勧誘
「掃除の仕事を依頼するってそんなに高いんだね。びっくりした」
おしゃれなカフェで、渚と話し込む。
僕は渚の仕事である清掃業について興味津々だ。
今は、渚が話してくれた若い女性が借りていた小さな賃貸のお部屋がゴミのミルフィーユ部屋になってしまい、それを片づける費用について聞いて驚いていた。
狭い部屋なのに、その片付けだけで三十万円以上もかかるらしい。
もちろん、渚が足元を見てぼったくりしているわけではない。
むしろ、この金額はほかの同業他社と比較して安い金額にあたるらしい。
正直信じられない。
いくら片付けが大変になったからといって、それをほかの人にしてもらうのに数十万円も出すことになるのであれば、僕だったら自分で頑張ろうと考えそうだ。
実際、そう考える人は多いらしい。
だが、実際に仕事の依頼がくるのは、そうした人たちが自力では無理だと判断した後だ。
たとえ高額でも頼むしかないと思い知ることになるらしい。
「ってことは、渚はほかよりも安く仕事を受けているんだね。大変じゃないの?」
「普通ならそうだよ。だけど、僕の会社では他社がやっていない片付け方法があるから安上がりにできるんだ。これ、実は悠馬君のおかげなんだよ」
「僕の? 僕はなにもしていないよ。そもそも、渚がそんな仕事をしていることも知らなかったし、絶対に関係ないでしょ」
「ところがそうでもないんだ。実は僕は掃除にダンジョンでテイムしたスライムを使っているんだ。昔佑馬君とダンジョンに入って、妹の楓がスライムをテイムしたことがあったのを覚えているかな? スライムが自分の部屋の掃除をしてくれて助かるって佑馬君が雑談しているときに言っていたことが、僕の仕事の原点なんだよ」
「あ、そうか。そういえば渚の妹の楓ちゃんはスライムのスイちゃんを連れて帰っていたんだっけ。ってことは、渚の会社で楓ちゃんも働いているの?」
「うん。スライムなら、現場に一晩置いておけば部屋の中のゴミを食べてくれるからね。スライムにすればご飯を食べていることになるし、僕からすれば人件費がかからない分、他より安く請けられるんだ」
そっか。
そう言われれば、僕も自分の部屋や家の掃除をスーちゃんに任せている。
僕の場合は基本的にホコリやシミ、油汚れなんかを食べてもらってきれいな状態を維持してもらうことのほうが多い。
でも、ゴミ箱の中のゴミも食べてくれるんだから、ゴミ屋敷になった部屋のゴミを食べてもらうことはできるはずだ。
スーちゃんがいれば、人件費が丸ごと浮くってことか。
けど、そんなことは渚に言われるまで僕は想像もしたことがなかった。
というか、掃除がそんな高額の報酬を得られる仕事になるなんてことに気が付きもしなかっただろう。
きっかけは確かに僕だったのかもしれない。
だけど、それを仕事としてきっちりと成立させている渚がやっぱりすごいと思う。
「佑馬君って今は家で勉強をしているんだよね? もし時間があるなら、一度僕の会社の仕事を見学してみない?」
「え、いいの? 面白そう」
「もちろん、大歓迎だよ。というか、スライムのスーちゃんだったっけ? 佑馬君のスライムが今もいるのなら、できればアルバイトもお願いしたいくらいだよ」
「バイトかー。でも僕中学生だしバイトはできないんじゃないかな?」
「あ、佑馬君の感覚だとそうなるのか。でも、戸籍上はもう成人年齢を超えているからバイトはできると思うよ」
……そっか。
今の僕って二十三歳だった。
ってことは、普通に仕事ができる年齢になるのか。
勉強も大事だけど――
こういう現場を知るのも、悪くない気がする。
どうしよう。
働いてみたいかもしれない。
そんなわけで僕は、渚の会社の現場を一度見学してみることにした。
ダンジョンとは違うけど――
ちょっとだけ、未知の場所に踏み込むような気分だった。
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