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18 たいこ ぽんぽこ

♪トントン パッ! トントン パッ! おなかをたたいて ぽんぽこぽん!


テレビの中では歌のお兄さんが歌いながら笑顔で自分のお腹を叩いている。

その陽気な旋律に合わせて保育室にもドドン、ドドンと響く低音。

画面を見つめたまま、龍が己の丸出しの腹を豪快に平手打ちしている音だ。


「ほげー!」


手応えが気に入ったのか、龍はさらに勢いを増して腹を連打する。

ドスッ、バチィンと、とても子供向け番組の鑑賞中とは思えない。

それを見た徹が目をギラつかせて自分の胸板を拳でトントンと叩き始める。

ゴリラのマウンティングさながらのチェストパットだが本人はノリノリだ。

悟もおしゃぶりを吸いながら両手で自分の巨大な太ももを交互に引っ叩き、

パーカッションのベースラインを担当し始めていた。


自分たちの肉体を楽器にしたセッション。

だが、当然ながら素肌を力任せに叩けば痛い。


「ほ、ほげぇ……」


真っ赤になった自らの腹を見つめ、龍が眉をひそめた。

徹も胸骨あたりを押さえて「ほげっ……」と顔をしかめている。


痛いのは嫌だ、でも叩くのは楽しい。

葛藤する大男たちの視線が、

部屋の真ん中で転がったおもちゃを回収していた俺の背中に吸い寄せられた。


ぞくっと背筋が凍る。


「……あ、なに? なんでみんなで俺を囲んで――」


俺が立ち上がるより早く、悟の190センチの影が上空を覆った。


ドスゥン。


「ぐはっ!?」


悟の巨体に押し潰される形で俺は畳の上に仰向けに転がされた。

逃げようと足を動かそうとしたが、

すかさず龍が俺の両脚の上にあぐらでどっかりと座り込み完璧に固定する。

さらに徹が俺の頭上に回り込み顔を覗き込んできた。


逃走手段、なし。


「ほげ♪」


龍が俺の膨らんだお腹の上に大きな両手を構えた。


「やめろ、俺は太鼓じゃな――」


ドスッ! タペッ!


「がはッ……!」


龍の極太の手のひらが容赦なく俺の腹膜をバウンドする。


「ほげー! ほげ、ほげぇ♪(おなかを たたいて ぽんぽこぽん!)」


テレビの歌に合わせて、

龍が実にご機嫌な笑顔で俺のお腹を「ぽんぽこ」叩き始めた。

続いて、両脇に待機していた徹が俺の肋骨あたりに狙いを定め、

爪を立てない絶妙なスナップで左右交互に拳を打ち込んでくる。


ぽこぽこぽこぽこっ!


「あがっ! 徹くん、打点が、打点が細かい……!」


音速のキャッチボールならぬ音速のタタキ。

痛気持ちいいを通り越して、

内臓がジグソーパズルのようにバラバラに分解されていく感覚だ。


そこへダメ押しとばかりに、

悟が俺の太ももを両手の掌底でズシン、ズシンと打ち鳴らす。


ドス、ドス、タパタパ、ぽこぽこ!


俺の肉体を使った、3人による怒濤のトリプル・ドラム・セッション。


「ほーげー! ほーげー!(ぽんぽこ ぽん!)」


テレビのお兄さんが「最後はポーズ!」と画面で決めポーズをとった瞬間、

3人の手がピタッと止まり、悟の手が俺の胸板の真ん中にドスンと置かれた。


「ふ……ふぐぅ……」


俺の口から漏れたのは歌声ではなく魂の抜けた漏気音だった。

みぞおちから太ももまで全身の表面がじんじんと熱を帯びて拍動している。

打楽器の気持ちを生まれて初めて体感した。


当の演奏者たちはというと、完璧な演奏をやり遂げた達成感でいっぱいのようだ。


「ほげーーー!!!」


3人は一斉に顔を見合わせ、晴れやかな笑顔でハイタッチを交わしている。

そして、床にへたばった俺の顔の横にそれぞれの頭を寄せ、

撫で回すように「ほげ♪ ほげ♪」と甘えた声を出してきた。


俺を叩いてスッキリしたのか、悟はおしゃぶりを満足げに吸い直し、

徹は俺の肩に顎を乗せ、龍は俺の腹にぺたりと頬をくっつけて目を細めている。


「……たく、俺は楽器じゃないんだぞ……」


文句を言いながらも、3人の頭に手を伸ばし、乱れた髪を雑になで下ろしてやる。

じんじんと体に走る余韻は彼らからの「いっしょに遊べて楽しかった」という、

あまりにも暴力的で、あまりにも不器用なメッセージそのものだったからだ。


ーーー


【園長からの連絡帳メモ】

守先生。人間パーカッションのパフォーマンス、大変お疲れ様でした。

職員室まで「ドドン! パコン!」と素晴らしい音が響いておりましたので、

ついつい私も廊下から手拍子でお手伝いしてしまいました。

なお、通りすがりの方から「保育園から伝統芸能のフェスティバルみたいな

躍動感ある太鼓の音が聞こえる」と感心したようなお電話がありましたよ。

身体の打痕には職員室にある湿布をご自由にお使いください(^-^)


ーーー


「はい、演奏会はおしまい!

 お昼寝の時間だから、みんな自分の布団に移動してー!」


「「「ほげーーー!!!」」」


俺の体から離れた3人が満足気な顔でゴロゴロと布団へ転がっていく。

俺は自分の腹をさすり、深く息を吐き出しながらゆっくりと立ち上がるのだった。


続く

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