第13話「懐きんしゃった」
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ぴちゃ……
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小さな音。
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源太の手が止まる。
炭が爆ぜる音とは違う。
何かが、地面を這ったような音だった。
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グツグツ……
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夜の空き地。
いるのは、自分だけのはずだった。
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源太:
> 「……?」
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ゆっくり顔を上げる。
石壁の影。
そこに、何かがいた。
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ぷる……
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半透明。
丸い塊。
月明かりを受け、ぶよりと揺れている。
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源太:
> 「……なんやあれ」
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見たことがない。
動物じゃない。
人でもない。
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異世界。
その言葉が、急に現実味を帯びた。
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ぷる……
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それはゆっくりこちらへ近づいてくる。
音もなく。
這うように。
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源太:
> 「……魔物か」
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背筋が冷える。
ロジャーたちはもういない。
今ここには、自分しかいなかった。
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源太は周囲を見る。
武器になりそうな物はない。
包丁は屋台へ置いてきた。
炭。
石。
寸胴。
そして――
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足元。
山積みになった、出汁を取り終えた骨。
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源太:
> 「っ……!」
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反射だった。
骨を掴み、思い切り投げる。
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ブンッ!!
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ゴッ!!
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骨がスライムへ直撃する。
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ぴぎゃっ!?
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変な声が響いた。
スライムがひっくり返る。
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源太:
> 「うおっ!?」
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だが。
襲ってこない。
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ぷる……
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スライムは転がった骨へ近づく。
そして。
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ガリ……
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源太:
> 「……は?」
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ガリガリ……
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食べていた。
骨を。
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源太:
> 「食うんかい……」
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スライムは夢中で骨を齧っている。
威嚇もしない。
襲いもしない。
ただ、骨を食べているだけだった。
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源太はしばらく黙って、それを見つめた。
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源太:
> 「……犬みたいなやつやねぇ」
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ぷる。
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スライムが少し揺れる。
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源太:
> 「いや犬は骨こんな食い方せんか」
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夜風が吹く。
寸胴が静かに煮え続ける。
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グツグツ……
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スライムは骨を抱えるようにして齧っていた。
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源太:
> 「……変な世界たい」
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源太は、足元の骨を一本拾い上げる。
まだ少しだけ、髄の匂いが残っていた。
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源太:
> 「……もう一本食うか?」
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ぷる。
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スライムが反応する。
丸い身体が、わずかに揺れた。
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源太は骨を軽く放る。
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コトッ。
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スライムが近づく。
警戒しているのか、少しだけ動きが遅い。
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だが。
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ガリ……
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また食べ始めた。
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源太:
> 「食うねぇ……」
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ガリガリ……
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見ていると、なんだか怖さが薄れてくる。
最初は魔物だと思った。
襲われるかもしれないと思った。
だが実際は、鍋の残り骨を夢中で齧っているだけだった。
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源太:
> 「腹減っとったとね」
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ぷる。
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返事みたいに身体が揺れる。
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源太は炭を足す。
火が強くなる。
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ボゥッ……
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寸胴の蓋を少し開ける。
白い湯気が夜空へ流れていった。
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源太:
> 「まだまだ炊かんといかんけんね」
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グツグツ……
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豚骨の匂いが空き地へ広がる。
スライムはその匂いに引き寄せられるように、寸胴の近くまで寄ってきた。
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源太:
> 「熱かぞ」
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寸胴を軽く指差す。
スライムは言葉を理解したわけではないだろうが、鍋には触れなかった。
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代わりに。
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骨の横へ、ちょこんと居座った。
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源太:
> 「……居着く気かいな」
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ぷる。
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炭が爆ぜる。
夜はまだ長かった。




