EP 13
悪魔の契約と、クソゲー世界へのダイブ
「リアン様ァ! AD兼・大道具兼・荷物持ちのダイヤ・マーキス、フル装備で推参いたしましたッ!」
ルナミス帝国の公園。
リアンの呼び出しからわずか数分後、全身真紅のクリムゾンアーマーを着込んだダイヤが、両手に巨大な機材トランクをいくつも抱えて駆けつけてきた。なぜか首からはメガホンを下げ、腰にはガムテープがぶら下がっている。
「おお、早いな。……なんだそのメガホンとテープは」
「リアン様が『プロデュース(撮影)に行く』と仰ったので、私のユニークスキル『ウェポンズマスター』が、撮影現場における最強の武器(アシスタント業務)の最適解を弾き出しました! ロケ弁の発注から怒鳴り込みの謝罪まで、何でもこなしてみせます!」
「……妙な方向にスキルが進化してんな」
ダイヤが鼻息を荒くしていると、続いてクラウス、キャルル、ルナの3人も公園に到着した。
「リアン、別世界に行くってどういうことだい? また何か危険な任務なのかな?」
クラウスが真面目な顔でミスリルソードの柄に手をかける。
「いや、世界を救う神聖なビジネス(金儲け)だ。……こいつを紹介しよう」
リアンが指差すと、ベンチに座っていたピンクジャージの少女――見習い女神のリリスが、ペコッと頭を下げた。
「は、はじめまして! 見習い女神のリリスです! 今日は皆さんに、私の作った世界『エターナル』を救ってもらうために来ていただきました!」
「め、女神様!? そんなジャージ姿で!?」
クラウスが目玉を飛び出させる。
「あはは、ジャージ着てる神様なんてルチアナちゃんみたいだねー★」
「ん。ポッケに飴玉入ってる? 食べる?」
ルナとキャルルは、全く物怖じせずにリリスに絡んでいく。
「さて、状況を説明するぞ」
リアンは腕を組み、プロデューサーとしての鋭い視線でメンバーを見渡した。
「リリスの作った世界『エターナル』は、現在、神々の動画プラットフォーム『God-Tube』で配信されているが……PV(視聴数)が完全に底辺で、サービス終了(世界崩壊)の危機にある」
「世界が崩壊!? それは一大事だ!」
クラウスが息を呑む。
「そこで、俺たち1年S組の力で、その過疎りまくった世界にテコ入れ(コンサルティング)を行い、神々が熱狂する大バズりコンテンツに魔改造する。……稼いだスパチャ(投げ銭)は、俺たちの懐にガッツリ入る寸法だ」
リアンは、ポポロ村で抱えた個人的な大赤字(金貨500枚)を思い出し、ギリッと歯を食いしばった。
「いいかお前ら。これは遊びじゃない。数字(PV)が全てを支配する、血で血を洗うエンターテインメント戦争だ。……俺の指示には絶対服従。手段は選ぶな。いいな?」
「イエッサー!! リアンP!!」
ダイヤがメガホンで叫び、完璧なADの立ち回りを見せる。
「うぅ……リアン様、すごく頼もしいですけど、すごく悪の組織のボスみたいです……」
リリスが少しビビりながらも、『エンジェルすまーとふぉん』を取り出した。
「じゃあ、さっそく皆さんを『エターナル』へご案内しますね。えーと、世界ダイブのアプリを起動して……あ、あれ? パスワードなんだっけ……」
「モタモタすんな。早くしろ」
リリスが焦りながらスマホの画面をタップすると、足元に神聖な光の魔法陣が浮かび上がった。
「いきます! 『創造世界エターナル』へ……ダイブ!!」
カッ!!
強い光が公園を包み込み、リアンたち5人の姿がフッと消え去った。
――ズザザァァッ……ピィィィ……。
「……ん? なんだこの、耳障りな電子音は」
リアンが目を開けると、そこは中世ヨーロッパ風の、のどかな『はじまりの村』の広場だった。
だが、アナスタシア世界のリアリティある風景とは、何かが決定的に違っていた。
「……リアン君、なんかこの辺の草、カクカクしてない?★」
ルナが足元の草をツンツンと突っついている。
「あぁ……解像度が異常に低いな。それに、さっきから鳴ってるこのBGM……」
リアンは眉をひそめた。空のどこかから、8ビットのチープな音楽が、微妙に音を外しながら無限ループで流れているのだ。
「り、リアン! 大変だ! あそこの村人が……足と手が全く動いていないのに、地面を滑るように移動しているぞ!」
クラウスが、戦慄した顔で広場の端を指差した。
見れば、モブの村人(男)が、直立不動(Tポーズ)のまま、スゥゥゥ……と不気味な軌道で地面をスライドし、そのまま建物の壁に激突。
そして、壁に向かって永遠に歩き続けるモーションを繰り返していた。
『……ヨウコソ。ハジマリノムラヘ。……ヨウコソ。ハジマリノムラヘ』
壁に向かって歩きながら、村人の頭上に『ふきだし(テキストボックス)』が虚無のように明滅している。
「……」
「……」
S組の面々は、あまりの狂気に完全に沈黙した。
「リリス」
リアンは、静かに後ろを振り返った。
そこでは、リリスが冷や汗をダラダラ流しながら、エンジェルすまーとふぉんをいじっていた。
「あ、あははは……。その、予算100万円で作ったので、モーションキャプチャーとか背景のレンダリングにお金が回らなくて……。村人のAIも、無料版の安いアセットを使い回したから、たまに壁にめり込んじゃうんですぅ……」
「たまにじゃねぇよ。村の半分以上の奴が壁に向かってムーンウォークしてんじゃねぇか」
リアンは呆れ果てて額を押さえた。
「こんなバグだらけの虚無空間じゃ、神々が見向きもしないのは当たり前だ。……世界観の作り込み以前の問題だぞ」
「うぅ……ごめんなさいぃ……。でも、一応メインストーリーはちゃんと作ってあるんです! 『勇者が魔王を倒す』っていう、王道の……」
その時。
広場の中央にある宿屋の扉が開き、一人の青年が出てきた。
全身を『鉄の剣』『鉄の盾』『鉄の鎧』で固めた、いかにも絵に描いたようなテンプレの勇者。
彼の頭上には【勇者 ユート】という文字が浮かんでいる。
「俺は勇者ユート! 魔王を倒し、世界に平和をもたらす者だ!」
ユートは、誰に向かって言うでもなく、空虚な空に向かって大声でセリフを叫んだ。
そして、そのまま広場の外にある草むらへと向かい、スライムを鉄の剣でペチ、ペチ、と無表情に叩き始めた。
「……なんだあれ」
リアンが目を細める。
「あ、あれがこの世界の主人公、勇者のユートです! 今、レベル上げのルーチンワーク中ですね!」
リリスがカンペを見ながら説明する。
「……リアン。なんだか、見ているだけで心が無になっていくよ。彼からは、一切の感情の揺らぎも、使命への情熱も感じられない……」
クラウスが、生真面目な騎士として悲しそうに呟いた。
「当然だ。ただプログラムされた設定をなぞっているだけだからな。……視聴者が一番嫌う『中身のねぇ人形』だ」
リアンは、バインダー(ダイヤが用意した)に挟んだ資料をバサッとめくると、プロデューサーとしての極悪な笑みを浮かべた。
「よし、状況は完全に把握した。……クソゲーにはクソゲーの『バズらせ方』がある」
リアンはメガホンを持ったダイヤに合図を送る。
「まずは、あの無味乾燥な『勇者』からだ。主人公が死んでりゃ、物語は回らねぇ。……アイツの脳髄に、強烈な『欲望』を叩き込んでやる」
7歳の悪魔的プロデューサーによる、世界で一番残酷で熱狂的な『台本書き換え(コンサルティング)』が、いよいよスタートした。




