第2話「電気の来とらんごたる」
黒田源太は、簡易ベッドの上で目を覚ました。
身体を起こすと、背中に鈍い痛みが残っている。
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源太:
> 「仮眠用やけん身体ん痛か〜……」
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寝袋をどけて、屋台の中を見回す。
赤提灯、調理台、炭、調味料箱。
昨日のままだ。
屋台はちゃんとそこにある。
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源太:
> 「……ここ、どこっちゃろうか?」
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小さく呟いて立ち上がる。
まずは火の確認。
それから水。
それが体に染みついた癖だった。
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冷蔵庫を開ける。
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ぬるい。
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一瞬、手が止まる。
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もう一度扉を閉じて、開ける。
変わらない。
ただ静かに、ぬるいままだった。
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源太は内部を見つめたあと、電源まわりに目をやる。
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スイッチを押す。
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反応はない。
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源太:
> 「……あれ」
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もう一度。
カチ、カチ。
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何も起きない。
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源太は外へ出る。
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空気は静かだった。
だが、見慣れたものがいくつも欠けている。
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電柱がない。
電線もない。
建物の並びも、どこか古い。
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源太:
> 「……ほんなこつ、ここ何処っちゃろ?」
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まだ断定はできない。
ただ、知っている街ではないことだけは分かる。
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屋台に戻る。
スマホを取り出す。
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画面は点く。
だが表示は変わらない。
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圏外。
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源太:
> 「……やっぱ圏外やん」
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しばらく見つめてから、スマホをポケットに戻す。
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ガスボンベを確認する。
まだ使える。
だが限りがある。
炭も同じだ。
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「考えても仕方なか」
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火を起こす準備を始める。
その途中、調理台の照明に目が止まる。
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源太:
> 「……これも電気やったか」
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スイッチを押す。
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光らない。
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源太は小さく息を吐く。
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源太:
> 「電気……来とらんとやね」
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沈黙。
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しばらく電源まわりを見つめていた源太は、ぽつりと呟いた。
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源太:
> 「……電気ば、借りれんとかね」
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その言葉を口にしてから、少し考える。
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源太:
> 「エレクトリックば……レントしてくれん?」
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当然、返事はない。
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源太は屋台を出る。
近くの建物の扉に目をつけた。
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「朝早かばってんここで聞いてみよ…」
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軽くノックする。
コン、コン。
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しばらくして扉が開く。
中から出てきた男が、怪訝そうにこちらを見る。
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源太は一拍おいてから口を開く。
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源太:
> 「エクスキューズミー」
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男:
> “?”
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源太:
> 「ゴメンばってん……」
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屋台の方向を指さす。
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源太:
> 「エレクトリックば……レントさせてくれんですか?」
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男は固まる。
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“Electric…?”
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意味が分からない顔。
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源太は両手で簡単にジェスチャーをする。
冷蔵庫の形を作り、スイッチを押す動作を見せる。
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源太:
> 「これば、冷やすとや」
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男:
> “……”
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沈黙。
完全に理解されていない。
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源太は軽く肩をすくめる。
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源太:
> 「やっぱ……通じんか」
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扉がゆっくり閉まる。
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源太はその場に立ったまま、空を見上げる。
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源太:
> 「まぁ……そうやろね」
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屋台へ戻る。
炭に火を入れる。
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パチ……パチ……
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小さな音が戻ってくる。
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源太:
> 「とりあえず、飯ば作るしかなかね」
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火が安定する。
鉄板の上に熱が戻る。
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この世界で生きるために必要なものが、少しずつ形を持ち始めていた。




