八目大黒カラス
「な、なんだ? どうなってるんだ?」
順調に木登りを続けていたと思ったら、急に視界がグルグルと回り、僕は空に浮いていた。
びゅうびゅうと風を切る音が聞こえる。
明らかに木登りをしているときに聞こえるべき音ではない。
僕は地面からはるか上空を高速で移動していた。
「やばい。なんだよこいつは」
しばしの混乱の後、ようやく僕は自分の身に起きたことを理解した。
――動けない!?
大きな鳥型のモンスターの脚によって僕の胴体ががっちりと掴まれた状態で、空を移動している。
僕を掴んでいる鳥はまるでカラスの化け物だ。
僕の体の数倍は大きく、鋭い爪の脚と嘴、そして漆黒の羽毛が目に留まる。
だが、それ以上に異彩を放つのはこの大黒カラスの目だ。
目が八つもある。
掴まれたまま声をあげた僕へ、そいつが頭を向けてくる。
その鋭い嘴の上にギラリと光る八つの目があった。
やばすぎる。
見た瞬間理解した。
こいつは僕を食べる気だ。
全身のフォルムが、肉食の獰猛なモンスターであると物語っている。
このままじゃまずい。
なぜその場で食べられなかったのかはわからないが、明らかに絶体絶命のピンチだ。
「離せ、この野郎!!」
僕は背中へと手を回し、そこに持っていたマイスコップを掴んで振り回す。
僕の胴体をがっちりとつかんでいる八目大黒カラスの脚に向かってスコップの先を叩きつける。
だが、効果はない。
胴体を掴まれてしまっているので完全に手の力だけで振り回したスコップは巨大なカラスのモンスターには傷一つつけられなかった。
「カアァァァ!」
だが、その無意味な攻撃でも八目大黒カラスを怒らせるには十分だったらしい。
捕まえた獲物が反抗してきたことにわずらわしさを感じたのか、空を飛びながら大きく鳴き、締め付けをさらに強めた。
グググっと僕の胴体がカラスの脚に締め上げられて、胃の内容物を吐き出してしまいそうになった。
もはやこれまでか。
さすがにここから脱出する術は僕にはない。
どうしたらいいかすらも思いつかない状態で、僕は自身の死を強烈に認識した。
これから先に起こるであろう未来がありありと想像できる。
僕はこのまま胴体をねじ切られてしまい、きっと巣に持ち帰られてこの八目大黒カラスの雛の餌にでもなるんだろう。
その時に意識がなければいいな。
生きたまま食べられるようなのは考えただけでも恐ろしい。
そんなふうに僕があきらめの境地に達していた時だ。
僕と違い、全く諦めてはいなかったスーちゃんが反撃に出た。
というか、きっとスーちゃんは僕のことを守っていてくれたんだろう。
こんなクソでかカラスに胴体を握られているのに、吐きそうになる程度で済んでいるのがおかしい。
僕の胴体がちぎれないようにスーちゃんがスライムスーツで守っていてくれたのだ。
だけど、もう無理だ。
ここまでだ――そう思った、その瞬間だった。
スライムスーツが変形して反撃へと移る。
僕の体を覆っていた透明なスーちゃんの体が膨張し、僕を掴んでいる八目大黒カラスごと包み込んでしまった。
だが、僕の時とは明らかに違った。
僕の体を覆った時は僕の動きをサポートするためのものだった。
しかし、八目大黒カラスの体を覆ったスーちゃんは、カラスの動きを妨げる。
「ウ、ウオオオォォォォ!!! 落ちてる。落ちてるよ、スーちゃん!?」
巨大な漆黒の八目大黒カラスの全身へとスライムの体がまとわりつき、その翼の動きを封じ込めた。
結果、起こったのは飛行能力の喪失だ。
八目大黒カラスは空を飛ぶことができなくなり、そして、僕を掴んだまま落下する。
僕はカラスに掴まれたまま、上空からはるか下の地面へと叩きつけられた。
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