第6話「しゃれんとんしゃーね」
焼き鳥の香りは、通りの奥まで流れていた。
屋台の前には、いつの間にか人だかりが出来始めている。
昨日の男。
市場の商人らしき女。
子供までいる。
全員、炭火を見つめていた。
---
源太:
> 「営業しよる気分になってきたねぇ」
---
男――白い外套の剣士は、周囲を警戒するように眺めている。
人気者というより、恐れられている空気だった。
---
源太は次の串を焼きながら、ふと思い出したように口を開く。
---
源太:
> 「そういや名前聞いとらんやった。」
> 「ホワットユアネーム?」
---
男:
> “My name?” (名前か?)
---
源太:
> 「イエス!」
---
男:
> “James.” (ジェームスだ)
---
源太:
> 「ジェームス?」
---
男は頷く。
---
源太:
> 「ジェームスディーンごたるね」
---
ジェームス:
> “…Who?” (……誰だ?)
---
源太:
> 「知らんか〜」
---
当然だった。
だが源太は少し楽しそうだった。
---
ジェームスは焼き鳥をもう一本受け取る。
今度は迷いなく口へ運んだ。
---
源太:
> 「んで、ここ何て街なん?」
---
ジェームスは首を傾げる。
源太は身振りを混ぜながら英語を並べた。
---
源太:
> 「ワットネーム…… ディスシティー?」
---
ジェームス:
> “The name of this city?” (この街の名前か?)
---
源太:
> 「お、それたい」
---
ジェームス:
> “Firenze.” (フィレンツェだ)
---
源太:
> 「フィレンツェ?」
---
聞いた瞬間、少し表情が変わる。
---
源太:
> 「アイノウ!!知っとるばい」
---
ジェームス:
> “…Really?” (……知ってるのか?)
---
源太:
> 「しゃれとるとこやろ? アート、ベリーグッド」
---
数秒の沈黙。
---
そしてジェームスは、初めて少し笑った。
---
ジェームス:
> “Your English is terrible.” (お前の英語、ひどいな)
---
源太:
> 「なんか俺の英語バカにされとることはわかる。通じとるけんよかろうもん」
---
屋台の前にいた客たちは、二人のやり取りを不思議そうに見ている。
言葉は分からない。
だが空気は少し柔らかくなっていた。
---
その時。
遠くで鐘が鳴った。
ゴォン……ゴォン……
---
ジェームスの表情が少しだけ変わる。
---
源太:
> 「なんね?」
---
ジェームスは通りの奥を見る。
石造りの大きな建物。
尖塔。
ステンドグラス。
---
教会だった。
---
ジェームス:
> “Church bells.” (教会の鐘だ)
---
源太:
> 「チャーチ?」
---
ジェームス:
> “The city is protected.” (この街は守られている)
---
源太は首を傾げる。
---
ジェームス:
> “Holy water keeps small monsters away.” (聖水が小さい魔物を遠ざけている)
---
源太:
> 「ホーリーウォーター?……聖水ね?」
---
ジェームスは頷いた。
---
ジェームス:
> “Inside the city is mostly safe. Outside is different.” (街の中は比較的安全だ。 外は違う)
源太:
>「インサイドセーフ…アウトサイドディファレント…あぁ!街の中は安全やけど外は違うってことね!」
---
そこで源太は思い出す。
市場で襲ってきた、あの黒い化け物。
---
源太:
> 「マーケットに出たモンスターは?」
---
ジェームス:
> “The market is too large. Holy water there is weak.” (市場は広すぎる。 あそこは聖水の力が弱い)
源太
>「トゥーラージ…ウィーク。大きすぎるから弱い。」
---
虫除けみたいなものか。
源太はなんとなく理解した。
---
源太:
> 「なるほどねぇ……」
---
炭がパチ、と弾ける。
---
異世界の理屈はまだよく分からない。
だが。
“安全な場所”と“危ない場所”がある。
それだけは理解できた。
---
そして屋台の前には、また客が増えていた。
---
> “Buono!” (うまい!)
> “Che profumo…!” (なんていい香りだ……!)
---
腹を空かせた人間の顔は、どこの世界でも同じだった。
---
源太は小さく笑う。
炭を整え、次の串を鉄板へ置いた。
---
ジュゥゥ……
---
異世界フィレンツェでの、二日目の営業が始まろうとしていた。




