第17話「誰か来んさった」
昼前。
屋台の仕込みは、もう半分ほど終わっていた。
炭は赤くなり始め、串も並び始めている。
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ロジャーは樽を運びながら、通りの先を見る。
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ロジャー:
> “…Someone’s coming.” (……誰か来る)
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石畳の向こう。
黒い外套。
白い修道服。
そして、その後ろに鎧姿の男。
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マルコは目を細めた。
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マルコ:
> “Chiesa…” (教会か……)
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二人は屋台の前で止まる。
修道士の男が静かに頭を下げた。
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男:
> “Antonio.” (アントニオです)
源太:
> 「アントニオ?」
> 「闘魂ごたる名前やね」
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ロジャー:
> “…What?” (……何?)
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マルコ:
> “Non chiedere.” (聞くな)
男:
> “Church safety.” (教会の治安担当です)
“…Quella traduzione va davvero bene?” (……ホントにそんな英訳でいいのかな)
源太は串を返しながら頷く。
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源太:
> 「ああ…セーフティ」
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ロジャー:
> “…That’s the part he understood?” (そこだけ分かったのかよ)
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アントニオは苦笑いもせず続けた。
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アントニオ:
> “We heard unusual rumors.” (妙な噂を聞きまして)
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源太:
> 「クラーケンならもう売っとらんよ」
> 「ノークラーケンたい」
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騎士の男が一瞬だけ吹き出す。
だがアントニオは真顔のままだった。
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アントニオ:
> “…Not that.” (いえ、そこではありません)
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マルコは腕を組む。
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マルコ:
> “Allora cosa?” (じゃあ何だ?)
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アントニオは屋台を見る。
炭火。
串。
寸胴。
そして――氷。
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アントニオ:
> “A moving ice source.” (動く氷生成)
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ロジャー:
> “…You came all the way here for that?” (そんなことでわざわざ来たのか?)
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アントニオ:
> “If rumors spread, we confirm them.” (噂が広がれば確認します)
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源太は小さく頷いた。
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源太:
> 「ちゃんとしとるね」
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その時だった。
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ぐにょ。
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寸胴の裏から、青いスライムが顔を出す。
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ぷる、と揺れる。
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ロジャー:
> “…There it is.” (出た)
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マルコ:
> “Sta salutando.” (挨拶してるな……)
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アントニオの動きが止まる。
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騎士も言葉を失う。
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スライムは何も知らないまま、源太の足元へ寄っていく。
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源太:
> 「おー、起きたね」
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スライムはぷるぷる揺れながら、氷を一つ落とした。
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カラン。
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アントニオの顔色が変わる。
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アントニオ:
> “…Why is the ‘Angel’s Tear’ here…?” (なぜ『天使の涙』がここに……?)
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沈黙。
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ロジャー:
> “…The what?” (……何それ)
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マルコ:
> “Aspetta…” (待て……)
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源太は普通に答える。
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源太:
> 「スライムたい」
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アントニオは、初めて大きく動揺した。
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アントニオ:
> “…No.” (……違う)
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ゆっくり首を振る。
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アントニオ:
> “That is not a normal slime.” (それは普通のスライムではありません)
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スライムはぷるんと揺れる。
何も気にしていない。
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源太:
> 「氷ば作ってくれるよ」
> 「ベリーユースフルたい」
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騎士の男が小さく呟く。
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騎士:
“Impossibile…” (あり得ない……)
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その時。
炭火の上で、串から脂が落ちた。
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ジュゥゥッ――。
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源太:
> 「あ、串焦げる」
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屋台の空気だけが、妙にいつも通りだった。




