304.懸念か、すでに起きた現実か
せっかくだから一緒に寝よう、そんな双子の提案にラファエルは喜んだ。姉ガブリエルとも仲がよく、何度も一緒に眠ったことがある。だが一定の年齢になると、互いに遠慮するようになった。
周囲が注意したことも影響しているし、『前回』のガブリエルは王太子の婚約者だった。婚約者のいる貴族令嬢が、弟とはいえ異性と同室で休むのは問題がある。そう言われると反論できない。幼児と呼ばれる年齢だったなら別だが、自然と距離が出来た。
今回は同性なのだから問題ない、エッカルトやクラーラも太鼓判を押した。ただ、夜は決められた時間にベッドへ入ることが条件だ。どうせ寝ないで騒ぐだろう。それをやめさせるのは酷だとエッカルトは考えた。ならばベッドの中で過ごせばいい。
どこかに抜け道を作り、追い詰めすぎない。外交で学んだことの一つだ。
「わかりました」
しっかり目を見て答えた孫の成長に、エッカルトは笑顔で送り出した。護衛としてカールが同行し、部屋の扉の前で夜を明かす。久しぶりに夫婦だけになり、クラーラは夫の肩に頭を預けた。隣同士で座り、互いに寄り添って過ごす。
「孫のためにも、娘のためにも……早く移住したいわ」
「そうだな。わしらの残りの時間をすべて、あの子らに使いたい」
何もなく、今回しか知らない二人なら考えなかった。頻繁に遊びに来れる別邸に引っ越せばいい。しかし『前回』の話を知ってしまった。可愛い娘と立派な娘婿、可愛い孫二人が辿った運命を聞いたとき、二人の中で覚悟が決まる。
自分達の時間と伝手、影響力のすべてを活用する。あの子達が苦労しないよう、経験で得た知識のすべてを置いていこうと。
「……寝ると思うか?」
「いいえ、あなたもわかっているでしょうに」
ラファエルと双子王子を思い浮かべ、二人はくすくすと笑い合った。客間のある一角が賑やかなのは、カペル共和国の使者が明朝立つからだ。荷造りして積み込み、明日の挨拶に向けた手配を行う。扉を開ければ、喧騒はこの部屋にも届くだろう。
「アードラー王国の動きも警戒しないと」
「ふむ、顔見知りに声を掛けておくか」
クラーラの懸念は、アードラー王国の新興貴族の動きだった。『前回』に関わった古い貴族が処分された。新しく貴族位を得た者や陞爵された者は、現状に不満をもつはずだ。それが早いか遅いか、貴族の肩書きから想像した利が薄いのに、重い義務だけが課されていく。
国を興した直後なら、その苦労も厭わない。だが、成熟して腐った貴族を見慣れた目に、現状がどう映るのか。特権階級の人間を知り尽くした二人には、崩れ落ちる玉座が見えた。巻き込まれないために、どう動くか相談しながら様々な危険を潰していく。
ふと気づけば、窓の外は真っ赤な夕焼けに染まっていた。白い鳥が飛んでいく。その後ろから別の鳥も……見つめるクラーラが「綺麗で怖いわね」と呟いた。気の利いた返しが浮かばず、エッカルトは珍しく言葉を呑んだ。




