帰還
「おい、大丈夫か、少年? お、起きたか。怪我はないか? どこか痛いところはないか?」
ゆさゆさと体を揺らされる。
それまで沈んでいた意識がその振動で徐々に覚醒し、僕はまどろみの中から浮かび上がる。
誰だろう。
けれど、すごく久しぶりに人の声を聞いた気がする。
ダンジョンの中で迷子になってからスーちゃんがいたから僕は寂しくはなかった。
完全な孤独ではないことでなんとか正気を保てていたと思う。
しかし、僕のことを心配し話しかけてくれる男性の声を聞き、それがすごくうれしい。
温かさを感じた。
……男の声?
だれだ?
ダンジョンの中で誰かが近くにいたのだろうか?
いや、違う。
地下神殿と周囲の大空洞は崩壊したんじゃなかったか。
ここはどこだ?
意識が覚醒し始めると、記憶が一気にフラッシュバックしてくる。
あまりに同時にいろんなことが頭に浮かぶものだから、僕の脳は混乱状態だ。
そこでようやく、まだ目を閉じていたことに気づく。
まるで泣きすぎて、目やにで瞼がくっついたみたいに重い。
そんな瞼をゆっくりと開き、そして閉じる。
まぶしい。
目を開けたらめちゃくちゃまぶしかった。
光だ。
太陽の光が頭上にある。
あれってこんなにまぶしいものだったのか。
長い時間、ダンジョンの中で迷子になり、時には光のない地面の中で岩盤を掘り続けたりもしたうえに、地上らしきところに出てもダンジョンが映し出す偽りの空しか見ていなかった。
改めて、大量の光を体感し、その明るさと暖かさが僕の神経を刺激する。
「……こ、ここは?」
そう言いながら、もう一度目を開ける。
まぶしく輝く太陽と、その周りに浮かぶ雲。
そして、視界いっぱいに広がる青空が目に飛び込んでくる。
僕は地面の上にあおむけに寝転がり、天を向いている状態で寝ていたようだ。
そのことに気が付いたら、次に音が耳を刺激してきた。
「よかった。気が付いたんだな。もう大丈夫だ。ここは地上だ。……よし、見たところ怪我はなさそうだが、一応病院で診てもらったほうがいい。すぐに担架を持ってくるから、動かずにそのまま待っていてくれ」
僕に話しかけてくる男性の声。
その声だけではなく、周囲はいろんな物音がしている。
たくさんの人の足音が聞こえ、話し声もあちこちでしている。
僕以外にも「大丈夫か?」と声をかけられている人がいるみたいで、遠くではサイレンの音までしている。
まるで災害でも起きたかのようだ。
だけど、ここは間違いなくダンジョンの外、地上だ。
僕は帰ってきた。
ようやく、あの帰るべき方向すらも皆目見当もつかない状況から戻ってこられたんだ。
もう戻れないかもしれないと思っていた。
そんな場所から、僕は帰ってきた。
地上に戻ってこられたと理解した瞬間、安心したのか意識が再び落ちてしまった。
次に目を覚ましたとき、僕は知らない天井を見上げていた。
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