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サイドストーリー第六話 村(フェリシア視点)

【フェリシア視点】


 村に着いた頃には日が暮れかけ、数十メートル先は真っ暗になった。

 でも星明かりのおかげで、まだ少しだけ見える。


「ねえコーマ。これからは私はコーマとこの村に住むんだしさ、この村のこと案内してよ」

「良いだろう。俺について来い」


 えっ、なんでいきなりこんな上から目線なの?

 村の中だからって王様気取りなの?


「以前までは全ての畑で小麦を育てていたんだが、連作障害を避けるために3分の1は休耕地にしたんだ」

「コーマが休耕地を作るように言ったの?」

「そうだ。これは俺の提案だ」

「ふーん、そっか」


 連作障害は知ってたんだ。

 今の時期だと小麦の種を撒いたばかりだったのかな?

 3分の1が休耕地ってことはエストーラと同じ三圃制を取り入れたんだろうけど、春に撒く大麦の種はどこから手に入れるつもりなんだろう。

 あともう一つ。


「ところで家畜はいないの?

 休耕地では家畜を育てるものなんだけど……」


 コーマの反応は薄い。

 多分、家畜を育てるって知らなかったんだ。

 コーマ主導で農業を変えて、ゴブリンから尊敬を集めていたんだね。

 知ってるよ。コーマは私たちに頼りにされると喜んでたよね。


 そのコーマが喜んでいたゴブリンの尊敬は……私が奪う。


「それに、ここの畑の土は踏み固めたみたいに少し固くなってるよね?」

「そういえばゴブリンの子供がここに入って遊んでたな」

「止めなきゃ駄目だよ!

 じゃないとせっかくの畑が道になっちゃうよ!」

「そうか……。明日注意しとくよ」

「もう固くなっちゃってるけど、まだ耕せば元に戻ると思う……。

 肥料はある?」

「ああ、こっちだ」


 コーマに付いていくと、畑でも薄くあった糞尿の匂いがキツくなってきた。

 目の前にあるのは堆肥の山が3つ。

 かなり量が多いから長い期間集めてたんだろうけど……。


「結構匂いがきついね。まだ作ったばかりなの?」

「山を分けたのは最近だが、肥溜め自体は昔からあるらしい」

「本当だ。ところどころ肥料になってるのがあるね」


 一部だけ肥料になってるってことは……。


「かき混ぜたりしてる?」

「えっ、肥溜めってかき混ぜるの?」

「そうだよ!じゃないといつまで経っても肥料にならないよ!」

「そうだったのか……」


 なんでこんなにも知らないことが多いのに連作障害や三圃制は知ってたんだろう。


「それにしても、フェリシアは随分と詳しいな」

「私は農家の生まれだからね!一通りの作物は育てたし、ある程度は詳しいよ!」


 今私が言ったことは明日コーマからゴブリンに言ってもらったら、コーマの言ってたことが覆ることになって、ゴブリンの中にはコーマに対する不信感が芽生えるはず。

 明日だけじゃ完全に信用が無くなるわけじゃないだろうけど、時間はまだ沢山ある。

 これから徐々に信用を奪っていこう。


 周りを見渡すと、まだ家に入らないゴブリンが二匹だけいた。


「あれは……弓?」

「ああ、この前俺が弓矢の使い方を教えて、それからあの2匹が練習しているんだ。

 ダミアンのおかげでレアンドロを倒せたし、鹿も捕れるようになった」

「そっか、それで……」


 レアンドロさんが負けた理由がようやく分かった。

 多分コーマが正面で気を引いているところを、背後から弓矢で倒したんだ。

 そうじゃなきゃコーマがレアンドロさんに勝てるわけないんだから。

 でもダメ。

 今そんなことを考えたらコーマに気取られちゃう。

 私が考えていることはコーマにバレちゃいけないんだから。


「練習を見学してもいい?」

「ああ、もちろんだ」


 弓を練習していた二匹のゴブリンの下へと移動する。


『******』

『**************』

『******』


 コーマが手が空いているゴブリンと何か話してる……けど全く分からない。

 今弓矢を射っているゴブリンの手元を見ると、矢を手放すときまで指先に力が入ってるし、矢を身体から離しすぎてる。

 あれじゃ狙ったところに飛んでいかないだろうな。


 コーマがゴブリンとの話を終えたみたい。


「コーマ、なんて言ってたの?」

「ああ、命中率が上がらないことが悩みらしい」


 弓矢の使い方は、元々はコーマが教えてたんだよね。

 でも今ではコーマはどうアドバイスをすればいいか分からない。

 それなら……


「そういうことなんだね!

 矢を離すとき指に力が入っているから、力を抜いて、自然に矢が離れていくようにすると改善すると思うよ!」

「そうなのか?」

『******』


 またコーマがゴブリンと話し始めた。

 これで弓矢の扱い方でもコーマじゃなくて私に尊敬が向くようになるはず。

 うん、上手くいってる。




 ゴブリンの弓矢を射る姿を見ながら何回かアドバイスをしていると、ゴブリンの弓矢の腕前がどんどん上がっていった。

 こんな短い時間でここまで上達するなんて凄いなあ。

 二匹とも今まで沢山努力してきたんだろうなあ。


『**************』

「フェリシア、二匹がありがとうだって」

「そうなの!?」


 ゴブリンってお礼を言うんだ……。

 ううん、違う。

 今はそうじゃない。


 コーマをこの村で孤立させるためには、私がいつまでもコーマの通訳に頼ってちゃダメ。

 私がゴブリンの言葉を覚えて、コーマ無しでも会話ができるようにならなきゃいけないんだ。


「どういたしましてってなんて言うの?」

「えーっと……」

『********』


 今のが「どういたしまして」なの?

 発音が全然違うから難しいけど……やってみよう。


『どういたしまして』

『**************』


 私が言ったあとゴブリンが何か言ったけど……


「どう?コーマ、伝わったかな!?」

「ああ、これからもよろしくだって」

「本当!?良かったー」


 やった!

 ゴブリンの言葉が使えた!

 まだ全然聞き取れないけど、これから沢山練習していこう。


「フェリシアは弓矢も扱えるんだな」


 ゴブリンとの会話が初めて成功して喜んでいたのに、別の話題を振ってきたんだけど。


「うん、農作業中にゴブリンに襲われたら逃げるか自分たちで身を守らなきゃいけないからね」


 あっ、ここではゴブリンに襲われたら、とか言わない方がいいかな。


「それなら弓矢を作ることもできるか?

 今は弓が1つしかないから、2匹しか練習させられなくて困ってるんだ」


 弓矢は作れるけど……。


「……コーマは何か知ってるの?」

「いや、それが全く知らなくてな。

 でもフェリシアなら何か知ってるんじゃないか?」


 なら教えなくてもいいかな。

 コーマの尊敬を奪うことが目的で、ゴブリンの役に立つことが目的じゃないんだから。


「実は私も他の人に作ってもらったのを使ってただけだからよく分からないんだ。

 ごめんね、力になれなくて」

「そうか……。仕方ないな」

『***********』

『****』


 私と話した後、コーマはゴブリンと何かを話した。


「フェリシア、俺達も家に戻ろう」

「うん!あっ……」


 家に戻るってことは、ご飯を食べて、そのあと……。


「どうした?」

「ううん、なんでもない!」


 うん、大丈夫。

 覚悟してきたんだから。


 ◇◆◇◆◇


 夕飯を食べ終え、とうとうそのときがやってきた。

 怖い……逃げ出したい……今すぐユフィのいるところに帰りたい。

 でも、これが私に……私だけにできること。

 アインさんを助けるために必要なこと。

 だけど……。


 そのとき、目の前で突然行為を始めたゴブリンがいた。


「えっ、ちょっとコーマ!あれは何をやってるの?」

「ここじゃ皆オープンで、ああやって目の前でヤるんだ」

「そっ、そうなの?」


 私がまだ両親と暮らしていた頃は私の横で両親がしていたけど、それは私が寝ていたからだよ!?

 ……たまに起きてることもあったけど。

 いくらなんでも、子供の前で始めるなんて……って、この家に子供いない!?


「この家には仕切りなんて無いだろ?」

「それはそうだけど……」


 一組が始めると、他のゴブリンも連鎖的に始めていく……。

 私たちもこの中でしなきゃいけないの……?


「ヤっていればそのうち気にならなくなる」

「そうなのかもだけど……」


 でも、流石にゴブリンに見られながらするのは……。


「フェリシア、外に来い」

「えっ、うん……」


 コーマに連れられて外に出る。

 まさか家の中じゃなくて外でってこと!?

 あの中でするのは嫌だけど、外も十分嫌だよ!


 コーマに付いていくと、食料が保管されてる倉庫に向かっているっぽい。

 外じゃなくて良かった……。


 周りにゴブリンはいなくて2人きり。

 勝負を仕掛けるなら、今。


「コーマ、待って。その……」

「どうした?」


 えっ、待って、これ本当に言うの?

 昨夜ユフィと話し合って、こうするのが良いって結論になったけど……恥ずかしすぎない!?

 これじゃ私が自意識過剰みたいだよ!


「その、コーマは私のこと、好き?」


 わー言っちゃった!

 これで嫌いとか言われたら立ち直れないよ!

 もう嫌だ恥ずかしい帰りたい。


 コーマは……何か考えてる。

 早く返事してよ!

 あっ、そうだ、コーマがすぐに返事しなかったときに言うことも決めてたんだ。

 うぅ……これも、男の人に言うのは初めてだよ。


「私はコーマのこと好きだよ」


 ……まだコーマは考えてる!

 そろそろ何か言ってよ!

 私は恥ずかしくて死にそうだよ!


「ねえ、コーマはどうなの?」


 今度こそ返事してよね!!


「俺も好きだ!フェリシア!」


 コーマがそう言うや否や私に抱きついてきた。

 まだそこまで許したわけじゃないんだけど。

 でも、それもこのあと……。


 ううん、そんなこと考えちゃダメ。

 コーマに好きって言わせたんだ。

 これでまたコーマを連れ帰る目標に一歩近付いたんだ。


 今日のこれはコーマの心からの言葉じゃなかったかもしれない。

 でも、これから毎日コーマに私を好きだと言わせれば心からの言葉になるかもしれない。

 それでコーマを私の虜にして、そのときに私がエストーラに行きたいって言えば一緒に来てくれる……はず!

 だから、これも全部私の本心じゃなくて、目標のため!


「嬉しい……!コーマ、私のこと、大切にしてね」

「ああ、もちろんだ」


 アインさん、待っててね。

 絶対にコーマを連れ帰ってみせるから。

最後まで読んでいただきありがとうございます!


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次回の更新は2026年5月1日の予定です。

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