327.祖父母の優しさに包まれる旅
ぎりぎり堪えていた涙が溢れ、頬を伝った。嗚咽が漏れる。悲しくて寂しくて、零れる涙を乱暴に手の甲で拭った。ハンカチを取り出したら、さらに涙が止まらなくなりそうだ。ラファエルの様子に、老夫婦は見ない振りをした。
馬車に乗り込むまで、三人は堪えてた。きっと、今頃は見送ったネロとミロも泣いているだろう。揺れる馬車で、慰めを口にしようとしてエッカルトが口を開く。その瞬間、がたんと大きく揺れた。轍から落ちた車輪が、その振動を伝える。
「うぐっ……」
舌を噛んだエッカルトのうめき声と、眦に滲んだ痛み故の涙。苦笑いしたクラーラは、そっとハンカチを渡した。滞在中に仕上げた刺繍の花が美しく咲き誇る。花模様のハンカチで目を押さえ、エッカルトは震える息を吐いた。慰めるのは後にしよう。
今は好きなだけ悲しんで別れを惜しんだらいい。そんな考えで失敗を覆い隠し、エッカルトは窓の外へ視線を向ける。ずきずきと痛む舌が、まるで孫の痛みのようだった。同じ轍を踏まないクラーラも無言だったため、休憩地まで沈黙が広がる。
ようやく止まった馬車から降り、目の前の草原で体を解した。
「お祖父様とお祖母様は、ゼークトへ帰ってしまうのですよね」
また別れが続くと項垂れる孫に、二人は笑顔で否定した。
「隠居した身じゃ、娘夫婦の世話になろうかのぉ」
「ゼークトの社交界も、そろそろ私の手を離れてもいいと思うのよ」
ロイスナー公国に移り住むつもりで、シェンデル公爵家の家督を譲った。代替わりして身軽になった二人は、そのままゼークト王国へ残る道もある。もちろん、様々な面で頼られるだろう。外交や社交に、影響力の多大な二人だった。
「……えっと? 一緒に暮らせるの?」
遠回しな表現に、思わず確認してしまうラファエル。可愛い孫の頭を撫でたエッカルトは、大きく頷いた。クラーラも微笑んで肯定する。
「そうよ、引退したのですもの。ロイスナーの豊かな自然を楽しみながら、小さな家で暮らすのも素敵ね」
ほっとしたラファエルの笑顔に、まだ涙の筋が残っていた。刺繍した二枚目のハンカチを取り出し、クラーラが手渡す。お茶を飲んで一息ついたら、再び馬車に揺られた。王城を出た時の沈黙の重さが嘘のように、気持ちが前向きになる。
約束したんだから、絶対にまた会える。ネロとミロの訪問が無理なら、自分が出かければいい。ラファエルはそう考えながら、馬車の揺れに身を任せた。大きく揺れて頭をぶつけ、笑ったら舌を噛みそうになる。そんな荒れた街道も、少し行けば整えられていた。
カペル共和国を経由し、数日でゼークト王国に到達する。懐かしいロイスナーの山々が見える街で、ラファエルは最後の夜を迎えた。明日は家族に会える!




