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第3章 紫の糸の覚醒

第三章です。


絶望の中で追い詰められたカイト。

しかし、その極限状態の中で眠っていた力が目を覚まします。


そして彼の運命は大きく動き始めることになります。


それでは、第三章をお楽しみください。


アクマはゆっくりとカイトへ近づいてきた。


歪んだ身体を引きずるたび、黒い糸が煙のように皮膚から漏れ出している。


カイトの胸の傷口からは血が滴り落ちていた。


息をするだけで焼けるように痛い。


少し離れた木の枝の上では、クルミが足をぶらぶらと揺らしながら座っていた。


見ているだけ。


待っているだけ。


「立ちなさい」


気だるそうな声が響く。


カイトは歯を食いしばり、片膝をついた状態から無理やり立ち上がろうとした。


足が激しく震える。


その瞬間――


アクマの姿が消えた。


「なっ――!?」


カイトの目が見開かれる。


ドォンッ!!


次の瞬間、彼がかろうじて転がって回避した場所を巨大な爪が引き裂いた。


アクマは再び襲いかかる。


今度は避けきれない。


バギィッ!!


巨大な爪が腹部へ直撃した。


「ぐあぁっ!!」


カイトの身体は吹き飛ばされ、地面を何度も転がった末にようやく停止した。


呼吸ができない。


肺が潰れそうだった。


その時――


頭の中に笑い声が響く。


クラスメイトたちの嘲笑。


『ヒーロー? 本気で言ってるのか?』


『お前には無理だよ、カイト』


『もう諦めろよ』


カイトは虚ろな目で夜空を見上げた。


……やっぱり、あいつらの言う通りなのかもしれない。


俺には何もできない。


その時だった。


別の声が聞こえた。


優しくて。


暖かい声。


『あなたならヒーローになれるわ、カイト』


母の笑顔が脳裏に浮かぶ。


カイトの拳が震えながら握り締められた。


「……まだ、死ねるかよ」


彼は再び立ち上がる。


アクマが突進する。


避ける。


殴られる。


吹き飛ばされる。


また立ち上がる。


何度も。


何度も。


何度も。


倒れるたびに。


彼は立ち上がった。


だが――


ついに限界が訪く。


足から力が抜けた。


カイトは膝から崩れ落ちる。


もう身体は動かない。


その時――


見えた。


紫色に輝く糸。


それが右腕へ絡みついていく。


挿絵(By みてみん)


さらに右脚へ。


まるで生きた蔓のように巻き付き始めた。


空気が重くなる。


次の瞬間。


信じられない力が全身を駆け巡った。


血管の中で何かが爆発したような感覚。


アクマが咆哮する。


そして最後の突撃を仕掛けてきた。


だが。


カイトは動かない。


残された力の全てを拳へ集中させる。


そして――


拳を突き出した。


瞬間。


空気が砕けた。


轟音と共に紫色の衝撃波が荒野を駆け抜ける。


アクマの身体が停止した。


無数の亀裂が全身へ広がっていく。


パキッ――


パキパキパキッ――


そして。


全身を構成していた黒い糸が完全に崩壊した。


闇となって消えていく。


静寂。


荒野には風の音だけが残った。


カイトは荒い息を吐きながら立っていたが、すぐに片膝をつく。


クルミは腕を組んだ。


「弱いわね」


呆れたような声。


「時間がかかりすぎ」


彼女は大きくあくびをする。


「寝そうになったわ」


その時――


森のはるか上。


一本の枝の上に男が立っていた。


静かに。


全てを見下ろしながら。


その顔は闇に隠れて見えない。


「……面白い」


男は小さく呟く。


風が木々を揺らした。


そして次の瞬間。


男の姿は消えていた。


カイトは胸を押さえながら再び立ち上がる。


一歩進むたびに激痛が走る。


冷たい夜風が傷口を撫でていく。


夜空には無数の星が輝いていた。


足は重い。


呼吸も乱れている。


それでも――


彼は生きていた。


数十分後。


ようやくカイトは家へ辿り着いた。


玄関の鍵は閉まっている。


「……マジかよ」


彼は階段脇の植木鉢を動かした。


その下に隠されていた鍵を取り出す。


ドアを開け、静かに中へ入った。


今夜の家は妙に静かだった。


カイトは救急箱を開き、軟膏を取り出す。


しかし。


服をめくった瞬間――


彼は固まった。


「……は?」


胸の傷が消えかけていた。


残っているのは薄い傷跡だけ。


カイトは呆然と自分の身体を見つめる。


「なんだよ……これ……」


カイトは急いで服を着替えた。


戦いでボロボロになり、血まみれになっていたからだ。


その時――


食卓の上に一通の手紙が置かれていることに気付いた。


カイトはゆっくりとそれを手に取る。


――――――――――


カイトへ


急な用事で実家へ戻ることになった。


五日から七日ほどで帰る予定だ。


食事は台所に用意してある。


身体に気を付けること。


――祖父より


――――――――――


カイトは小さく息を吐いた。


「……今日のこと、話したかったんだけどな」


手紙を机に戻し、椅子へ腰を下ろす。


簡単に食事を準備し、ようやく食べ始めた。


その時――


「ごはぁぁぁん!!」


「うわぁっ!?」


カイトは椅子から飛び上がりそうになった。


いつの間にかクルミが食卓の横に立っている。


目を輝かせながら料理を見つめていた。


「ど、どこから出てきたんだ!?」


しかしクルミは完全に無視する。


視線は料理だけに向いていた。


カイトは震える指で彼女を指差す。


「ま、待て……お前まさか幽霊なのか!?」


「うわあああっ! 幽霊だぁぁぁ!!」


ゴンッ!!


「痛っ!?」


クルミの拳がカイトの頭に直撃した。


「幽霊が人を殴れるわけないでしょ。バカ」


「じゃあなんで勝手に家に入ってるんだよ!?」


クルミは当然のように席へ座った。


「まずはご飯」


「人の話を聞け!」


だが彼女はすでに食べ始めていた。


一杯。


二杯。


三杯。


料理が次々と消えていく。


カイトは呆然とその光景を眺めた。


「……お前、何年も食べてなかったのか?」


数分後。


食卓の料理は完全に消滅していた。


クルミは満足そうに背もたれへ身体を預ける。


「おいしかった」


カイトはゆっくりと空になった食卓を見る。


そして。


「……俺の飯は?」


クルミはぱちりと瞬きをした。


「あ」


カイトの額に青筋が浮かぶ。


「全部食べたよな!?」


クルミは頬杖をついた。


まるで反省していない。


カイトは彼女をじっと見つめる。


「……お前、何者なんだ?」


「最近の人間は質問が多いわね」


「その言い方、まるで年寄りみたいだな」


その瞬間。


クルミの表情が変わった。


「……今、何て言った?」


空気が一気に冷たくなる。


カイトは反射的に後ずさった。


「ま、待て――」


ブンッ!!


クルミの拳が飛んでくる。


カイトはギリギリで回避した。


「危なっ!? 何してるんだよ!」


「二度と言わないことね」


カイトは深いため息をつき、再び椅子へ座る。


「……分かったよ」


しばらく沈黙が流れた。


やがてカイトは自分の手を見る。


まだ微かに震えていた。


「……さっきの」


声が小さくなる。


「あれは何だったんだ?」


クルミは窓の外へ視線を向けた。


「さっきの弱いのはレベル2のアクマよ」


カイトの眉がぴくりと動く。


「……弱い?」


危うく殺されかけたんだぞ。


クルミは腕を組んだ。


「当然でしょ」


カイトはしばらく黙り込む。


そして尋ねた。


「アクマって何なんだ?」


クルミは淡々と答える。


「負の糸から生まれるアクマ」


「……は?」


カイトは言葉を失った。


窓の外に広がる街並みが急に違って見える。


暗く。


危険なものに。


カイトは再び彼女へ視線を向けた。


「負の糸って何なんだ?」


クルミは立ち上がると、そのままソファへ倒れ込んだ。


「質問が多い」


「はぁ!?」


「寝るから起こさないで」


カイトは勢いよく立ち上がる。


「待て待て待て!」


慌てて追いかけた。


「なんで勝手に俺の家で寝るんだよ!?」


「ちゃんと説明しろ!」


「糸って何なんだ!?」


「なんで俺は力を使えたんだ!?」


「教えろ!」


クルミは毛布を引っ張り上げる。


「明日の朝に教える」


「はぁぁぁぁ!?」


カイトは頭を抱えた。


「本当に面倒なやつだな……」


クルミは静かに目を閉じる。


そして――


まるで独り言のように呟いた。


「……本当に、みんな忘れてしまったのね……」


その頃。


カイトは窓際に立ち、静かな街を見下ろしていた。


遠くでは車が走っている。


人々は笑い合っている。


家々の灯りは暖かく輝いていた。


どこにでもある平和な夜。


だが――


その闇のどこかには。


怪物たちが存在している。


カイトはゆっくりと拳を握り締めた。


そして夜空を見上げる。


「……この世界で、一体何が起きてるんだ?」


その答えを知る者は、まだ誰もいなかった。



第三章を読んでいただき、ありがとうございます!


ついにカイトの中で紫の糸が目覚めました。

しかし、これは始まりに過ぎません。


アクマとは何なのか。

糸とは何なのか。

そしてクルミの正体とは――。


次回から物語の世界観がさらに広がっていきます。


面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価をしていただけると嬉しいです!


それでは次の第四章でお会いしましょう。


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