を組み、極悪プロデューサーの笑みを深くした。

「主人公とヒロインのキャラ立ちは完璧だ。これで『勇者パーティー側』の土台はできた」

「リ、リアン君、次はどうするの? 魔王を倒しに行くの?★」

ルナがポップコーン(ネット通販でリアンが出した)を食べながら無邪気に尋ねる。

「いや、まだだ。この世界にはまだ、俺の琴線に触れる『真の主人公イレギュラー』が隠れている」

リアンの視線が、はじまりの村から遠く離れた、貧しく薄暗い『スラム街』の方角へと向けられた。

「テンプレのシステムから外れ、己の欲望と生存本能だけで生き抜いている最高の原石(CEO候補)がな。……さぁ、会いに行くぞ」

圧倒的な熱狂を生み出し続けるエターナル世界。

リアンPの次なるターゲットは、スラム街のドブ泥の中で輝く一人の少年だった。

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