第18話「食べていかんね」
屋台の空気だけが、妙にいつも通りだった。
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スライムは源太の足元でぷるぷる揺れている。
アントニオだけが固まっていた。
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アントニオ:
> “Holy slime.” (聖なるスライムです)
> “No one has seen one for hundreds of years.” (もう何百年も発見されていません)
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源太:
> 「ホーリースライム?」
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アントニオはゆっくり頷く。
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アントニオ:
> “Some people call them Angel’s Tear.” (『天使の涙』と呼ぶ者もいます)
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ロジャーは眉をひそめる。
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ロジャー:
> “…That thing?” (……あれが?)
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スライム:
> ぷるん。
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源太:
> 「でも氷作るよ」
> 「メイクアイス」
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アントニオ:
> “…Ice?” (氷……?)
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アントニオは初めて困惑した顔を見せた。
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アントニオ:
> “I have never heard of that.” (そんな話は聞いたことがありません)
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マルコ:
> “Aspetta.” (待て)
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ロジャー:
> “…Seriously?” (……本気か?)
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アントニオはスライムを見つめたまま続ける。
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アントニオ:
> “Holy slimes only have holy water effects.” (ホーリースライムの性質は聖水効果だけです)
> “Monsters do not approach them.” (近くに魔物が寄り付きません)
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沈黙。
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マルコ:
> “Allora la fabbrica…” (じゃああの工房は……)
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源太:
> 「やけんスープ工房にモンスター出らんかったんやね」
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ロジャーがゆっくり振り返る。
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ロジャー:
> “…Wait.”
(……待て)
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アントニオ:
> “…Soup factory?” (……スープ工房?)
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源太:
> 「住んどったよ」
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アントニオが頭を抱えた。
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アントニオ:
> “…Madonna santa…” (なんてことだ……)
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だがその空気を、源太が普通に壊す。
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源太:
> 「ご苦労さんやね」
> 「サムシングイート?」
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アントニオ:
> “…What?” (……はい?)
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源太:
> 「腹減っとるやろ」
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炭火の上では串が焼けていた。
肉。
玉ねぎ。
そして、大きなマッシュルーム。
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アントニオは小さく首を振る。
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アントニオ:
> “It’s Friday.” (今日は金曜日です)
> “No meat.” (肉は食べません)
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源太:
> 「クリスチャンルール?」
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アントニオ:
> “…Something like that.” (……そんな感じです)
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源太は少し考え、玉ねぎ串を持ち上げた。
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源太:
> 「じゃあ今日はこれたい」
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炭火の上で、玉ねぎが音を立てる。
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ジュゥゥッ――。
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表面には焼き目。
醤油ダレが軽く焦げる。
香ばしい匂いが立ち上がった。
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アントニオは恐る恐る串を受け取る。
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一口。
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表面はカリッとしていた。
だが次の瞬間。
中から熱い汁がじゅわっと溢れる。
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濃い旨味。
炭火の香り。
醤油の塩気。
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肉は入っていない。
それでも満足感が強かった。
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アントニオ:
> “…Buono.” (……うまい)
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ロジャー:
> “…That’s the happiest face you’ve made.” (今が一番いい顔してるぞ)
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マルコは小さく笑う。
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マルコ:
> “Finalmente sembra umano.” (やっと人間っぽい顔したな)
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アントニオは無言でもう一口食べた。
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その横で。
スライムがぷるぷる揺れる。
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カラン。
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野菜の上に、小さな氷が落ちた。
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源太:
> 「便利かね〜」
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アントニオは、もう何も言えなかった。




