第8話「ドラスレんごたる」
営業が終わる頃には、空が赤く染まり始めていた。
屋台の炭火も、少しずつ勢いを落としている。
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源太は腰を叩きながら、大きく息を吐いた。
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源太:
> 「いったぁ……」
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今日はずっと立ちっぱなしだった。
慣れているはずの屋台仕事。
だが異世界での営業は、想像以上に疲れる。
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ジェームスは腕を組んだまま、屋台の前に立っていた。
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ジェームス:
> “So?” (それで?)
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源太:
> 「ん?」
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ジェームス:
> “The inn.” (宿だ)
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源太は思い出したように頷く。
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源太:
> 「あー、お願いしたかね」
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硬貨を小袋へ入れる。
カラン、カラン……
異世界の金。
まだ感覚はない。
だが、確かに今日働いた結果だった。
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源太:
> 「明日のお代はよかけん」
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ジェームス:
> “…?”
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源太:
> 「トゥモロー、イート、マネー、ノーサンキュー」
> (明日の飯代はいらんけん)
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ジェームスは数秒黙る。
意味を整理しているらしかった。
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源太は続けた。
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源太:
> 「ナウ…… ルッキングフォー、イン、ウィズミー」
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ジェームス:
> “…Inn?” (宿か?)
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源太:
> 「お、それたい」
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ジェームス:
> “Your English is getting worse.” (お前の英語、悪化してるぞ)
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源太:
> 「なんか解らんばってん、また俺の英語ばバカにしたとは解る。ばってん通じたけん勝ちたい」
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ジェームスは呆れたように息を吐く。
だが、ちゃんと歩き始めた。
案内してくれるらしい。
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源太は屋台へ布をかける。
赤提灯は消えたままだ。
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石畳の夜道を歩く。
通りには松明の火。
遠くでは教会の鐘が鳴っている。
昼とはまた違う街の顔だった。
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源太は周囲を見回しながら、小さく呟く。
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源太:
> 「宿探しとか、聖水とか、モンスターとか……」
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ジェームス:
> “…?”
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源太:
> 「なんかドラスレんごたるね」
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ジェームス:
> “Dorasure?” (ドラ……スレ?)
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源太は少し懐かしそうに笑った。
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源太:
> 「昔あったゲームたい。 若か頃、ようやりよった」
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子供の頃。
ゲームショップで小遣いを握りしめて買ったRPG『ドラゴンスレイブ』
剣士。
魔物。
宿屋。
教会。
そんな世界に憧れた時期も、確かにあった。
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まさか五十七歳になって、本当に来るとは思わなかったが。
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源太:
> 「人生わからんもんやねぇ……」
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ジェームス:
> “What?” (何だ?)
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源太:
> 「なんでんなか」
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風が吹く。
教会の鐘が、静かな夜へ響いていた。
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しばらく歩くと、通りの角に木の看板が見えた。
ランタンの灯りに照らされている。
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ジェームス:
> “Here.” (ここだ)
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二階建ての石造り。
扉の隙間から、暖かな灯りが漏れている。
中からは笑い声と食器の音。
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源太は、その光景を見て少し目を細めた。
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源太:
> 「……なんか安心するねぇ」
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異世界に来て初めて。
“帰れる場所”みたいなものを見つけた気がした。




