第22話「先ずは、グラウンドたい」
夜。
営業の終わった屋台に、炭の匂いだけが残っていた。
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源太は、棚から転がり落ちたそれを見つめている。
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小さな、しなびた芋。
表面から白い芽が伸びていた。
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ジェームス:
> “What is that?”
(なんだそれは?)
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源太:
> 「ポテートたい」
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発音だけ妙に良かった。
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ロジャー:
> “…Po-ta-to?”
(ポテート?)
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ロジャーは首を傾げる。
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ロジャー:
> “Never heard of it.”
(聞いたことないな)
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源太:
> 「……そう言えば、じゃがいも見らんね」
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マルコも覗き込む。
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マルコ:
> “Patata?”
(パタタ?)
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ロジャー:
> “No. Never seen one in markets.”
(いや、市場でも見たことない)
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源太は芽を指で触る。
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少し柔らかい。
だが、まだ生きている。
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その瞬間。
ふと、昔の景色が頭をよぎった。
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土の匂い。
畑。
しゃがみ込む祖母の背中。
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> 「芽の出た芋は捨てんよ」
> 「植えたら増えるけん」
源太:
> 「……あ」
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ロジャー:
> “…What?”
(なんだ?)
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源太は芽の出た芋を持ち上げる。
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源太:
> 「これメニーメニーになるばい」
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沈黙。
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ジェームス:
> “…From that?”
(それから?)
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源太:
> 「芽が出とるけんね」
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ロジャーは半信半疑で芋を見る。
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ロジャー:
> “…People in your country grow rocks?”
(お前の国では石を育てるのか?)
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源太:
> 「ポテートたい」
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ロジャー:
> “That explains nothing.”
(何の説明にもなってない)
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マルコが静かに言う。
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マルコ:
> “Ma il terreno…”
(だが、あの土地は……)
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孤児院の畑。
固い土。
乾いた表面。
育ちの悪い葉。
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源太:
> 「あの土じゃ厳しかね」
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ロジャー:
> “…Too hard.”
(硬かったな)
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源太は芋を見つめたまま呟く。
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源太:
> 「酸性なっとるかもしれん」
> 「栄養も足りんね」
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アントニオ:
> “Can it be fixed?”
(直せるのですか?)
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源太:
> 「どげんかせんと育たんね」
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屋台の横。
灰が入った木箱が置かれている。
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その隣には、野菜くず。
そして、昼間スープを取った後の豚骨。
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源太の視線が止まる。
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源太:
> 「……捨てよるもんば使えんかね」
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ロジャー:
> “…Waste?”
(ゴミを?)
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源太:
> 「灰も骨も、なんか使えそうったい」
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マルコは腕を組む。
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マルコ:
> “Fertilizer…”
(肥料か)
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ロジャーは少し考え込む。
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ロジャー:
> “…If that thing really grows well…”
(もし本当に育つなら……)
> “…Famines might lessen.”
(飢饉が減るかもしれん)
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源太:
> 「先ずは、グラウンドたい」
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ロジャー:
> “…You mean the soil?”
(土のことか?)
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源太:
> 「イエスグラウンド」
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炭が、小さく崩れる。
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足元では、スライムが静かに揺れていた。
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ぷる。




