逃げ場
あれはいったいなんなんだ?
遠すぎてちゃんと見ることはできないけれど、とてつもなく巨大なモンスターが二匹――互いに争っている。
一つは空を飛んでいるように見えるけれど、鳥のようには見えないし、羽もなさそうだ。
正体はわからないが、巨大な岩の塊のようなものが宙に浮き、移動しながら魔法攻撃を放っている。
それに対して、もう一匹は蛇っぽいモンスターか?
いや、蛇の体に羽も生えているように見えるからもしかしたら龍なのかもしれない。
西洋風のドラゴンではなく、東洋の龍に近い。
地平線の彼方にいるはずなのに視認できる。
それだけで、その異常な大きさがわかる。
羽の生えた蛇のような龍が宙に浮く岩に向かって攻撃を行う。
噛みつきや体当たり、あるいは尻尾のたたきつけや巻きつき攻撃みたいなことを繰り返す。
それに対し、岩の空中要塞のような存在がが魔法で出した岩の弾丸みたいなものを飛ばして攻撃する。
双方に攻撃は当たっているように見えるのだけれど、そんなものは意に介さず、互いに反撃を繰り返す。
ただ、足を止めての殴り合いではなく、それぞれが自分の得意な間合いを確保しようと動いているんだろう。
遠すぎて、そういうのは視認できないのだけれど。
だが、その余波がここまで来た。
雷は、光のあとから音が届く。
多分、これも同じような現象なんだと思う。
目で見えていた光景から遅れて遠く離れた僕のところまで音が届く。
これは超巨大なモンスターが攻撃し合い、互いの体に攻撃がぶつかった衝撃音だ。
それが体を震わせ、空気の振動となって押し寄せてきた。
遅れてきたそれは、音というより“暴力”だった。
立っていられない。
あまりの轟音と同時に、空気のハンマーで全身を叩かれたような衝撃が走る。
だけど、これは多分始まりに過ぎない。
視認しただけでもあの怪獣たちは何度も何度も攻撃を繰り返していた。
この衝撃がこの一回だけで終わらないのは確実だ。
おそらく、この余波を察してモンスターたちも逃げ出したのだろう。
きっと、この草原にいるだけで被害を受ける。
だからモンスターは怪獣たちの戦いが始まるのを察知して逃げるように動き始めた。
ならば、僕はどうしたらいい?
どこに逃げる?
どうやって逃げる?
無理だ。
あれから逃げられる生き物なんて、この世界にいるのか?
この場には全周囲に地平線が見える草原が広がっているのだ。
走って逃げたところで逃げ切れるものじゃない。
少なくとも、音速で走れるくらいでなければ逃げきれない。
そんなことはできっこない。
かといって、この草原には隠れる場所もない。
遠くで木が生えている場所もあるけれど、あの木の陰に隠れたところで助かるかは疑問だ。
……絶望だ。
なんでこんなことになったんだ。
さっきまでは助けを求めつつも遭難したときの基本的な行動としてその場で待機していた。
その時は危険なモンスターの姿も見えずにわりと楽観的な気すらし始めていたのに。
だからこそ、のんきに穴なんか掘っていられた。
……穴?
そこで僕は気が付いた。
僕が今立っている場所は遮蔽物の何もない草原だ。
逃げも隠れもする場所はない。
が、唯一の隠れる場所があった。
それは僕の後方にある小さな穴だ。
遮蔽物がないけれど、穴の中に入れば少なくとも音の衝撃が直撃するリスクは減らせるんじゃないだろうか。
実際にそれが可能かどうかはわからない。
振動が穴に入った程度で防げる保証なんてどこにもない。
だけど、なにもしないよりはずっといい。
僕は迷わず、自分で掘った穴に飛び込んだ。
怪獣たちの戦闘による余波から身を守るために。
少しでも命をつなぐために、さらに穴を掘る。
下に掘っても無意味だ。
そこは水が出てくるだけだ。
なので、僕は縦に掘った穴の底から地下道を掘るように、横穴を掘り始めた。
指先の感覚がなくなる。
それでも止められない。
止まれば――死ぬ。
自分の身を隠すための避難所を作るために、大きくなる音に身を縮めながら、それでも一心不乱に掘り続けた。
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