第7話「金ば置いていきんしゃった」
炭火の煙が、昼の通りをゆっくり流れていく。
屋台「源ちゃん」の前には、いつの間にか列が出来始めていた。
昨日より多い。
明らかに増えている。
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源太:
> 「なんかほんとに店になってきたねぇ……」
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串を返す。
ジュゥゥ……
脂が炭へ落ち、香ばしい煙が立ち上がる。
その匂いに、また一人足を止めた。
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> “Buono!” (うまい!)
> “Vorrei il bis!” (もう一本!)
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源太:
> 「はいはい、ちょっと待ってんやい」
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もちろん通じてはいない。
だが指差しと雰囲気で、なんとなく成立していた。
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ジェームスは屋台の端に座ったまま、その様子を眺めている。
焼き鳥は既に五本目だった。
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源太:
> 「食い過ぎやなか?」
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ジェームス:
> “…Good.” (うまい)
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源太:
> 「そら何よりたい」
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客の一人が串を受け取り、代わりに小さな硬貨を置いた。
カラン。
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源太:
> 「ん?」
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銀色の硬貨だった。
見たことのない刻印。
重みはある。
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さらに別の客も、食べ終えると硬貨を置いていく。
カラン、カラン……
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源太:
> 「……お金?」
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ジェームスは頷いた。
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ジェームス:
> “Of course.” (当然だ)
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源太:
> 「いや、まぁそうやけど」
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源太は硬貨を摘まむ。
本当に営業している感覚が、急に現実味を帯びてきた。
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源太:
> 「異世界でも金は要るっちゃねぇ……」
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ジェームス:
> “Everything needs money.” (何でも金は必要だ)
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妙に重みのある言葉だった。
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その間にも客は増えていく。
香りに釣られた人間が足を止め。
食べた客がまた別の客を呼ぶ。
小さな屋台の前だけ、人の流れが出来始めていた。
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日が傾き始める頃。
源太はようやく一息ついた。
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源太:
> 「疲れたぁ……」
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腰を伸ばす。
五十七歳の身体には、慣れない環境と立ち仕事が地味に効く。
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ジェームスは硬貨の山を見ていた。
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ジェームス:
> “You earned quite a lot.” (かなり稼いだな)
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源太:
> 「そうなん?ロットオブマネーってこと?」
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ジェームス:
> “Enough for an inn.” (宿に泊まれるくらいにはな)
「イン?…あー宿ねっ」
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源太は少し黙る。
それから屋台の奥を見る。
簡易ベッド。
寝袋。
狭い天井。
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源太:
> 「……正直、もう身体バキバキったい」
腰を叩くジェスチャーをしながらおどけた。
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ジェームスが少し笑う。
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ジェームス:
> “You are old.” (お前は歳だからな)
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源太:
> 「もうフィフティセブンやけんね…って、やかましかっ」
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だが否定はできなかった。
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外を見る。
石畳の街。
異国の空。
教会の鐘。
そして、屋台の前に残る炭火。
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昨日までは、“生き残る”ことで精一杯だった。
だが今日は違う。
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源太:
> 「……ちょっとだけ、生活になってきたねぇ」
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炭が、静かに赤く熾っていた。




