第27話「もう一杯たい」
夜。
宿前の屋台には、長い列が出来ていた。
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“Birra fredda!” (冷えたビールだ!)
“Bicchiere di vetro!” (硝子の杯だぞ!)
“Roc Bird! Solo oggi!” (ロック鳥は今日だけだ!)
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ざわざわ。
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屋台の前では、源太が鉄板を動かしている。
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ジュゥゥゥ――。
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卵の焼ける音。
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甘酸っぱいラズベリーの香り。
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そして、鉄板で焼ける肉の匂い。
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通りを歩いていた男が、小さく呟いた。
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男:
> “Madonna… che profumo…” (なんだこの匂いは……)
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源太:
> 「ほら、熱かうちたい」
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木皿へ置かれた、黄色い卵の塊。
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源太は木匙で中央を割る。
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ふわ。
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中から現れたのは、赤く炒められた刻みパスタだった。
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男:
> “…Pasta tagliata?” (刻んだパスタだと?)
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源太:
> 「ロック鳥のなんちゃってオムライスたい」
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男は恐る恐る口へ運ぶ。
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最初に来たのは、卵の柔らかさだった。
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ふわり。
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その直後。
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甘酸っぱいラズベリー。
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ワインビネガーの香り。
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そして。
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細かく刻まれたロック鳥肉の脂。
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男の目が見開かれる。
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男:
> “…!!”
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さらに噛む。
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赤いソースが絡んだ刻みパスタが、もちもちと跳ね返った。
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鉄板で炒めた香ばしさが、口いっぱいに広がる。
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男:
> “…Buono…” (美味い……)
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周囲の客たちが、身を乗り出した。
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“Com’è!?” (どうだ!?)
“È buono!?” (美味いのか!?)
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男は答えない。
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無言で食べ続ける。
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そして。
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男:
> “…Molto buono.” (すごく美味い)
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一気にざわめきが広がった。
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“Anch’io!” (俺も!)
“Qui! Qui!” (こっちだ!)
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ロジャーは、屋台横でニヤニヤ笑っていた。
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ロジャー:
> “I told you.” (言っただろ)
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その横では、別の客がズリ串をかじっていた。
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コリッ。
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独特の弾力。
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だが硬くない。
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噛むたび、脂と炭火の香りが溢れ出す。
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客:
> “Che parte è questa?” (どこの部位だ?)
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源太:
> 「ロック鳥のズリたい」
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当然、客には伝わっていない。
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だが。
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客は無言で、もう一本串を取った。
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その時。
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ブシュッ――。
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生ビールが注がれる。
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黄金色。
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細かい泡。
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冷えた水滴が、ガラスジョッキを滑り落ちた。
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客の一人が、恐る恐る触れる。
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ひやっ。
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客:
> “…Fredda.” (冷たい……)
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ロジャー:
> “Drink.” (飲め)
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男は一口飲む。
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ごくっ。
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その瞬間。
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男:
> “…AAAAAH!!”
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周囲が驚く。
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男:
> “Perché è fredda!?” (なんで冷たいんだ!?)
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源太:
> 「企業秘密たい」
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喉を通る冷たいビール。
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脂を、一気に流していく。
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男は、無言でジョッキを掲げた。
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男:
> “Ancora!!” (もう一杯!!)
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“Anch’io!” (俺も!)
“Birra!” (ビール!)
“Birra fredda!!” (冷えたビールくれ!!)
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一気に声が飛び交う。
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源太は汗を拭いながら、鉄板へ卵を流した。
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ジュワァァァ――。
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ラズベリーソースの香り。
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炭火の煙。
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笑い声。
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ガラスジョッキがぶつかる音。
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カンッ。
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源太は、その音を聞きながら小さく笑った。
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源太:
> 「これが屋台たい」




