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17 ながそう そうめん

連日の猛暑で園庭の砂利が焼け石になっている今日この頃。

エアコンをフル稼働させても基礎代謝が異常に高い大男が3人もひしめき合えば、

室温はあっという間に上昇してしまう。


そんなある日、園長がどこからか立派な青竹を調達してきた。


「守先生、これで涼を感じるアクティビティができますよ!」


というわけで、日陰を選んだ園庭に流しそうめんの特設レーンを組み立てた。

高低差をつけた竹のコースを冷たい水がサラサラと音を立てて流れていく。


「ほげ?」


龍が竹の表面を流れる水を不思議そうに眺めている。

徹はスモックの背中にクマのぬいぐるみを包帯でがっちりとおんぶした状態で、

マタギのような鋭い腰の落とし方で構えていた。

悟は手にしたプラスチック製のお椀をギチギチと鳴らし、

流れてくるであろう獲物を待ち構えている。


「今からおそうめんを流すからお箸で優しく捕まえて、

 つゆにつけて食べるんだよ。いくぞ!」


俺がそう言って上流から一掴みの白いそうめんを放流した。


ーーー


水に乗って滑らかに滑り降りてくる白いそうめん。

それを見つめる徹の眼光が一瞬でスナイパーのそれへと切り替わった。


「ほげぇい!」


シュバッ!!!


箸が空気を引き裂く鋭い音が響く。

流れるそうめんの先頭をピンポイントで挟み込んだ。

……ここまでは完璧だった。が。


箸の圧力が強すぎて挟まれたそうめんの中心部が瞬時に消し飛び、

お椀に叩きつけられた衝撃で「バシャッ!」と

中のつゆが周囲に激しく飛び散った。


「徹くん! 捕獲は完璧だけど威力が強すぎるよ!

 そうめんさんが細胞レベルで粉砕されてるから!」


徹はお椀の底に残った哀れにもペースト状になった白い塊を見つめ

「ほげ……?」と不思議そうに首を傾げている。


ーーー


一方、自分の位置までそうめんが回ってこないことにシビれを切らしたのが悟だ。


「ほ、ほげぇぇ……」


じれて待つのが嫌いな狂犬の本能がバグを起こしたらしい。

悟は並んでいたレーンの中央部分へ大股で歩み寄ると、

太い両手で青竹の筒をガシッと掴んだ。


「あ、コラ悟くん、そこを引っ張ったら――」


「ほぎゃあぁい!!」


バキキキキキィッ!!!


俺の制止など届くはずもなく悟はレーンを支えていた木製の支柱をへし折り、

竹の筒をそのまま自分の顔の高さまで一気に持ち上げた。

結果、それまで緩やかだった傾斜が、

一瞬にして角度80度の「ほぼ垂直な断崖絶壁」へと変貌する。


上流から流れていた水とそうめんが、

凄まじい重力加速度を伴って、もはや滝のような勢いで垂直落下を始めた。


「流しそうめんじゃなくて華厳の滝だよこれ!!」


ーーー


その滝壺でドッカリとあぐらをかいて待っていたのが龍だ。

不器用で箸がうまく使えない龍は最初から個別のキャッチなど狙っていない。

彼は最下流に設置されていたザルを両手でしっかり持って待ち構えていたのだ。


「ほげーーー!!!」


ドバシャァァァァァッ!!!


垂直落下してきたそうめんの鉄砲水が龍の顔面を直撃する。

凄まじい水しぶきを浴びて完璧な滝行状態になっているが龍はザルを離さない。

顔面を濡らしながらザルの中に溜まっていく大量のそうめんを見て

「ほげ♪ ほげ♪」と身体を揺らして歓喜している。


「龍くん、ガッツは認めるけど溺れるから! 逃げて!」


園庭は溢れ出た水で水浸し、竹のレーンは中央から真っ二つ。

俺の叫び声が響く中、特設会場はわずか3分で完全崩壊を迎えた。


ーーー


結局、流すのは諦めて、

龍が死守したザルからみんなにそうめんを分けて縁側で食べることになった。


「ほげ、ちゅる、ちゅる……」


冷たいそうめんを美味しそうに口へ運ぶ大男たち。

龍は口の周りにそうめんをたくさん張り付かせて「ほげ~」と満足げに笑い、

徹は相変わらず箸を高速で動かして綺麗な所作で完食し、

悟はおしゃぶりを咥え直して涼しげな風に目を細めている。


飛び散った麺の片付けやバラバラになった支柱の処分を考えると目眩がする。

だけど、冷たい水を浴びてすっきりした顔の彼らが、

こうして縁側で並んで美味そうに麺をすすっている姿を見ていると、

この大騒ぎも悪くない夏の思い出に思えてくる。


ーーー


【園長からの連絡帳メモ】


守先生。スリリングなそうめん大会の運営、ありがとうございました。

職員室から見ておりましたが、悟くんが重力を書き換えた瞬間、

園庭に滝が生まれて非常に涼やかな気持ちになりました。

なお、通りすがりの方から

「はらっぱ保育園の庭で男たちが滝に打たれながら

 『ほげー!』と叫ぶ新興宗教の儀式が行われている」との電話がありましたが、

「ただの食育です」と説明して納得していただきました(^-^)


ーーー


「はい、みんな食べ終わったらお椀とお箸をお片付けするよー!」


「「「ほげーーー!!!」」」


水に濡れてひんやりとした3人の巨躯が、一斉に俺の元へと突進してくる。

ずぶ濡れのハグで俺のシャツも一瞬で水浸しになったが、

彼らの屈託のない笑顔が真夏の不快な暑さも綺麗に洗い流してくれた気がした。


続く

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