血塗られた騎士
怒号――
突然敵はやってきました。
「ビートル3体……、1体ははじめてみます!」
「イリス隊は急ぎ迎撃へ!ライト、あなたも出てください」
「ああ、まかせてくれ」
「私も準備が出来次第ホワイトロードで出ます」
「姉さん、あなたが出る必要は……」
イリスは引き止めますが、首を横に振ります。
「未確認のものについてはライトにお願いします。ホワイトナイトはビートルもまともに抑えることができないことを考えると、奴を止められるのはあなたぐらいです」
「わかった、ホワイトナイトはビートル2機を意地でも止めてくれ」
「まかせて!」
それぞれが自機に乗り、戦場へと飛び出します。
帝国……セクト国の新型はビートルと比べて色がやや赤みがあります。
真っ赤と言うよりも返り血を浴びたような染色がされており、どことなく威圧感がありました。
(……ビートルの1機、あれは恐らくラッド機か)
左腕に白い布が巻かれています。
そして……無線が入ってきます。
『聞こえるかライト、俺だ、ラッドだ』
「ああ、聞こえている」
以前会った際にカンガルーに積まれていた小型無線機を一つラッドに渡していました。
これは近場の相手との連絡用であり、最後の仕事の時に予備用に積んでいたものです。
『気をつけろ、隊長機……ブラッドと呼ばれている機体は他のビートルとは違う。
俺も詳しいことはわかってはいないからアドバイスは期待しないでくれ』
「わかった……あとできれば彼女たちを殺さず、倒さないようにしてくれないか?」
『……仕方ないな、わかった。ただ俺も死にたくはない、やばいと思ったら本気でやらせてもらうぞ』
「ありがとう!これで奴に専念できる」
目の前にはブラッドと呼ばれるマシンがいます。
騎士……とは程遠く、どことなく虫のような造形をしています。
そしてビートルやカイザーとは違い、手の甲から剣が飛び出しています。
「武器まで専用ってか……、いくぜ!」
カンガルーの右手にはサブマシンガンとは違う銃が携帯されています。
バチィ――
銃口からは電撃……。
ルールに発注したカンガルーの新しい武装、スパークガンです。
アイディア自体はラビによるものでこの世界の素材と魔法の力で電撃を発生させる銃を開発。
カンガルーへと実装されました。
「わかっちゃいたが、効かないか」
魔法に対して絶対的な抵抗力を持つビートル、その発展機も当然魔法は通用しません。
電気を帯びますがお構いなく剣を振り回します。
スパークガンを収納し、斬撃をくぐり抜けて拳を繰り出します。
左腕に持っている盾でそれをブロック……しかし拳から電撃が発せられます。
盾の向こう側から少し煙、小さいながらも爆発音が聞こえます。
「電撃自体は有効打か!」
カンガルーのもう一つの新しい武器、ボルトナックル。
これはライトのアイディアでルールに改造してもらって実現した電撃を発生する拳です。
魔法力ではなく、エネルギーを使って電撃を発生。スパークガンが通用しなかった時のために準備していたものです。
そして効果はあり……黒騎士に有効な武器です。
「よし……!」
『マジかよ、あのブラッドにダメージを与えるだなんて』
ブラッドは盾を投げ捨て、左腕からも剣を出します。
剣と剣をぶつけて火花を散らしているところを見ると怒っているように見えます。
加速、突進。
猛獣と言うべき飛び込み。
他の黒騎士にはない高速移動。
カンガルーのバーニアがフル稼働します。
「高速戦闘はカンガルーの専売特許だぜ!」
真上へ上昇。
ブラッドはそれを目視し、地面を蹴って追撃します。
牽制を兼ねてスパークガンで迎撃……。
背中の羽を展開し、横へと急転換しました。
先程のボルトナックルによる電撃も合ってか咄嗟に回避したように見えました。
ライトはそれを見逃しはしませんでした。
雷撃と言うべきものが背中へと直撃しました。
凄まじい衝撃音がなり、背中の左羽が破壊されました。
弱った虫のようによろめきながら地面へ。
「パワーダウンしている……今がチャンス!」
『待てライト!不用意に飛び込むな!』
ラッドの叫び声に反応し、ピタリと動きを止めました。
ブラッドはタイミングを計ったかのように振り返り、両腕の剣を交差させた一撃を繰り出します。
しかし手応えはなく、そこにはカンガルーはいません。
「た、助かった~!ありがとよ!」
『さっきの一撃で倒せたと思うな!用心してかかれ!』
ラッドの警告に静かに頷きます。
少し距離を置いてカンガルーも着地します。
一呼吸置こう、と考えているのも束の間。
凄まじい速さでこちらに飛び込んできます。
その姿は野生と形容したくなるほどです。
一振り、二振り、十字……。
絶え間なく斬撃を繰り出しますがカンガルーはバーニアを器用に使い寸前のところでかわしていきます。
ヒットアンドアウェイを繰り返し、スパークガンで牽制します。
「しつこい!」
業を煮やしたライトは横へ急転換。
その動きにブラッドは対応できず、バランスを崩します。
その瞬間を狙い、ボルトナックルで側面に一撃……。
ザンッ――
カンガルーのスパークガンが切断され、宙に舞います。
もう一歩踏み込んでいれば左腕が吹き飛んでいました。
「反応がよすぎだぞこいつ!」
『だから用心しろって言っただろ!』
「それだけでわかったら苦労しない!クソッ!」
一歩、また一歩と引きます。
しかしここぞとばかりにブラッドはさらに踏み込んできました。
攻撃の嵐はより一層激しくなります。
「クソッ、このままだと押し切られてしまう!」
『ライト!!待ってろ、加勢しに……』
「それは駄目だ!」
『し、しかし……』
ラッドは助けに動こうとしますが止められます。
イリス機と交戦中とは言え機体性能の差で圧倒しているため、ここを振り切って助けに行くことも可能でした。
「こっちは自分でなんとかする!お前が帝国を抜けてしまえばそれだけ地球へ帰れる可能性が低くなってしまう!俺に構うな」
しかし攻撃に対して反応しきれば、ついには移動ポイントを誤り、地面に接触します。
横滑りし、木に激突して動きが止まります。
当然、そこへ向かってブラッドは突進を仕掛けます。
それと当時にその真横に白い機影。
ホワイトロードが飛び出してきました。
そのままブラッドへ突っ込み、もつれ合うように地面に転げます。
左手に持っている剣を逆手に持ち、背中へと深く突き刺しました。
「……そうか、俺がさっき与えたダメージか!」
『聞こえますかライト、とどめ……とどめをお願いします!』
「助かったぜイリア!うおおおおおおおおおおお!」
バーニアを全開、剣に向かって渾身のボルトナックルの一撃。
電撃がブラッドの全身に走りところどころから火花が散ります。
ホワイトロードの腕を掴み、カンガルーは一気に上昇します。
ドォォォォン――
爆発音が鳴り、ブラッドは爆散しました。
それを見たビートル達は慌てたように撤退していきます。
「イリア、助かったぜ」
「遅くなってすまない、しかし良い場面で出てきたろ?」
「あんた……狙ってたな!」
「ふふふ」
緊張は説かれ、和やかな雰囲気が流れます。
白い布を巻いたビートルは離れつつもライトが乗るカンガルーを見つめます。
(仲間の助けがあったとはいえ見事だったよライト、お前とならもしかしたら地球へ帰れるかもしれないな……)




