サイドストーリー第四話 到着(フェリシア視点)
【フェリシア視点】
ユフィと2人でエストーラに来た。
この街から追い出されたときは、どんなにお願いしても街に入れてもらえなかったのに、冒険者章がある今は、これを見せただけで通れる。
門番の人は私のことなんて覚えてもいないのか、私を見ても何も言わなかった。
街の中に入ると、そこは私が追い出されたときと同じで、黒パンすら見かけないほどの食料不足が続いていた。
通りを歩いていると、私がここに住んでいた当時はまだ工事中だったところに、立派で馴染みの深い冒険者ギルドの建物があった。
中に入るとベルハイムのような活気は無く、最近孤児院から引き取ったばかりっぽいまだ幼い職員やユフィと同じくらいの年齢の子が何人かと、大人が1人いるのみだった。
「ベルハイムから来ました、職員のユフィとフェリシアです。
あなたがルシアさんでしょうか?」
ユフィが1人だけいた大人に話しかけた。
「ええ。2人も来てくれたのね。
今日あたりにハリソンも来るはずだから二階で少し休んでいて」
ルシアさんは少しやつれた様子で返答した。
「承知しました。ありがとうございます」
ユフィに続いて階段を上がり、適当な空いている講習室に入る。
「あー疲れたー……」
ユフィが近くの椅子に倒れ込むかのように座り込んだ。
「ゆっくり眠れなかったもんね」
いつゴブリンに襲われるとも分からない街の外では、夜になっても1人ずつ眠るしかできなかった。
そのせいで、ユフィも私も疲れが溜まってる。
私は冒険者として森の中に入ったり、この前もベルハイムとトラメリアを往復していたから体力はある方だと思うけど、立ってるだけのことが多かったユフィには体力的に厳しかったかもしれない。
「ハリソンさんがいつ来るか分からないし、少し横になろっか」
部屋の中にあった椅子を集めてベッドみたいにする。
「横になっていいよ」
「ありがとう……。フェリの分は?」
「私は座ってるだけで大丈夫だよ」
集めた椅子の端に腰を下ろす。
「ここに頭載せていいよ」
腿を叩きながら言うと、ユフィが遠慮しがちに頭を載せた。
「寝てていいよ。ハリソンさんが来たら起こすから」
「うん……おやすみなさい……」
そう言って、ユフィは眠りに落ちた。
久しぶりに帰ってきたエストーラだけど、何も変わってなかったなあ。
こっちに友達はいたけど……今更会いたいとは思わない。
会っても、多分笑って話せない……。
「ふわぁぁ……」
欠伸が出ちゃった。
私も少しだけ、眠ろうかな……。
◇◆◇◆◇
「ごめんね、待たせちゃったね」
突然その声がして振り返ると、そこにはルシアさんと大人の男性が立っていた。
この人がハリソンさんかな。
「ユフィ、起きて。ハリソンさんが来たよ」
肩を叩きながらユフィに声を掛けると、ユフィが飛び起きた。
「寝てしまってすみませんでした」
「いいの。歩いてきてくれたんだから疲れてて当たり前なんだから。
それじゃあ、早速本題に入りましょう」
「まずはレアンドロの件からだ」
「ええ……。
と言っても、伝えた以上のことは分かってないの。
今から約一週間前、バルハイムからエストーラへの商人護衛中に魔法を使える何者かに襲われて、生き残った商人と冒険者の証言からそれがコーマであると予測できた。
その翌日、森へゴブリンの討伐に向かった4人の冒険者が帰ってこなくなった。
さらに翌日、レアンドロを先頭にした情報リレー調査をしたところ、コーマ本人から全て自分の仕業との証言を得て、交戦を開始。
レアンドロと職員のレベカが帰らなくなった」
コーマはベルハイムを出てから何人の人を殺したの……?
「……コーマはレアンドロに勝てるほどか?」
「いえ、そんなはずはありません。
コーマさんは私でも簡単に倒せる程度ですし、二週間前はアイン支部長に手も足も出ない様子でした」
ユフィってそんなに強いの!?
ずっと魔法の練習してたのは知ってたけど、それほどだったなんて。
「それなら正面から戦って敗けたわけじゃないな。
どうせバカ正直なあいつのことだ。
搦手を使われて敗けたんだろ。
……あっ、いや、すまん……」
ルシアさんの目線でハリソンさんが申し訳なさそうに謝った。
「別に良いよ。その通りだろうし。
問題はその搦手が何なのかってことね。
大人数なら勝てるのか、それとも私たちじゃ勝てない何かがあるのか」
「そうだな。これ以上戦力を減らすわけにはいかない。
何か心当たりはあるか?」
コーマができること……。
魔法がすごい……けど、それはアインさんやユフィには敵わない。
あと他にあるとすれば……。
「経験10倍、っていうのがコーマにはあるみたいなんですけど……」
「なんだ、それ?」
「私もよく分からないんですけど、経験したことが人の10倍蓄積される?みたいです」
「それは……そういう個性ってこと?」
「いえ、コーマは別の世界で一度死んで、この世界に生まれ変わったときにそういう風にしてもらったみたいです」
「別の世界!?ってことは転生者ってことか?」
「そういえば、そんなこと言ってましたね」
「……そう、か」
2人とも驚いたような、信じられないものを聞いたような……そんな表情をしてる。
ハリソンさんはどかっと椅子に座り込んじゃったし。
「やっぱりカズキは嘘なんて言ってなかったんだ。
一人目の転生者が現れ、二人目もこうして現れた!」
「けど……この7年間、カズキが姿を消したままという事実は変わってない!」
「そうだが……それでもカズキを信じるべきだ」
「今更カズキが帰ってくるとでも?」
「そうだ」
「じゃあそれはいつ?今日?明日?」
「それは……」
「もう7年前とは状況が違う。
カズキありきで考えるのは止めて」
2人の話についていけない……。
なんの話をしているの?
ユフィは……ユフィも分かってなさそう。
「そう、だな。
とりあえず、目の前の問題から片付けよう。
まずはアインか」
そうだ、アインさんだ!
早くなんとかしないとアインさんが殺されちゃうんだ。
「……アインの処刑日は決まっているのか?」
「まだ。襲撃に遭った商人を買収して証言を撤回させて、ゴブリンに襲われたところをコーマに助けてもらったことにしたけど、コーマの証言も得られないことには、それも……」
「コーマを連れてこないことには処刑を免れられないってことか」
「それに、私たちもコーマの居場所が分からないってなると、遷移魔法を使える人の管理ができていないってことでギルド解体の口実になる。
そうなれば、アインはそのまま……」
「解体になるならいっそ、とは思うが、今すぐじゃ戦力はそれほど集まらないか」
「そうね、おそらく冒険者の協力は得られないでしょう」
「レアンドロがいない今、勝負を仕掛けても勝機は薄い。だが、春なら」
「王立騎士団は消耗している上、冒険者の協力を得られる可能性がある」
2人の間では何か決まったみたいだけど……。
「あの、結局どうするんですか?」
「アインの処刑を冬本番まで延ばす。
そうなれば王立騎士団はゴブリンのスタンピードに忙しくなるからギルドの解体には手が回らなくなる。
冬が明けたら俺達は冒険者と共にこの王国に攻撃を仕掛ける」
王国に攻撃!?
ううん、それより、アインさんの処刑を延ばして、その後は?
「アインさんはどうなるんですか?」
「諦めるしかない」
「そんな……」
ギルドはアインさんを助けないってこと?
まだ恩を返しきれてないのに。
何か……何か私にできることは……。
アインさんが処刑されるのはコーマを連れて来られないから。
……なら、コーマを連れて来れたら?
「私が、コーマを連れて来ればいいですか?」
「……それができたら良いが、最後にコーマを発見してから時間が経っている。
今の居場所は分からない」
「コーマは、多分移動していません」
トラメリアと往復するときだって長距離歩くのを嫌がっていた。
エストーラの近くまで来たことだってコーマにとっては相当嫌だったはず。
「……コーマに殺された冒険者が向かっていた場所とレアンドロがコーマを発見した場所は近いけど」
「その場所を教えてください。おそらく、まだそこにいます」
「……分かった。後で教えるね」
「二人目の転生者はカズキが倒すことになっている。
……カズキが帰ってこないとしても、俺達で倒すよりかは王立騎士団に任せたい。
俺達は何も支援できない。それでもいいか?」
「はい、構いません」
「分かった。コーマは君に任せよう」
「待ってください!」
「ユフィ……」
「今のコーマさんに近づくのは危険過ぎます。
いくらフェリでも、殺されちゃうかも……」
もう何人もの人がコーマに殺されてる。
だからユフィの言ってることは分かる。
だけど……。
「私はアインさんやみんなのために、私にできることをしたい。
確かに危険だけど、それでアインさんを助けられるならやってみたい」
「なら、私も一緒に……」
「ううん、ユフィはベルハイムのみんなに必要なんだよ」
「フェリも必要だよ!私は、フェリがいないと……」
「これでずっとお別れってわけじゃない。
コーマを連れてきたら戻ってくるから、ね?」
「……絶対、絶対戻ってきてね」
「うん、戻ってくる。約束する」
「うん……」
「……えーっと、じゃあ、俺達は今後の計画について話してくるから、2人はコーマを連れてくる方法を考えてくれ」
「はい、分かりました」
「コーマの場所は明日教えるね。
今日は寮の空き部屋を自由に使ってくれていいからね」
「ありがとうございます!」
そう言って、ルシアさんとハリソンさんは部屋から出て行った。
窓から外を見ると、もう日が暮れかけていた。
「フェリ……」
「ご飯、食べに行こう。その後また2人で話そう」
「うん……」
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次回の更新は2026年4月24日の予定です。




