第39話 騎士
反撃されたゴブリンの救援や騒ぎで起きた住民の処理に時間がかかったせいで朝日が昇ってしまった。
だが一切の犠牲者なくエストーラの制圧ができた。
既に魔法が使える人間は居らず、住民は戦い方を知らなかったというのが大きいだろう。
エストーラでまだ生きている人間は、俺とこの領主の屋敷にいる奴らだけだ。
『お前達は街で休んでいろ』
『いいのか?』
『ああ。ここの奴らは手強い。お前らを守りきれないかもしれん』
もっと早くにここに来れてたら良かったんだが、流石にもう起きてるだろ。
救援に行かなきゃいけない手間を考えると、俺1人でやった方がいい。
『分かった。あとは頼んだ』
ゴブリン達は屋敷から離れ、街の中へと歩いて行く。
『適当な家に入ってパンとか食べてみるといい。
お前達にとっては初めて味わうような絶品だ』
『分かった!そうしてみる!』
実は民家を周りながら食べられそうなものがあったら食べていたんだが、久しぶりに食べた人間の街の料理は味のバリエーションがあって美味しかった。
日本の食事に慣れていた俺としては物足りなさもあったが、それでもゴブリンの村で食べていた香草のみの味付けよりかは遥かにマシだ。
香草の味しか知らないあいつらからしたら、涙が出るほどの美味しさだろう。
ゴブリン達が見えなくなり、屋敷へと向き直す。
貴族の屋敷なんだから警備員とかいてもおかしくないと思うんだが、なんで誰もいないんだ?
朝方だからって怠け過ぎだろ。
門に掛かっていた鍵を壊し、中へと入る。
西洋風の庭が広がっており、その奥にある洋館に貴族や王立騎士団がいるんだろう。
街中は俺たちの戦闘以外の傷が多くあったが、ここの庭や洋館には傷がない。
今後この街を拠点にするとしたら、俺が住むのはこの屋敷だ。
この後の戦闘でもできるだけ建物に傷が付かないようにしよう。
洋館の扉に手を掛けると、やはり鍵が掛かっていた。
……まあ、鍵くらい無くていいか。
扉には傷を付けず、鍵だけを丁寧に壊して中に入ると、1人の鎧を着た騎士がちょうど奥の部屋から出てきたところだった。
「くそっ、もう来やがった。
おいお前ら!
もう敵が入って来やがった!
早く準備しろ!」
やっぱり起きてた上に、俺の存在まで知られてた。
まあいい。
どうせ騎士なんて何人いようと俺の敵じゃない。
「お前はホアキンじゃないな?
その鎧はどこで手に入れた!?」
「森に落ちてたんで拾っただけだ」
インビジブルワイヤーを両手から出し、騎士へと歩いて近寄る。
「そんなわけあるか!……いや、まさか、お前はコーマなのか?」
「そうだ」
「ホアキンは……森に派遣した部隊はどうなった!?」
「全員殺した」
「なっ!?
……住民を殺していたのはなぜだ?」
「人間を絶滅させるためだ」
「お前も人間だろう!?
なぜそんなことをする!?」
なぜ……?
お前らがそれを聞くのか?
俺のフェリシアを奪っておいて……!
「お前ら騎士団が俺の生活を壊したからだろ!」
「……森に派遣した部隊は甚大な被害を与えたんだろう。
だから騎士団を殺すのはまだ分かる。
だが、なぜ無関係な住民まで殺す!?」
「騎士団だろうが住民だろうが、人間であることには変わりはない」
「隊長!敵は……」
騎士がさらに8人出てきた。
なんだ、ただの時間稼ぎだったのか。
だが全員で9人。
全く問題ない。
「森に派遣した部隊は全滅した。
街に残ったパブロたちもおそらく。
全員気を引き締めろ」
「そんな……。パブロたちまで」
「まずは外に出るぞ」
隊長が窓から屋敷の外へと飛び出し、それに残りの8人も続いた。
これから住む屋敷を荒らしたくなかったから外に出てくれるのはありがたいな。
入ってきたドアから外に出て、騎士たちの動きを探っていると、庭を大きく周りながらこちらに向かってきていた。
射程範囲外か。
日没からずっと歩いていたから、あれを追って攻撃とかやりたくない。
庭の中の少し開けた場所で待とう。
「待たせたな」
「ようやく来たか」
騎士たちは俺の正面、右後ろ、左後ろにそれぞれ3人ずつに分かれて取り囲んでいる。
こいつらは取り囲んだだけで勝てるとでも思ったのか?
森に来た騎士たちでこいつらの実力は分かった。
俺が負けることなんて万に一つもありえない。
「「「フレイムスロワー」」」
掛け声とともに3方向から火炎放射が発射された。
こんなもん食らうわけないだろ。
バリアを全面に展開し、炎を防ぐ。
バリアで防げており、魔臓への負担も問題ない。
この程度なら何時間でも防げる。
そのうち騎士達が痺れを切らして近付いてくるだろ。
それを殺せばいい。
まだか?
バリアで炎自体は防げているが、熱さは伝わってくるんだが。
その上酸素が薄くなってきたし。
右後ろの騎士の炎の勢いが弱くなったな。
ならそこから……って、他の騎士に交代したんだけど!
こいつら、このまま俺を蒸し焼きにする気か。
……仕方ない。
俺から攻めるか。
右後ろへ向かって走り、余っている魔素で右手からインビジブルワイヤーを出しながら騎士へと突き刺す。
「ぐっ……」
……あれ、火炎放射を出しているやつを刺したつもりだったんけどな。
別のやつが庇ったせいでそいつに刺さってしまった。
薄いバリアを出していたが、まさかそれで防げるとでも思ったのか?
インビジブルワイヤーを振り抜き、確実に戦闘不能にする。
「ペドロ!……くそっ、ウィンドニードル!」
バリアを無くし、魔素を右手のインビジブルワイヤーへと集め、相手のウィンドニードルへと合わせる。
インビジブルワイヤーはウィンドニードルを突き破り、そのまま騎士の胸へと突き刺さる。
「がふっ……」
「くそっ、くそーっ!!」
残った騎士からウィンドニードルが二本出てくる。
だがもう遅い。
右手のインビジブルワイヤーを消し、両手を騎士へと向けてインビジブルワイヤーを出し、騎士の胸と頭を貫く。
「これで3人。あと6人」
もういい加減疲れた。
そろそろ終わりにして寝たい。
「全員で一斉に行くぞ!」
隊長の合図で残り全員がウィンドニードルを出しながら走ってきた。
濃度にばらつきはあるが、俺のインビジブルワイヤーを超えるやつはいない。
もう面倒だ。
全員まとめて殺してやる。
インビジブルワイヤーを両手からできるだけ長く出し、両手を外から内へと一気に引く。
インビジブルワイヤーは鞭のようにしなり、騎士を両断していく。
これで終わり……ってあれ、1人だけ残ってる。
……隊長か、流石だな。
「くそっ、化け物め」
「あれを防ぐとは、中々やるな。
だが、一本なら防げたとしても、二本ならどうかな?」
再びインビジブルワイヤーを出し、隊長へと突き刺す。
インビジブルワイヤーは胸へと突き刺さり、赤い液体が隙間から溢れてくる。
今度こそ終わりだな。
「お兄様……?」
屋敷の方から女の声が聞こえた。
振り返ると、屋敷のドアの前に銀髪でドレスを着た女がいた。
鎧を着ていないし、騎士ではなさそうだな。
「あなた、何者?」
「コーマだ。俺の名前は知ってるんだろ?」
「コーマ。
……あれ、コーマ?
コーマって……昂真?
もしかして、天沢 昂真!?」
「なんで俺の苗字を知ってるんだ?」
俺はこの世界に来てからは一度も苗字を名乗ったことはない。
フェリシアですら知らない。
それなのに、なんでこの女は俺の苗字を知ってるんだ?
「私!高野真衣!覚えてるでしょ!?」
「高野真衣……?」
確かにその名前には覚えがある。
前世での俺の幼馴染の名前で、小学校から高校までずっと同じ学校だった。
って言っても、高校では禄に話した覚えはないが。
「そう!貴族に転生したから容姿は変わってるけど私なの!」
さっきまでの貴族っぽい女は知らない女だったが、この口調はなんだが覚えがある。
「本当に、高野なのか?」
「そう!天沢くんも容姿が変わってたんだね。
全然分からなかったよ」
まさか異世界に来てまで前世の人間に会うなんて。
しかも高野。
こんな偶然があるのか?
「……で、天沢くんが商人を襲ったり、レアンドロや冒険者たち、そして大勢の騎士を殺したのに間違いはない?」
高野の雰囲気が一気に真剣なものに変わった。
「……ああ、そうだ。ついでにここの住民を全員殺した」
「全員!?……そう、女神様の言ってたことは本当だったんだね」
「女神?」
女神ってイリスだよな?
なんであいつがここで出てくるんだ?
「女神様にお願いされたの。天沢くんを止めてくれって。
でも、そんなに罪を犯しているなら、償って普通に生きていくことはできないよね」
「もうそんなつもりはねえよ」
そうだ。
フェリシアがいない世界で普通に生きたって意味がない。
「私だってお兄様どころか守らなきゃいけない住民まで殺されて怒ってないわけじゃない。
私がこの手で殺してあげる」
「できるもんならやってみろ」
高野がイリスにどんなスキルを貰ったかなんて知らないが、俺に勝てるわけないだろ。
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次回の更新は2026年4月3日の予定です。




