表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/25

2 あたらしい おともだち

「ほげー? ほげほげ、ほげぇ」

「そうだよ龍くん。今日から新しい『おともだち』が増えるからね。

 みんな、仲良くできるかな?」


朝の会。いつも通りパンパース一丁で床に転がる龍と、

お気に入りのクマのぬいぐるみを人質のように小脇に抱えた徹を前に、

俺は手を叩いて注目を集めていた。


今日からこの『はらっぱ保育園』に新たな園児がやってくる。

なんでも、例のダークヒーローに昨日「制裁」を食らったばかりの

ホヤホヤの元ヤクザらしい。


ガラガラ……と保育室のドアが開く。


そこに立っていたのは、園長先生に手を引かれた

身長190センチはあろうかという巨漢の男だった。


髪は金髪のオールバック、顔面には派手な傷跡、

そして着ているのは……サイズ特大のひよこ柄スモック。


彼こそが昨日まで九州の武闘派組織で「狂犬の悟」と恐れられていた男、

さとるくん(38歳)。


「ほ、ほげぇ……ッ!」


悟は部屋に入るなり、鋭い眼光で龍たちを睨みつけた。

自我を失ったとはいえ、新環境への警戒心からか

全身からバチバチと威嚇のオーラ(殺気)が放たれている。


おののくかと思いきや、

龍と徹は「ほげ?」「ほげー」とマイペースに鼻提灯を膨らませていた。

さすが、大物すぎる。


ーーー


「ほげえぇぇい!!」


突然、悟がドスの利いた咆哮を上げ、

部屋の隅にあった「アンパンマンの滑り台」をガシッと掴んだ。


そして、持ち前の怪力でそれを頭上に掲げ、

龍たちに向かって投げつけようとしたのだ!

退行してもなお残る、狂犬の暴力衝動。


「危ないっ!!」


俺は間一髪で滑り台をキャッチ……できるわけもなく、

悟の懐にスライディングで飛び込んだ。

一般の保育士なら確実に不審者対応訓練のレベルだが、

ここではこれが日常茶飯事だ。


「悟くん、メッ!! 滑り台は投げちゃダメ! めっちゃ危ないから!」


俺は悟の手から滑り台を取り上げ(重すぎて腰がいきかけた)、

彼の目をまっすぐ見つめて、人差し指を交差してバツの字にする。


「ほげ……? ほげ、ほげぇ……」


怒られると思っていなかったのか、悟は動きを止めた。

かつて警察すら恐れた「狂犬」の目がみるみるうちに潤んでいく。

巨体が小刻みに震え、ついに――。


「ほげええええええええん!!!(大号泣)」


鼓膜が破れんばかりの超重低音シャウト。


大の大人が床にひっくり返り、手足をバタバタさせて泣き叫ぶ。

床が振動で揺れている。地震か? いや、悟のイヤイヤ期だ。


ーーー


「はいはい、怖かったね、ごめんね。よしよし……」


俺は慣れた手つきでポケットから特注の「超特大サイズのおしゃぶり」を取り出し、

悟の口にスポッと放り込んだ。


「……ほげ」


一瞬で静寂が訪れた。


おしゃぶりをチュパチュパと力強く吸いながら

悟は涙をポロポロと流し、途端に大人しくなる。

やはり彼もダークヒーローに自我を消し飛ばされた「無邪気な幼児」なのだ。


すると、その様子をじっと見ていた龍が

ずりばい(時速20キロ)で猛烈に接近してきた。


「ほげ! ほげほげ!」


龍は自分が一番大切にしている「アンパンマンの型はめパズル」を

悟の前に差し出した。


さらに徹も、お気に入りのクマのぬいぐるみを悟の頭にそっと乗せる。


「ほげぇ……」


悟は目を丸くし、おしゃぶりを咥えたまま嬉しそうに「ほげ♪」と鳴いた。


同じ「元極道・現幼児」として、きっと通じ合うものがあるのだろう。

さっきまでの殺気はどこへやら、3人はあっという間に固まって

パズルを囲んで「ほげほげ」と笑い合い始めた。


無様で、滑稽で、だけどこれ以上ないくらい平和な光景。


「……まぁ、仲良くなれたならいっか」


俺は激痛の走る腰をさすりながら、ほっと胸をなでおろす。


【園長からの連絡帳メモ】

守先生、新入園児の悟くんのケア、ありがとうございました。

早速ですが、悟くんのパンパース(XXLサイズ)のストックが切れたので、

買い出しをお願いします。

あと、彼の「ほげ」は低音すぎて近所の犬が遠吠えを始めてしまうので、

できるだけ優しくあやしてあげてください(^-^)


ーーー


「よし、みんな! 次はお歌の時間だよ! チューリップ歌う人ー?」

「ほげーーー!!!」


3人の元ヤクザが一斉にぶっとい腕を突き上げる。


新入りが増えて保育園の騒がしさは倍増。

俺のライフはもうゼロに近いが、この無邪気な笑顔を守るためなら

明日もまた頑張れそうな気がする――気がするだけかもしれないけど。



続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ