サイドストーリー第三話 決意(フェリシア視点)
【フェリシア視点】
朝目が覚めると、腕の中にユフィはいなかった。
「ユフィ……?」
「フェリシアさん、おはようございます」
声のした方を見ると、着替え途中のユフィがいた。
「昨夜はすみませんでした。私はもう大丈夫です」
「……うん。また辛くなったらいつでも話してね」
「……はい、そのときはお願いします」
眠い目をこすりながらベッドから起き上がり、身体を伸ばす。
その間にユフィは着替えを終え、部屋を出ようとしたところで、私の方へと振り返った。
「これからどうすればいいかはまだ分かりません。
でも、今できることを少しずつやっていこうと思います」
「うん、無理しないでね」
「はい!」
ユフィは笑顔でそう言うと、部屋から出ていった。
今できること……。
ユフィにとってはこのベルハイム支部をまとめることと、対人戦の訓練、だろうな。
じゃあ私は?
私にできることって何?
今私がやるべきことはギルドの受付。
でも、できることは本当にそれだけ?
対人訓練……は無理かもだけど、他に何かできることがあるんじゃ……。
◇◆◇◆◇
今日のギルドの業務が終わった。
業務の大半が魔法講習の受講者の対応だったから、それが無かった今日は驚くほど楽だった。
今日魔法講習を受けるつもりだった人の対応は少し大変だったけど。
せっかく仕事の休みが取れたのにって人には申し訳なかったな。
ユフィたちは朝ギルドを出てから日中は一度も戻ってこなかった。
訓練に熱が入ったのかな。
誰も怪我してないといいけど。
業務が終わり、しばらく一緒に受付業務をやった子たちと遊んでいると、ギルドの扉が開いた。
ユフィたちが帰ってきた……けど、なんだかユフィの表情が暗い。
「もう冒険者の方々はいらっしゃいませんね。
話がありますので、上の部屋に移動しましょう」
ユフィたちに続いて、みんなで二階の昨日みんなで話した講習の部屋に移動する。
「レアンドロさんがコーマさんに敗北しました」
みんなが椅子に座った途端、ユフィが衝撃的な一言を口に出した。
コーマが勝った……?
レアンドロさんって冒険者ギルドで対人最強って言われてる人なんだよね?
ついこの前アインさんに手も足も出なかったコーマが勝てるわけがない。
……はずなのに。
「詳細は分かりませんが、このままコーマさんの首を差し出せなければギルドが解散となってしまいます。
ギルドが解散となれば私たちに居場所はありません。
そうなる前に……おそらくはこの国や貴族に宣戦布告をせざるを得ないでしょう……」
宣戦布告って……この国と戦争するってこと!?
……ううん、昨日もそういう話をしてたんだ。
この冒険者ギルドっていうのは元々そういう組織だったんだ。
私が知らなかっただけで。
「戦争の参加者は私たちギルド職員と、遷移魔法を使える冒険者……。
もしそうなればフェリシアさんは……申し訳ありませんが逃げることはできないでしょう」
「遷移魔法を使える冒険者って……なんで!?」
「遷移魔法を使える人を私たちギルドが管理することを条件に、遷移魔法を教えることが許されていました。
その私たちが解散となれば、おそらくは……」
おそらくって、まさか殺されるとか……?
「そんな……。じゃあ、なんで教えてもらうときにそういうことも教えてくれなかったの!?」
「本当に申し訳ございませんでした」
ユフィが立ち上がり、私に深く頭を下げる。
ユフィの声色は真剣なもので、申し訳ないと思っている様子が伝わってくる。
「ユフィは……知ってたの?」
「……いいえ。先ほど連絡係の方が来て、そのときに知らされました」
ユフィは知らなかった。
……ならこれ以上ユフィを攻めちゃいけない。
私の中にどうしようもない気持ちはある……だけど、これをユフィにぶつけちゃいけない。
ユフィは何も悪くないんだから。
「ユフィ、顔を上げて」
「はい……」
再び見えたユフィの表情は変わらず暗い。
そっか。
さっきから表情が暗かったのはこういうことだったんだね。
「逃げられないのは分かったよ。
私も、戦う。
明日からは私も対人訓練に参加するよ」
うん、戦わなきゃ殺されるなら戦うしかない。
怖いけど……人間はゴブリンとは違うけど……。
それでも、私は戦うしかないんだ。
「はい……。
申し訳ございません。
そして、ありがとうございます」
ユフィが再び頭を深く下げる。
「顔を上げて。
それに座って。
もう私は大丈夫だから」
「はい……」
ユフィが顔を上げて、それから椅子に座った。
うん、少しだけユフィの顔色が良くなった気がする。
「それで、今後のことですが……まだ私たちのところに来たのはエストーラからの知らせだけでして、本部からはまだ来ていません。
宣戦布告はあくまで可能性ですので、余計な混乱を与えないためにも、冒険者の方々にはまだ知らせないでください」
そっか。
そうだよね。
まだ戦争するって決まったわけじゃないよね。
本部の人が何か方法を考えてくれれば……!
「私はコーマさんについて詳しい人として、これからエストーラに向かいます。
そこにギルドの現リーダーのハリソンさんも来る予定です。
そこで今後の方針を決定します。
皆さんはそれまで対人戦の訓練をお願いします。
オスカルや……他の希望者も参加してください」
「やった!俺達も戦えるぞ!」
オスカルやオスカルに年齢が近い子たちが喜んでる。
対人戦の訓練なんてそんなに楽しいものじゃないのに。
ユフィはコーマに詳しい人としてエストーラに行くんだ……。
「待って、私もエストーラに行く」
「えっ……良いんですか?」
「うん、コーマについては私の方が詳しいでしょ」
「そうですが……エストーラですよ?」
「うん、分かってる」
エストーラ……私の故郷。
もう二度と戻ることはないと思ってたけど。
「……分かりました。では一緒に行きましょう」
「うん!」
まだ対人訓練とか怖いし……。
もうちょっとだけ心の準備をする時間が欲しいっていうのもあるけどね。
「エストーラへは明日の朝出発します。
しばらくベッドでは眠れませんので、今日は沢山食べてゆっくり休みましょう」
◇◆◇◆◇
夕飯を食べ終え、寝る時間になった。
ベッドに入るとユフィが枕を持って近付いてきた。
「おいで。一緒に寝よう」
「良いんですか?」
「うん、もちろんだよ!」
「ありがとうございます」
ユフィがベッドに入ってくるなり腰に手を回して抱きついてきた。
昨日は遠慮がちだったけど、今日は遠慮が無いなあ。
可愛いから良いんだけど。
「えへへ、こうしてると、なんだか懐かしいなあ。
ノエルお姉ちゃんやリリアお姉ちゃんと孤児院で寝てたときに戻ったみたい」
ユフィの話でよく出てくる2人だ。
ノエルさんは会ったことあるけど、リリアさんはまだ会ったことない。
きっと優しい人なんだろうな。
「いつもこうして寝てたの?」
「私よりも小さい子がいたからいつもじゃないけど、でも私の番のときはいつもこうしてたよ」
「そっか」
ユフィが孤児院から引き取られたのは7歳。
まだまだ甘えたい年頃だよね。
「今日、フェリシアさんに嫌われるんじゃないかって怖かった」
「嫌うわけないよ。ユフィが悪かったわけじゃないんだから」
「うん。でも、もし嫌われたらって考えると怖かった」
「大丈夫だよ。ユフィのこと、大好きだよ」
「ありがとう……フェリシアさん」
「フェリでいいよ。家族にはそう呼ばれてたから」
「……良いの?」
「うん、ユフィだから特別だよ?」
「ありがとう、フェリ!」
ユフィの抱きしめる力が強くなった。
ユフィの体温のおかげで、冬が近付いている今でもゆっくり寝られそう。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
感想や評価、リアクションをいただけると、とても励みになります!
次回の更新は2026年4月20日の予定です。




