不安な心
やばい、やばい、やばい。
なにがやばいって、僕はダンジョンで穴掘りをしていても、探索者ではないってことだ。
探索者とはダンジョンに入り、魔物などとも戦いながら未知の物品を持ち帰る人たちのことだ。
そういう人たちにとって、ダンジョンは歩き慣れた場所かもしれない。
だけど、僕は違う。
人を見つけたら襲い掛かろうとするモンスターと戦ったこともなければ、階層によって環境が変わるダンジョンの探索なんて、したこともない。
つまり、ダンジョンの歩き方を、僕は全く知らない。
ここから一人で帰れる気なんて、まったくしない。
「お、落ち着け。まずは、えっと、そうだ、状況確認だ。スマホで連絡はとれないかな?」
喉が渇く。
手が、わずかに震えている。
自分の呼吸だけがやけに大きく聞こえる。
慌てる心を落ち着かせるために、大きく深呼吸する。
そのまま、改めて超集中を行い、気分を落ち着かせた。
突然の事態に不安が隠せないけれど、それでも少しだけ落ち着きを取り戻すことができた僕は、ここから帰るために行動を開始する。
自分のズボンのポケットに入っていたスマホをみる。
電波はなし。
通話もできなければ、インターネットも見られないし、GPSにも反応なし。
ただ、バッテリーだけは朝一番ということもあり十分に残っている。
スマホのついでに自分の持ち物もチェックした。
ダンジョンに開いた漆黒の穴に落ちてしまった時に持っていたスコップは今もまだ僕の手にある。
また、ちょうど休憩しようと思っていたこともあって、穴に落ちる直前に背負っていたリュックもあるのはうれしい誤算だった。
リュックの中には水が入ったペットボトルやダンジョンバーが詰め込まれている。
ただ、穴掘り中にあって今はないものもある。
それは手押し車や土嚢袋だ。
手に持っていなかったせいか、手押し車や土嚢袋は見当たらない。
荷物の確認が終わり、改めて周囲を見回す。
見晴らしのいい平原。
上を見ると晴れた空。
遠くには木が生えている場所もある。
だけど、僕が落ちた穴はどこにも見当たらない。
「だれかー、いませんかー! 穴に落ちてここに取り残されています。助けてください!!」
それでも一縷の望みにすがって、僕は声を上げた。
それは、ダンジョンの入り口でダンジョンへと出入りする探索者を監視する監視員のおじさんに僕の声が聞こえないかを期待したものだった。
確か名前は金剛寺さんだったっけ。
ダンジョンの入り口近くで壁に穴を掘る中学生の僕にほかの探索者から絡まれたりしたときには声をあげろと言ってくれた人物がいる。
この状況で聞こえるかどうかはわからないけれど、万が一にも声が届けば助けに来てくれるかもしれない。
そんな淡い期待を胸に、僕は声をあげ続けた。
だが、現実は非情だった。
声が、やけに軽く空に吸い込まれていく。
返ってくるのは、何もない沈黙だけだった。
僕の声は誰にも届くことなく、待てど暮らせど、助けは一向に来なかった。
……どうしよう。
どうすればいい。
これ以上、声をあげるのは危険だ。
今は周囲に気配はないけれど、実際にはいつどこでモンスターに襲われるかわからない。
一度は取り戻した落ち着いた心が再び不安一色へと塗り替えられていく。
不安が限界まで膨れ上がり、とうとう僕は現実逃避するようになってしまった。
僕はこんな状況で気を紛らわせようと、気づけば、草原の地面をスコップで掘り始めていた。
何もできないのが怖かった。
だから――掘る。
それしか、できないから。
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