第37話 魔法
目の前の3人の騎士はプレートアーマーに剣と盾。
マジックブレード程度の濃度じゃ金属の切断も貫通もできない。
だが、インビジブルワイヤーなら。
これなら金属だろうと豆腐のように切り裂ける。
その代わりバリアを張れなくなるが……。
いや、今は一刻も早くこいつらを殺してフェリシアと合流するのが先だ。
バリアを張るのを止め、魔素を集めながら体内で魔素を圧縮する。
魔素を集めれば集めるほどインビジブルワイヤーを遠くまで伸ばせ、不意打ちで3人とも殺せるかもしれない。
「この濃度……盾を捨てろ!」
真ん中の騎士がそう言いながら盾を捨て、それに他の2人の騎士も続いた。
盾じゃインビジブルワイヤーを防げないのを見抜かれたか。
「投擲!」
真ん中の騎士がそう言い、3人とも同時に持っていた剣を投げつけてきた。
慌ててバリアを再度展開し投げられた剣を弾くと、その隙に3人の騎士が接近し、手のひらをこちらに向けていた。
こいつらの籠手には手の平側は何も無いのかよ。
「ウィンドニードル」
俺に向けられた3つの手のひらからインビジブルワイヤーと同程度の濃度の魔素が飛んできた。
それを上半身を仰け反らして避け、両手から魔素を2人へ向けて発射する。
「ぐっ……」
魔素は当たったが、濃度が低くアーマーを貫けず、衝撃を与えるだけになった。
こっちはバリアを張らなきゃどんな攻撃でも致命傷なのに、あっちはアーマーでインビジブルワイヤー以外は防げるのずるいだろ。
「力量は分かった。2人は下がっていろ」
2人の騎士を下がらせ、真ん中の騎士だけがその場に残った。
「その首、私の手柄にさせてもらう」
俺相手なら1人でも勝てるって判断したってことかよ。
その判断、後悔させてやる。
もう剣は無いんだから投擲もないだろ。
バリアを解除し、再び魔素の圧縮を始める。
「フレイムスロワー」
騎士がそう言った瞬間、騎士が俺に手のひらを向け、炎が噴射された。
再度バリアを展開しながら右後ろへ逃げ、炎の中から脱出する。
くそっ、全然攻撃できねえ。
時間をかけられないってのに。
だからと言ってバリアを張らないわけにはいかない。
……なら、バリアを張りながら攻撃するしかない。
バリアを全面に張るから攻撃するための魔素が残らないんだ。
バリアは敵の攻撃が来る場所だけ、最小限に。
そして残った魔素でインビジブルワイヤーを!
「ウィンドシュート」
騎士の手のひらから一塊の魔素が飛んでくる。
右手では魔素の圧縮を、左手では飛んできた魔素を相殺できる最小限のバリア。
バシュッと低い音が鳴り、騎士の魔法と俺のバリアが相殺された。
それに合わせ駆け出し、騎士の懐に入り込む。
「なっ!?」
この距離ならインビジブルワイヤーの射程範囲だ。
インビジブルワイヤーを騎士の腹へ突き刺し、そのまま上へと切り上げる。
その騎士には腹から肩口へと大きな裂け目が出来上がった。
「「隊長!」」
後ろで控えていた2人の騎士が狼狽え、こちらへ駆け寄ろうとしたが、すんでのところでこらえた。
そのままこちらに来ていればすぐに隊長の後を追いかけさせたんだが。
「次だ」
両手からインビジブルワイヤーを出し2人の騎士と相対する。
「ウッ、ウィンドシュート!シュート!シュート!」
2人の騎士が交互に魔法を放ち続ける。
それを左手から出すバリアで的確に相殺しながら騎士へと近付いていく。
「くそっ、ウィンドニードル!」
濃度が高い魔素を一本ずつ出してきた。
これはバリアでは受けられないな。
バリアでは、な。
騎士の魔法に合わせ、正面からインビジブルワイヤーを伸ばす。
二つの魔法がぶつかったとき、濃度が同じであれば魔法は拮抗するが、濃度が違う場合はより濃い方が勝つ。
俺のインビジブルワイヤーが2人の魔法を押しのけ、そのまま身体へと突き刺さる。
騎士は呻きながらその場に倒れ込み、やがて魔臓の活動が停止した。
「時間が掛かったな。あっちはどうなっている?」
村の方へと目を向けると、建物は全て燃え、ゴブリンの死体が何体も転がっている。
さきほどまでゴブリンやフェリシアが集まっていた場所にはゴブリンの死体がいくつかあり、その中には子供の死体も含まれている。
……フェリシアは?
フェリシアはどこに行ったんだ?
死体を一つずつ確認していくが、フェリシアの死体はまだ見つからない。
死体をひとつずつ見ていくと、よく見たゴブリンの姿があった。
これは……カミル!?
そんな……カミルが死んだっていうのか?
じゃあ今ゴブリンを率いているのは誰だ?
ゴブリンの死体が村の中央から一方向にだけ続いている。
フェリシアたちはこっちの方向に逃げたのか?
その死体を追っていくと、ゴブリンの死体に紛れて、騎士の死体が一つ混ざっている。
騎士の胸には矢が一本。
ダミアンがやったのか?
だがゴブリンの筋力で鉄を貫けるほどの威力が出せるか?
俺が戦っている間にここで何があったんだ。
村の中にフェリシアの死体は無かった。
ならフェリシアはまだ生きてるってことだ。
そして、多分この先にフェリシアはいる。
まだ無事でいてくれ!
◇◆◇◆◇
ゴブリンの死体を目印に森を駆け抜ける。
途中ゴブリンの死体が大量にあったが、騎士の死体も何体かあった。
弓で射抜かれた死体、ゴブリンに撲殺されたと思えるような死体。
カミルのいなくなったゴブリンたちにこんな真似ができるとは思えない。
ならフェリシアが指揮したってことか?
戦闘の痕跡を追って走っていくと、前に大量の魔臓の反応を感じた。
一番近くの魔臓の集団は騎士か。
やつらは背を向けている。
今がチャンスだ。
両手からインビジブルワイヤーを出し、その集団へ向けて伸ばす。
「ん?あれは……隊長達はどうした!?」
騎士達に気付かれたがもう遅い。
インビジブルワイヤーで騎士達の首を切断し、その身体を地面へと横たえさせる。
フェリシアはどこだ。
魔臓の反応を頼りに周囲を見渡すと、木々の隙間からピンク色の髪がちらりと覗く。
「フェリシア!!」
俺の声が届き、フェリシアが俺に振り向く。
「コーマ!?」
良かった、フェリシアは無事だ。
「うっ……」
「どうしたフェリシア!?」
フェリシアの下へと駆けつけると、左胸に矢が一本突き刺さっている。
今刺さったばかりなのか、血がじわりと滲み出てきている。
どこだ。どいつがフェリシアに矢を当てやがった。
魔臓の反応と矢が刺さっている方向から推測した位置に目を向けると、弓を持ち、次の矢を番えようとしている騎士がいた。
「お前かああ!!」
その騎士へと駆け出し、矢を番える前に騎士の首をインビジブルワイヤーで刎ね飛ばす。
その騎士は捨て置き、他の魔臓の反応の下へと走り首を次々に飛ばしていく。
俺とフェリシア以外の魔臓の反応が消えたのを確認し、フェリシアの下へと走り寄る。
「フェリシア!大丈夫か!?」
フェリシアの左胸からは血が止まること無く溢れ出て、口からも血を吐き出している。
どうすれば……どうすれば血が止まるんだ。
胸を貫かれた場合にどうすればいいかなんてギルドで教わったか!?
「コーマ……ごめん。ごめんね……」
「フェリシアが謝ることなんてない!
俺が、フェリシアを守らなきゃいけなかったのに」
「違う、違うの……」
矢を抜いちゃいけないのは分かる。
だが、どうすればいいんだ?
腕と違って胸の止血は容易じゃないし、生成魔法で作った水流で洗浄なんてしたらそれこそ死んじまう。
こんなとき回復魔法さえ、回復魔法さえあれば……!
「ごめん、なさい……」
「フェリシア……?」
フェリシアの目から一筋の涙が流れ落ち、フェリシアの身体から力が抜ける。
魔臓が魔素の吸収を止め、魔臓の反応を感知できなくなる。
「フェリシアァァァ……」
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次回の更新は2026年3月27日の予定です。




