掃除の仕事
「清掃ってお掃除をするってことでしょ? 誰かの家に行ってかわりに掃除をするとかそういうお仕事なの?」
「そうだね。大きな枠組みで言えばそんな感じかな。だけど、僕が主に請け負っているのはいわゆるゴミ屋敷の後始末だね」
「ゴミ屋敷? それってたまにテレビとかでやってる家の中がゴミであふれかえっているところってこと?」
「うん。人が住んでいるのにゴミがたまりにたまってしまった家っていうのは意外と多いんだよ。で、そういうケースはだいたいの場合、住んでいる本人だけじゃなくて、その家族とかまわりの人では片付けが不可能なくらいのゴミの量になっているんだ。そういうものをかわりに処理する仕事があって、僕の会社はそういう人たちを手助けするために動いているんだよ」
へぇ、と感心しながら渚の話を聞く。
僕と久しぶりに再会した渚だが、僕のほうはダンジョンで迷子なり、気づいたら消失による強制排出に巻き込まれて外に出ていた――話せるのはそれだけだ。
それ以上は詳しく説明する気もないし、どうせ荒唐無稽だと思われるだけだし、話す気にもなれなかった。
というわけで、簡単に自分の状況を説明し、今は試験に向けての勉強をしているという現状の話が主になった。
そして、その流れから渚の今の仕事の話につながる。
渚は大学に通っている間からいろいろと仕事をしていたみたいだ。
そういえば、渚の家ってあんまり裕福じゃないから大変だとか言っていたな。
アイスをおごっただけでも嬉しそうにしていたのを思い出す。
だから、いろんなバイトとかをしていたんだろう。
だが、渚は人に雇われて仕事をするのではなく、自分で働く選択をしたみたいだ。
会社を作って、その社長になって自分で仕事をする。
僕がその話を聞いてすごいすごいと言っていたら、そんなことはないよと謙遜してくる。
どうやら、会社といっても大きな会社ではなく個人でやっているものみたいだ。
どっちにしろ、僕にはすごいことにしか思えないが、渚はまだまだこれからだという感じだ。
僕はあんまり働くということについては詳しくないけど、渚の話を聞いていると面白い。
どんなふうに仕事をしているというのもそうだけど、その仕事がどれだけ人の役に立つのかを、自信をもって語る渚の姿が格好いい。
最初に掃除の仕事と聞いたときにはもっと家の掃除みたいな一般的な掃除をイメージしていたけど、実際はまったく別物だった。
「写真見てみる? これがゴミがたまった家だよ。マンションにある一番小さな部屋って感じの1Kの部屋なんだけど、部屋の中だけじゃなくて風呂もトイレもキッチンも、そして玄関にもゴミが積み重なっているでしょ? 玄関を開けたら入るところはどこって思うんだけど、この状態でも人が住んでいるし、この家から仕事に行っていたんだよ」
「え? この状態で住んでるの? ここから仕事に行くってことは、ここで寝泊まりしているの?」
「もちろんそうだよ。寝泊まりだけじゃなくて食事もトイレもこの状態の家でするんだ。ゴミの上で生活して、食べ物はコンビニのお弁当を買って食べて、トイレはペットボトルにする。そして、そのゴミは片づけられないから、今まで自分が寝ていたゴミの上に重ねてそのまま生活する。だから、この小さな部屋はゴミであふれて僕が依頼を受けたときにはゴミの量が二トン以上になっていたんだ」
うっそだろ?
ゴミがミルフィーユみたいに上に積み重ねられて、そして押しつぶされて固まっている。
その上で衣食住をして仕事に行っていた人がいる。
渚に言われるまで、そんな状況は想像すらしたことがなかった。
だが、実在するらしい。
しかも、渚が言うにはここに住んでいたのは汚いおじさんじゃなくて二十代の若い女の人らしい。
仕事でパワハラされて精神的に追い詰められて自分の家の掃除もできなくなってきたそうだ。
それでも頑張って仕事には行くが、どんどんと溜まるゴミは片付けができず、その女性の両親が気が付いたときには、とんでもないことになっていたそうだ。
両親は離れて暮らしていて実家はゴミ屋敷じゃない。
なので、女性には仕事を辞めさせて家に戻っておいでと言ったが、それまで住んでいたこの1Kの部屋はきれいに片づけるように大家さんに言われたそうだ。
そして、お父さんお母さんが自分たちで片付けようとしたものの、玄関から家の中に入ることすらできずに途方に暮れることになった。
困り果てたご両親は、藁にもすがる思いで掃除屋さんを探し、渚の会社に依頼をしたのだという。
なるほど。
お掃除の仕事と聞くと簡単そうにも思えるけど、そういうエピソードを聞くと渚の言う「世のため人のための仕事」というのは、わかる気がする。
渚の仕事話が面白く、僕はその後も、引き込まれるように渚の話を聞き続けていた。
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