310.巻き込まれた翌朝の羞恥
年齢差、わずか五歳。幼い頃ならともかく、この年齢になって苦に思う差でもあるまい。軽くそう考えていたイグナーツは、心底後悔していた。
昼過ぎまで別に過ごしたものの、呼びに来たラファエルと共に双子の私室へ出向く。案内の侍従が気の毒そうな顔をしていたのが記憶に残った。それもそのはず、ネロとミロはとにかく元気だった。ラファエルと同じ雰囲気の子を想像しただけに、手痛い思い違いだ。
「昨日と同じ条件? 簡単じゃん」
「ベッド、もう一つ運んで大きくしちゃおう」
ネロとミロの提案で、侍従数人がかりでベッドが追加される。双子用の広いベッドでも、さすがに四人は狭い。ベッドの追加は有難いのだが、なぜくっつけるのか。疑問を浮かべている間に、セットされてしまった。
まあ、寝るときに落ちない用心だろう。楽観的だった自分を蹴り飛ばしたい。
夕食は部屋に運ばれ、行儀よく並んで食べた。会話の内容も落ち着いており、国境線に関する議論は白熱したくらいだ。誘ってもらって良かったとまで思った。
呪われた王子扱いされていた環境から、ネロとミロには知識が足りないと考えたイグナーツは良い方向へ裏切られた。実際は叔父ローマンにより、かなり高度な教育が施されている。ラファエルは二度目ということもあり、『前回』に得た知識をいくつか披露した。
同年代の子達と変わらない高い水準の議論に、イグナーツは満足していた。
「では、失礼いたします」
侍従が部屋から下がり、扉の前に騎士が立つ。三カ国の王族が集う部屋となれば、窓の外や廊下全体に護衛が置かれる。三つの国から派遣された騎士達は、担当を決めて朝までの任務に就いた。
「よしっ! じゃあ行くぞ」
「うん」
ネロがにやりと笑い、ラファエルが応じる。そこからがイグナーツの予想を超えた夜の始まりだ。ベッドから降りなければいい。エッカルトが決めたルールを逆手に取り、追いかけっこが始まった。ベッドの上だからと寝転んでいれば、踏まれる危険がある。
一緒にはしゃぐには、イグナーツは大人過ぎた。年齢差もあるが、さすがに騎士達に声が筒抜けの状態で騒げない。苦笑いしてやり過ごそうとしたところ、巻き込まれた。転がされたイグナーツの上を飛び越えるミロ。ラファエルが続き、ネロも飛び越えて前転した。
ベッドのサイドテーブルに足がぶつかり大笑いする。窘めても聞かないし、逆に騒ぎに巻き込まれてイグナーツは吹っ切った。これは、あれだ……飲み会で素面でいる奴が馬鹿を見る。酔っ払いの面倒を押し付けられるくらいなら、自分も酔うのが正しい。
夜会での苦い記憶を思い出し、イグナーツは覚悟を決めた。今日は五歳年下に合わせて動く!
数時間後、朝まで騒いだネロとミロが寝落ちし、少し前に撃沈したラファエルの隣に転がる。三人の寝顔を見ながら、イグナーツは大きな欠伸をした。今日が帰る日でなくてよかった。馬車の中でいびきを掻くところだ。
途中で寝落ちして叩き起こされたイグナーツは、目の下の隈をどう誤魔化すか考えながら……ベッドに沈んだ。お昼を過ぎて扉を開いたイグナーツに、騎士達がにっこりと笑顔を向ける。全部知っているぞ、そう言われている気がして……目を逸らした。顔がカッと赤くなる。
もう二度と童心に返る遊びはしない。




