第21話「騙されたと思って食べてみらんね」
宿の前。
いつものように、屋台の炭へ火が入る。
まだ朝の湿気が残っていた。
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源太:
> 「あん畑、やせとったね」
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炭をつつきながら、ぽつりと呟く。
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源太:
> 「酸性なっとるかもしれんばい」
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マルコは腕を組む。
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マルコ:
> “Troppo dura.”
(固すぎる)
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ロジャー:
> “…Nothing grew properly?”
(まともに育ってなかったな)
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源太:
> 「土が死んどる感じやったね」
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そこへ。
遠くから馬車の音が響く。
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ガタガタガタ――
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ジェームスが手綱を引きながら現れた。
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ジェームス:
> “Move.”
(開けろ)
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ロジャー:
> “…You brought another monster?”
(また魔物持ってきたのか?)
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荷台には、大きな鳥が積まれていた。
灰色の羽。
長い首。
鋭い嘴。
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その羽が、風もないのに微かに揺れる。
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マルコ:
> “Roc bird…”
(ロック鳥か)
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ロジャー:
> “…Seriously?”
(本気かよ)
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ジェームス:
> “Wind type.”
(風系だ)
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ジェームス:
> “When angry, they make storms.”
(暴れると暴風を起こす)
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源太は鳥を見上げる。
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源太:
> 「……食えると?」
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ロジャー:
> “…That’s your first question?”
(最初に聞くことがそれか?)
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源太は羽を触る。
固い。
だが鱗のような異常さはない。
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源太:
> 「親鳥みたいな感じやね」
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包丁が入る。
少し弾力がある。
だが十分捌ける硬さだった。
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源太:
> 「ちと固かね」
> 「つくねにするとよか」
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トントントントン――
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包丁で叩く音が響く。
刻まれた肉へ塩を振る。
刻み玉ねぎを混ぜる。
少し粘りが出るまで、手でこねた。
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ロジャー:
> “…You can turn anything into food.”
(お前、何でも料理にするな)
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源太:
> 「腹に入れば同じたい」
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炭火へ並べられる。
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ジュゥゥッ――。
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脂は少ない。
だが香ばしい匂いが立ち上がる。
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マルコ:
> “Buon odore.”
(いい匂いだ)
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その横で、源太は卵を持ち上げる。
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ロジャー:
> “…What now?”
(今度は何だ)
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カン、と殻を割る。
濃い黄身が器へ落ちた。
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源太:
> 「これにつけるったい」
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ロジャー:
> “…Raw?”
(生で?)
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アントニオ:
> “No fire?”
(火を通さないのですか?)
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源太:
> 「うまかけん」
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焼き上がったつくねを黄身へ落とす。
とろりと絡む。
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焼き上がったつくねを、源太が卵へくぐらせる。
黄身が熱で少しだけ白く濁った。
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ジェームスが一口かじる。
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表面は香ばしい。
だが中は意外なほど弾力があった。
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細かく刻まれた皮が、噛むたびに口の中ではじける。
じわっと脂が広がる。
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硬いだけじゃない。
噛むほど旨味が出る肉だった。
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炭火の香り。
玉ねぎの甘み。
そこへ卵黄の濃さが絡む。
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ジェームスの動きが止まる。
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ジェームス:
> “…Good.”
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ロジャーも続く。
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ロジャー:
> “…Wait.”
(待て)
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もう一口。
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ロジャー:
> “…Why is this better with raw egg?”
(なんで生卵でうまくなる?)
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源太:
> 「まろうなるったい」
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マルコは黙ったまま串を持つ。
肉汁ではない。
だが皮の脂と炭火の匂いが、妙に酒を欲しくさせた。
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マルコ:
> “…Buono.”
(うまい)
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屋台の足元。
スライムが、捌かれた羽へ近づいていく。
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ぷる。
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羽がゆっくり沈み込む。
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続けて、骨も飲み込んだ。
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その瞬間。
ふわり、と風が吹く。
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吊るしていた布が小さく揺れた。
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ロジャー:
> “…Wind?”
(風?)
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源太:
> 「今日は風強かね」
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誰も気にしていない。
スライムだけが、静かに揺れていた。
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夜。
営業も終わり、屋台の片付けが始まる。
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源太は棚の奥へ手を伸ばした。
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袋が落ちる。
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コロン。
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源太:
> 「ありゃ?」
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転がったのは、しなびたじゃがいもだった。
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表面から、芽が伸びている。
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源太:
> 「……芽が出とるばい」
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しばらく見つめる。
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そして。
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源太:
> 「……あっ」
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炭の火が、静かに消えていった。




