第3話「なんかおる」
炭の火は、朝になってもまだ少し熱を残していた。
黒田源太は鉄板の前に立ちながら、小さく息を吐く。
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源太:
> 「電気はなか。 まぁ、炭があるだけマシたい」
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昨日の残りを取り出す。
玉ねぎ。
キノコ。
少しだけ残った肉。
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鉄板へ置く。
ジュゥゥ……
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静かな朝に、やけに音が響いた。
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源太:
> 「朝飯ぐらいは、ちゃんと食わんとね」
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焼き上がった串を一本取る。
軽く塩を振る。
昨夜、自分で作ったものと同じ味だ。
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一口。
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源太:
> 「……うん」
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少しだけ安心する。
味は変わっていない。
少なくとも、自分はまだ“いつもの自分”だった。
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食べ終えると、水筒を持って屋台の外へ出る。
昨日は暗くて分からなかった。
だから少し、この辺りを見て回ることにした。
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石畳の通り。
古い建物。
遠くに見える塔。
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「ほんとヨーロッパみたいやね……」
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歩きながら周囲を見る。
昨日より人通りは少ない。
だが、視線だけは感じる。
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異国の服装。
東洋人。
赤提灯の屋台。
目立たない訳がない。
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源太:
> 「まぁ、そら見るよね」
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小さく苦笑する。
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しばらく歩くと、街並みが少し開けた。
そこには市場のような場所があった。
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野菜。
魚。
肉。
見たことのない食材も並んでいる。
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源太は思わず近づく。
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「……これ、使えそうやね」
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細長いキノコのようなもの。
香草らしき葉。
干した実。
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料理人としての興味が先に動く。
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だが。
その時だった。
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市場の奥から、人の悲鳴が上がる。
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「……っ?」
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ざわめきが広がる。
人が逃げてくる。
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その向こう。
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四足の“何か”がいた。
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犬に似ている。
だが違う。
身体が異様に大きい。
口元から覗く牙。
背中には、黒い棘のような毛。
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そして何より。
目が獣のそれではなかった。
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源太:
> 「……なんかおる」
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その瞬間。
化け物の目が、こちらを向いた。
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源太:
> 「あっ」
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次の瞬間。
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地面を蹴る音。
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化け物が突っ込んでくる。
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源太:
> 「うおっ!?」
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反射的に後ろへ下がる。
だが速い。
距離が一気に縮まる。
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「やば――」
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その瞬間だった。
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銀色の光が横へ走る。
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ザンッ!!
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空気ごと裂くような音。
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次の瞬間。
化け物の身体が、真っ二つになっていた。
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石畳に血が飛ぶ。
周囲が静まり返る。
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源太は息を止めたまま、その光景を見る。
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ゆっくりと、一人の男が前へ出た。
長い剣。
白い外套。
金色の髪。
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男は剣についた血を払う。
そして流れるような動作で鞘へ戻した。
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カチン。
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静かな音。
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男は源太を見る。
青い目だった。
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男:
> “Are you hurt?”
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源太:
> 「……え?」
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聞き取れた。
今の言葉は分かった。
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源太:
> 「英語……?」




