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サイドストーリー第七話 希望(フェリシア視点)

【フェリシア視点】


 ゴブリンの村に来てから大体3か月。

 もうすぐルシアさんの言ってたタイムリミット。

 早くコーマをエストーラに連れて行かなきゃいけないのに、中々コーマが首を縦に振らない。

 今日こそ……今日こそはコーマを連れて行かないと!


 昨日狩猟組が狩った鹿の解体作業をしていると、狩りを終えたコーマが村に帰ってきた。

 荷物は無し。

 昨日鹿を狩ったときもコーマは役に立たなかったって聞いたし、そろそろ村にいるのが辛くなってきたでしょ?


『コーマおかえり!やっぱりオスは見つからなかった?』

「ああ、メスしか見つからなかった」


 コーマはなんでかゴブリンの言葉で話しかけても人間の言葉を使う。

 話し辛くて仕方ない……けど、ゴブリンの言葉に慣れるために私はゴブリンの言葉を使わないと!


『この季節だし仕方ないね!

 それよりさ、そろそろゴブリンの村での食事に飽きてこない?』

「まあ……」

『じゃあエストーラにご飯食べに行かない?』

「またその話か」


 そうだよこの話だよ!

 コーマが首を縦に振るまで毎日だってこの話するからね!


「今日も野苺採ってきたから、これで我慢してくれ」

『うん、ありがと……』


 また今日もダメ……。

 もう時間が無いのに。

 何か他に理由は……。


 あっ、服。

 今着てる一着をずっと洗って乾かしてを続けてたから、糸が解れてるところが出てきてる。

 ここじゃ裁縫道具も無いから縫うこともできない。


『服がボロボロになってきたし、そろそろ新しいの欲しいな、なんて思うんだけど……』


 流石に服じゃダメ……かな?


「エストーラに行くか」

『えっ!?』


 今、なんて?

 コーマが行くって言った?

 えっ、本当に?

 行くって言ったよね?

 うん、間違い無い。

 さっきのコーマの言葉を何度頭で思い返しても行くって言った! 


『うん!行こう!』


 コーマの気が変わらないうちに早く行動しないと。

 今すぐコーマを連れて村を飛び出したいけど、3か月もお世話になった村を何の挨拶も無しに飛び出すわけにはいかない。

 せめてカミルさんには挨拶しないと!


『じゃあ、カミルさんに言ってくるね!』

「ああ」


 走ってカミルさんのところに行くと、カミルさんも私に気付いてくれた。


『カミルさん!私、コーマと人間の街に戻ります!』

『……そうか、遂にこの日が来たか。

 フェリシア、今までありがとう。

 お前のおかげでこの村の暮らしが劇的に変わった』

『ううん、みんなが頑張って覚えてくれたからだよ!』

『ああ……だけど、フェリシアがいなければこうはならなかった。

 おい!お前ら!フェリシアとコーマが人間の街に帰るってよ!』


 えっ、ちょっと、今すぐにでもエストーラに帰らないといけないのに!


『フェリシア、本当に帰っちゃうの?』

『フェリシアはずっとここにいてよ!』

『まだフェリシアに教わってないことが沢山あるのに!』


 ゴブリンたちに囲まれて身動きが取れなくなっちゃった。

 早く行かないといけないのに……!

 使うのは久しぶりだけど……痛くしないように気をつけるから、ごめんね!

 遷移魔法のバリアを自分の周囲に広げてゴブリンの囲いを無理矢理こじ開ける。


『みんなならこれからも元気に暮らしていけるって信じてるよ!またね!』


 3か月も一緒に過ごしたゴブリンのみんなに愛着がないわけじゃない。

 だから、全部終わらせたらまたここに来よう。

 ゴブリンだって話をすれば分かり合える。

 ギルドの方針とはズレてるのかもしれないけど、人間とゴブリンは殺し合うだけじゃない。

 一緒に生きていく方法もあるんだって皆に伝えて周ろう。


「コーマお待たせ!早く行こう!」


 コーマの下へ走り、手を掴んでそのままエストーラを目指す。


「なんでそんなに急ぐんだ!?」

「早くエストーラに行きたいの!」


 ゴブリンとの今後を話し合うためにも、まずはコーマをエストーラへ。

 お願い……間に合って!


 ◇◆◇◆◇


 森を出ると、街から煙が何筋か昇っている。


「火事か?」


 火事、なのかな?

 えーっと、場所は……。


「あそこは……嘘……」


 煙が上がっている場所のうちの一つは、3か月前少しだけ時間を過ごした場所、ギルドだ。

 そこから煙が上がっているってことは、王立騎士団がギルドの解体に踏み切って建物に火をつけたのかもしれない。

 もしそうなら私は……


「……間に合わなかったの?」

「間に合わなかった?」


 ううん、ただの建物の解体で火を付けるなんておかしい。

 だから、本当にただの火事って可能性も……。

 でもそうだとしたら、なんで一箇所だけじゃなくて何箇所かで煙が出ているんだろう。

 普通の火事だったら一箇所だけのはず。

 一日に何箇所も火事が起こるなんてありえない。

 だとしたらあれは、誰かが戦って、そのせいで……?

 だったら、もし今日がアインさんの処刑日だったとしても、アインさんが戦って抵抗している可能性は……


 しばらく考えていると、門から鎧を来た人たちが出てきた。

 あの鎧は……王立騎士団だ。

 その騎士は長い槍を二つ持っていて、その先端には何かが突き刺さっている。

 あれは……


「……首?」


 人の首だ。

 そして、その首は……


「アインさん……。それにルシアさん……」


 私は、間に合わなかったんだ。

 アインさんを助けられなかったどころか、ルシアさんまで。

 ルシアさんは私を信じて街で待ってくれてたんだ。

 それなのに私がいつまでも帰ってこないから、それで……。


「私のせいだ……。

 私が間に合わなかったから……。

 ごめんなさい……」


 アインさんが殺されたのも、ルシアさんが殺されたのも私のせいだ。

 私がゴブリンの村でのんびりしていたから。

 もっと早く、あと一日でも早くコーマをここに連れてこれていれば……。

 ううん、それだけじゃない。

 私がコーマを連れ戻すなんて言わなければルシアさんは殺されなかったかもしれない。

 私があんなことさえ言わなければ……。


 ◇◆◇◆◇


 気がつくと、いつの間にか3か月間暮らしていた倉庫にいた。


「フェリシア、大丈夫か?」


 大丈夫なわけない。

 私のせいで2人が殺されたんだ。


「何かしてほしいこととかあるか?」


 ……してほしいこと?

 コーマがそんなこと言うの?

 私が今までエストーラに行きたいって言っても全然聞いてくれなかったコーマが?

 それが、今更……。


「……もう、何もない。もう、何もかも遅かった」


 昨日なら間に合ったのに。

 昨日コーマが承諾してくれればこんなことにならなかったのに。


「えっと、どういうこと?……ちょっと待ってて」


 コーマは立ち上がり、倉庫から出て行った。




 それからしばらく時間が経つと、コーマが再び倉庫に戻ってきた。


「野苺を摘んできたよ。食べられる?」


 そう言いながらコーマは私の前に沢山の野苺を置いた。

 私への依存を強めるために、村の中で感謝されることが無くなったコーマに、唯一感謝される行為として、私に野苺を持ってきたら感謝するようにしてた。

 そしたら、それからコーマは毎日毎日野苺を採ってくるようになった。

 どこから採ってきてるのか知らないけど、よくこんなに野苺を見付けてくるよね。

 私は野苺そんなに好きじゃないし、どんなに好きだったとしても、毎日こんなに持ってこられたら誰でも飽きるよ。


「……いらない。あっち行って」


 もうコーマを私に依存させる必要なんてないんだから、野苺ももう必要ない。


「置いていくから。いらなかったら捨てていいからね」


 そう言ってコーマは倉庫から出て行った。

 いらないって言ったのに。

 捨てるなんて、森に失礼なことできるわけないじゃない。


 野苺を一つつまみ、口へと運ぶ。

 ……酸っぱい。

最後まで読んでいただきありがとうございます!


感想や評価、リアクションをいただけると、とても励みになります!


次回の更新は2026年5月4日の予定です。

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